ファクタリング会社の側における法務 事故の対応、債権の回収、契約の管理及び法令の遵守

この記事の位置付け
ファクタリング会社の法務は、平時の契約の管理と法令の遵守を整える場面と、事故が生じた後に回収を進める場面とに分かれますので、次のとおり切り分けます。本ページは、事故の対応、債権の回収、契約の管理及び法令の遵守の全体を扱います。
ファクタリングを業として行う事業者の側においても、法務上の課題が数多く生じます。譲渡を受けた債権が実在しなかった場合の対応、同一の債権が二重に譲渡されていた場合の優劣、回収した資金が引き渡されない場合の対応、契約書の整備、取立ての態様に関する規律といった事項です。
本ページでは、ファクタリング会社の側における法務上の課題を、事故の対応、債権の回収、契約の管理、法令の遵守という4つの局面に分けて整理します。個別の事案における結果を保証するものではありません。
事故の対応
譲り受けた債権が実在しなかった場合、金額が過大であった場合、既に他へ譲渡されていた場合には、次の対応が問題となります。
第1に、事実関係の確定です。提出された資料、契約に至る過程の記録、売掛先への照会の結果を整理し、いつの時点で何が事実と異なっていたかを確定します。
第2に、民事上の請求です。表明及び保証の違反に基づく契約の解除、債権買取代金の返還、損害の賠償を検討します。期限の利益の喪失に関する条項の適用の有無を確認します。
第3に、保全の要否です。譲渡人の資産が散逸するおそれがある場合には、仮差押命令の申立てを検討します(民事保全法第20条第1項)。
第4に、刑事上の対応です。詐欺罪(刑法第246条第1項)、私文書偽造罪及び同行使罪(同法第159条第1項、第161条第1項)の成否を検討します。告訴を行うかどうかは、回収の見込みとの関係で判断することとなります。
第5に、売掛先への対応です。債権譲渡の通知を送付するかどうか、送付する場合の時期を判断します。通知は、回収の手段であると同時に、譲渡人の事業の継続に影響しますので、回収の総額に影響します。
債権の回収
第1に、対抗要件の確認です。債務者に対する対抗要件は、譲渡人による通知又は債務者の承諾です(民法第467条第1項)。第三者に対する対抗要件は、確定日付のある証書による通知若しくは承諾、又は債権譲渡登記です(同条第2項、動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律第4条第1項)。
第2に、二重譲渡の場合の優劣です。対抗要件を備えた時期の先後によって定まります。同時に到達した場合の取扱いについては、いずれの譲受人も債務者に対して全額の支払を求めることができるものとされています。
第3に、債務者の抗弁です。債務者は、対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができます(民法第468条第1項)。また、対抗要件具備時より前に取得した債権による相殺をもって対抗することができます(同法第469条第1項)。
第4に、譲渡制限の意思表示がされている場合です。譲受人が悪意又は重大な過失であるときは、債務者は履行を拒むことができます(同法第466条第3項)。この場合、相当の期間を定めて譲渡人への履行の催告をすることにより、履行を拒むことができなくなります(同条第4項)。
第5に、供託がされた場合です。債務者が債権者を確知することができないことを理由として供託をしたときは(同法第494条第2項)、還付請求権の帰属が問題となります。
契約の管理
第1に、表明及び保証の条項です。譲渡する債権が実在すること、金額に誤りがないこと、他に譲渡していないこと、譲渡を制限する意思表示がないこと、売掛先が反対債権を有していないことを対象とすることが一般です。
第2に、買戻し及び償還請求の条項です。事由の範囲の設定が、取引の性質の判断に影響します。売掛先の支払能力の欠如を事由とする場合には、回収不能の危険が譲渡人に残ることとなり、実質において金銭の貸付けであると判断される要素の1つとなります。
第3に、回収金の管理に関する条項です。分別して管理する義務を定めることにより、他の支払に充てられた場合の刑事上の責任が問題となり得ます。
第4に、債権譲渡の通知書の預託です。譲渡人の名義による通知書に署名押印を求め、保管する取扱いが広く行われています。送付の要件を契約書に明記することが望まれます。
