ファクタリングが貸付けに当たるかどうかが争われた裁判例 判断の枠組みと考慮されている要素

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ファクタリングの適法性は、債権の売買として扱われる場面と、金銭の貸付けと判断される場面とに分かれますので、次のとおり切り分けます。本ページは、裁判例において考慮されている要素を扱います。
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ファクタリングと呼ばれる取引について、それが真正な債権の売買であるのか、実質において金銭の貸付けであるのかは、裁判上しばしば争われてきた論点です。この判断は、手数料に相当する部分の返還を請求することができるかどうか、契約に基づく請求を拒むことができるかどうかを左右します。
本ページは、裁判所がこの問題をどのような枠組みで判断しているのか、どのような事情が考慮されているのかを整理した中核となるページです。個別の論点は、末尾に掲げる各ページに整理しています。
なお、裁判例は事案ごとの事実関係に基づく判断です。本ページの記載から、個別の取引についての結論を導くことはできません。
争いの出発点 条文の構造
貸金業法第2条第1項は、金銭の貸付けには、手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法によってする金銭の交付を含む旨を定めています。出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(出資法)第7条も、同様の方法による金銭の交付又は授受を、金銭の貸付け又は借入れとみなす旨を定めています。
もっとも、ファクタリングは売掛債権の売買であり、金銭の貸付けではありませんので、これらの法律の適用はありません。争いとなるのは、売買の形式が採られていても、その実質において「その他これらに類する方法によってする金銭の交付」に当たると評価すべき場合があるかどうかという点です。
そして、金銭の貸付けと評価される場合には、次の規定が問題となります。
| 利息制限法第1条 | 元本の額に応じ、年15パーセントから年20パーセントを超える部分の利息の約定を無効とする規定です。 |
| 出資法第5条第2項 | 金銭の貸付けを業として行う者が、年20パーセントを超える割合による利息の契約をし、又はこれを受領したときの罰則を定める規定です。 |
| 出資法第5条第3項 | 年109.5パーセントを超える割合による利息の契約等について、より重い罰則を定める規定です。 |
| 貸金業法第42条第1項 | 年109.5パーセントを超える割合による利息の契約をしたときは、当該消費貸借の契約は、無効とする旨を定める規定です。 |
| 貸金業法第11条第1項、第47条第2号 | 登録を受けないで貸金業を営むことを禁じ、これに違反した者に対する罰則を定める規定です。 |
最高裁判所の判断が示されている範囲
最高裁判所第三小法廷は、令和5年2月20日、いわゆる給与ファクタリングと呼ばれる取引について、貸金業法第2条第1項及び出資法第5条第3項にいう「貸付け」に当たる旨の判断を示しました(令和4年(あ)第288号、刑集77巻2号13頁)。貸金業法違反及び出資法違反に問われた刑事事件についての判断です。
この事案では、労働者が使用者に対して有する賃金債権を額面より低い額で譲り受け、その対価を交付するという取引が問題となりました。賃金は直接労働者に支払わなければならないものとされていること(労働基準法第24条第1項)から、譲受人が使用者に対して直接に支払を求めることは予定されておらず、労働者が事実上買い戻さざるを得ない立場に置かれることが、判断の基礎とされています。
これに先立ち、令和2年3月24日には、東京地方裁判所が、給与ファクタリングと呼ばれる取引について、貸金業法上の貸付けに当たる旨の判断を示しています。
これらは、いずれも給与債権に特有の事情を前提とする判断であり、事業者が有する売掛債権を対象とする事業者向けのファクタリングとは事案を異にします。この判断がそのまま及ぶものではありません。
他方で、事業者が有する売掛債権を対象とする取引について、最高裁判所の判断は示されていません。
事業者向けの取引について 下級審の判断は分かれています