第5に、審査の記録です。売掛先の信用の調査を行った記録を保存することは、取引の性質が争われた場合において、売買としての性質を裏付ける事情となります。
法令の遵守
ファクタリングは売掛債権の売買であり、金銭の貸付けではありませんので、貸金業法、利息制限法及び出資法の適用はありません。したがって、手数料の水準が高いことのみを理由として、これらの法令に違反するということにはなりません。もっとも、売買の形式が採られていても、その実質において金銭の貸付けと同視すべきであると判断された下級審裁判例がありますので、契約の内容及び運用の実態によっては、別途の検討を要します。
したがって、事業の設計に当たっては、回収不能の危険の所在、売掛先の信用の調査の実施、担保及び保証の徴求の要否、譲渡の対象の特定の程度、資金の授受の態様について、売買としての性質と整合する運用を確保することが重要です。
また、いわゆる給与ファクタリングについては、最高裁判所第三小法廷令和5年2月20日決定(刑集77巻2号13頁)が、貸金業法第2条第1項及び出資法第5条第3項にいう「貸付け」に当たる旨を判示しています。もっとも、これは、賃金は直接労働者に支払わなければならないものとされていること(労働基準法第24条第1項)から、譲受人が使用者に対して直接に支払を求めることが予定されていないという、給与債権に特有の事情を前提とする判断です。事業者が有する売掛債権を対象とする事業者向けのファクタリングとは事案を異にします。
取立ての態様については、貸金業法第21条第1項の適用はありませんが、脅迫罪(刑法第222条第1項)、強要罪(同法第223条第1項)、住居侵入罪(同法第130条)等の成否が問題となり得ます。担当者に対する社内の指導が必要です。
当事務所における取扱い
当事務所は、ファクタリングを利用する事業者の側のご相談を数多くお受けしてまいりました。その過程で、契約書の条項がどのように機能し、どの局面で紛争が生じるかについて、双方の立場からの知見を蓄積しています。
会社の側のご依頼としては、事故が生じた場合の対応、債権の回収、契約書の整備、社内の規程の作成、取立ての態様に関する指導、訴訟の追行を取り扱っています。
なお、利益が相反する場合には、ご依頼をお受けすることができません。ご相談の際に、相手方の商号を確認させていただきます。
事業の設計における留意点
第1に、審査の記録の保存です。売掛先の信用の調査を行った記録を保存することは、取引の性質が争われた場合において、売買としての性質を裏付ける事情となります。調査の方法、参照した資料、判断の理由を記録してください。
第2に、買戻し及び償還の事由の設定です。事由を譲渡人の責めに帰すべき事由に限定することにより、回収不能の危険が譲受人に帰属していることを示すことができます。売掛先の支払能力の欠如を事由に含めますと、取引の性質が争われる要素となります。
第3に、担保及び保証の徴求の要否です。譲渡人の資力を前提とする担保を徴求することは、売買としての性質と整合しません。徴求する場合には、その必要性と目的を記録してください。
第4に、譲渡の対象の特定です。売掛先の名称、債権の発生原因、金額、支払期日により具体的に特定してください。事後の差替えを予定する運用は避けるべきです。
第5に、資金の授受の態様です。債権買取代金を一括して交付することが、売買としての性質と整合します。
第6に、契約書の条項と実際の運用との整合です。条項に定められていない取扱いを行いますと、運用の実態が争点となります。
債権の回収における実務上の手順
第1に、対抗要件の確認です。通知の到達の日時、債権譲渡登記の日時を記録してください。二重譲渡が判明した場合の優劣は、この先後により定まります。
第2に、売掛先に対する照会です。債権の存否及び金額を確認します。もっとも、照会により譲渡の事実が明らかになりますので、時期の判断を要します。
第3に、通知の送付の判断です。通知は、回収の手段であると同時に、譲渡人の事業の継続に影響します。譲渡人の事業が継続していれば、将来の売掛債権から回収がされる見込みがあります。回収の総額を最大化する観点から、時期を判断することとなります。
第4に、法的手続の選択です。訴訟の提起、支払督促の申立て、仮差押命令の申立てを、回収の見込みと費用との関係で選択します。
第5に、刑事手続の検討です。譲渡の対象とされた債権に事実と異なる部分がある場合、又は回収した資金が引き渡されない場合には、告訴を検討することとなります。もっとも、告訴により譲渡人の側の資力が失われることがありますので、回収の見込みとの関係で判断する必要があります。