事業者が有する売掛債権を対象とする取引については、下級審の裁判例に、真正な債権の売買であると判断したものと、金銭の貸付けと同様の実質を有すると判断したものの双方があります。
いずれの結論に至るかは、契約書の文言のみによって定まるものではなく、次のような事情を総合して判断されています。
| 償還請求権又は買戻義務の有無 | 売掛先が支払をしない場合に、譲渡人が譲受人に対して支払義務を負う定めがあるかどうか。定めがなくとも、実際に買戻しが求められていた場合には、その実態が考慮されます。 |
| 売掛先の信用リスクの帰属 | 売掛先が支払不能となった場合の損失を、譲受人と譲渡人のいずれが負担する仕組みとなっているか。 |
| 回収の業務の委託の有無 | 譲渡人が回収を行い、回収した金銭を譲受人へ引き渡す仕組みとなっているかどうか。 |
| 売掛先への通知の要否 | 債権譲渡の通知又は承諾(民法第467条第1項)を予定しているかどうか。予定していない場合には、債権が確定的に移転したといえるかが問題となります。 |
| 手数料の水準 | 額面と交付額との差額が、債権の回収に要する費用及び信用リスクに照らして合理的に説明することができる水準にあるかどうか。 |
| 取引の継続性及び反復性 | 同一の当事者間で反復して行われ、実質的に資金が循環していないかどうか。 |
| 譲渡の対象とされた債権の選別 | 譲受人が債権の内容及び売掛先の信用状態を審査して個別に選別しているかどうか。 |
要約しますと、債権が確定的に譲受人へ移転し、譲受人が売掛先の信用リスクを負担しているといえるかどうかが、判断の中心にあります。譲渡人が結局は支払義務を負う仕組みであれば、金銭の交付と返還の約束があるものとして、貸付けと同様の実質を有すると評価される方向に働きます。
この判断が結論に及ぼす影響
金銭の貸付けと評価される場合には、次の主張の余地が生じます。
第1に、利息制限法第1条が定める上限を超える部分について、利息の約定が無効となり、既に支払った部分について不当利得の返還を請求することが考えられます(民法第703条、第704条)。
第2に、年109.5パーセントを超える割合による利息の契約がされている場合には、当該消費貸借の契約そのものが無効となります(貸金業法第42条第1項)。
第3に、契約の内容が著しく不当である場合には、公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為として無効であるとの主張(民法第90条)が考えられます。
他方で、真正な債権の売買であると判断される場合には、契約に基づく請求は原則として有効なものとして扱われます。
裁判例を検討する際の作業の順序
第1に、ご自身の事案の類型を確定します。譲渡の対象が売掛債権であるか賃金債権であるか、当事者が法人であるか個人事業者であるか、取引が1回限りであるか反復しているかを確認します。
第2に、契約書の条項を抜き出します。買戻し、償還請求、期限の利益の喪失、表明及び保証、回収金の管理に関する条項が中心となります。
第3に、運用の実態を整理します。売掛先の信用の調査の有無、買戻しが実際に求められた事実の有無、譲渡の対象の差替えの有無、資金の授受の態様を整理します。
第4に、これらと類似する事案について判断した裁判例を探します。結論のみでなく、認定された事実と判断の理由を確認します。
第5に、相違点を確認します。ご自身の事案と裁判例の事案とで異なる事情がある場合には、その相違が結論に影響するかどうかを検討します。
第6に、主張の骨格を組み立てます。裁判例において重視されている要素のうち、ご自身の事案において主張することのできるものを中心に据えます。
立証の方法
第1に、契約書及び個別契約書です。手元にある資料により立証することができます。
第2に、通帳の記録です。資金の授受の態様を示すことができます。金融機関に対して取引明細の発行を請求することができます。
第3に、業者との連絡の記録です。運用の実態を示す最も有力な資料となります。削除しないでください。
第4に、契約に至る過程で提出を求められた資料の一覧です。売掛先に関する資料の提出が求められなかったことを示します。
第5に、業者の手元にある資料です。審査の記録、社内の規程、他の取引における取扱いが該当します。文書提出命令の申立て(民事訴訟法第221条第1項)を検討することとなります。
第6に、当事者尋問です。契約の締結の経緯、説明の内容について、直接に立証することとなります。
見込みの評価
第1に、契約書に買戻し又は償還の条項があり、その事由が売掛先の支払能力の欠如を含む場合には、主張の見込みは相対的に高くなります。
第2に、売掛先の信用の調査が行われていない場合には、同様です。
第3に、代表者個人の連帯保証、担保の差入れが求められている場合には、同様です。
第4に、他方で、買戻しの事由が譲渡人の責めに帰すべき事由に限定され、売掛先の信用の調査が行われ、担保及び保証が徴求されていない取引については、主張の見込みは小さくなります。
第5に、いずれの場合にも、結果を保証することはできません。費用及び期間と、請求することのできる金額の見込みとを比較したうえで判断してください。
裁判例の集積の状況
第1に、給与ファクタリングについては、下級審の判断が積み重ねられ、最高裁判所の判断により方向が確定しました。
第2に、事業者向けのファクタリングについては、最高裁判所の判断が示されていません。下級審においては、事案により判断が分かれています。
第3に、判断が分かれる理由は、契約の内容及び運用の実態が事案ごとに異なることにあります。買戻しの事由の範囲、売掛先の信用の調査の有無、担保及び保証の徴求の有無が、結論を左右しています。
第4に、したがって、裁判例の結論のみを引用しても、ご自身の事案における見込みを判断することはできません。
第5に、ご自身の契約書の条項と運用の実態を整理したうえで、これに近い事案について判断した裁判例を検討することが必要です。
本ページの位置付け
本ページは、ファクタリングが貸付けに当たるかどうかが争われた裁判例について、判断の枠組みと考慮されている要素を整理したものです。
裁判例の結論のみを引用しても、ご自身の事案における見込みを判断することはできません。ご自身の契約書の条項と運用の実態を整理したうえで、これに近い事案について判断した裁判例を検討することが必要です。
争う場合には、契約書のほか、運用の実態を示す資料を収集する必要があります。
いま確認していただきたいこと
1 契約書の全部を業者ごとに整理し、償還請求権、買戻し、回収の業務の委託、売掛先への通知に関する条項を確認してください。
2 額面の額、実際に入金された額、業者へ支払った額を、取引の回ごとに一覧にしてください。
3 売掛先が支払をしなかった事例があるかどうか、その場合に業者がどのように対応したかを確認してください。実際の対応は、契約書の文言よりも重要な事実となることがあります。
4 業者との連絡の記録を保全してください。
よくあるご質問
契約書に「償還請求権はない」と書かれています。真正な売買と判断されますか。
文言のみによって定まるものではありません。売掛先が支払をしなかった場合に業者が実際にどのように対応していたかが、重要な事実となります。
手数料が年利に換算すると高率です。それだけで貸付けと判断されますか。
手数料の水準は考慮要素の1つですが、それのみによって結論が定まるものではありません。信用リスクの帰属を含めた全体の仕組みが検討されます。
給与ファクタリングの最高裁判所の判断は、事業者向けの取引にも及びますか。
直接には及びません。当該判断は、賃金は直接労働者に支払わなければならないという労働基準法上の制約を前提としています。事業者の売掛債権には、この制約が当てはまりません。
過去に支払った手数料を取り戻すことはできますか。
当該取引が金銭の貸付けと評価される場合には、その余地があります。もっとも、事案ごとの検討を要しますので、結果をあらかじめ保証することはできません。
おわりに
この論点は、契約書と資金の流れの双方を確認して初めて、主張し得る事柄が定まります。一般論から結論を導くことはできません。
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出典
- 貸金業法第2条第1項、第11条第1項、第42条第1項、第47条第2号
- 出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律第5条第2項及び第3項、第7条
- 利息制限法第1条
- 民法第90条、第466条第1項、第467条第1項、第555条、第703条、第704条
- 労働基準法第24条第1項
- 最高裁判所第三小法廷令和5年2月20日決定(令和4年(あ)第288号、刑集77巻2号13頁)
- 東京地方裁判所令和2年3月24日判決
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