社内の体制の整備
第1に、契約書の様式の整備です。買戻し、償還請求、表明及び保証、回収金の管理、通知の送付の要件に関する条項を、実際の運用と整合するように定めます。
第2に、審査の手順の明文化です。売掛先の信用の調査の方法、判断の基準を定め、記録を残す体制を整えます。
第3に、取立ての態様に関する指導です。貸金業法第21条第1項の適用はありませんが、脅迫罪(刑法第222条第1項)、強要罪(同法第223条第1項)等の成否が問題となり得ます。担当者に対する指導が必要です。
第4に、記録の保存です。連絡の記録、審査の記録、資料の受領の記録を保存する体制を整えます。
第5に、事故が生じた場合の対応の手順です。事実関係の確定、保全の要否の判断、通知の送付の判断、法的手続の選択について、あらかじめ手順を定めておきます。
ご相談をお受けする範囲
第1に、事故が生じた場合の対応です。事実関係の確定、民事上の請求、保全の要否の判断、刑事上の対応を取り扱います。
第2に、債権の回収です。対抗要件の確認、通知の送付の判断、法的手続の選択を取り扱います。
第3に、契約書の整備です。取引の性質の判断に影響する条項を中心に、ご検討をお受けしています。
第4に、社内の規程の作成です。審査の手順、記録の保存、取立ての態様に関する規程の作成を取り扱います。
第5に、訴訟の追行です。譲渡人に対する請求、譲受人相互の争い、売掛先に対する請求のいずれについても取り扱います。
なお、利益が相反する場合には、ご依頼をお受けすることができません。ご相談の際に、相手方の商号を確認させていただきます。
よくあるご質問
譲り受けた債権が実在しませんでした。
事実関係を確定したうえで、民事上の請求、保全の要否、刑事上の対応、売掛先への対応を順に検討することとなります。
二重譲渡であることが判明しました。
対抗要件を備えた時期の先後によって優劣が定まります。通知の到達の日時、登記の日時を確認してください。
回収した資金が引き渡されません。
契約書に分別管理の義務が定められている場合には、横領罪(刑法第252条第1項)の成否が問題となり得ます。まず事実関係を確定してください。
契約書の見直しをお願いすることはできますか。
できます。取引の性質の判断に影響する条項を中心に、ご検討をお受けしています。
取立ての態様について、社内の指導をお願いすることはできますか。
できます。貸金業法の規律が及ばないことと、刑法上の問題が生じ得ることの双方を踏まえた指導を行います。
利益が相反する場合はどうなりますか。
ご依頼をお受けすることができません。ご相談の際に、相手方の商号を確認させていただきます。
おわりに
ファクタリング会社の側における法務上の課題は、事故の対応、債権の回収、契約の管理、法令の遵守の4つに整理することができます。いずれについても、契約書の条項と実際の運用とが整合していることが前提となります。
特に、取引の性質が争われた場合に備え、売買としての性質と整合する運用を確保しておくことが重要です。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
ファクタリング会社の側からのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)
出典
- 民法第466条第3項及び第4項、第467条第1項及び第2項、第468条第1項、第469条第1項、第494条第2項
- 動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律第4条第1項
- 民事保全法第20条第1項
- 刑法第130条、第159条第1項、第161条第1項、第222条第1項、第223条第1項、第246条第1項、第252条第1項
- 貸金業法第2条第1項、第21条第1項
- 利息制限法第1条
- 出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律第5条第3項
- 労働基準法第24条第1項
- 最高裁判所第三小法廷令和5年2月20日決定(刑集77巻2号13頁)
具体的なご相談をお考えの皆様へ
本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページに整理しています。あわせてご覧ください。


