債権譲渡の通知が取引先に届いた後 確認すべき事項と売掛先に対する説明の方法

ファクタリング業者から、売掛先に対して債権譲渡の通知が送付されてしまった。売掛先の担当者から、内容証明郵便が届いたが支払先はどうなるのかという問合せを受けた。取引を停止すると告げられた。このような御相談を受けることがあります。
通知がされてしまった後は、通知を送付させないための交渉という局面ではなくなります。この段階で行うべきことは、支払先の関係を法的に整理すること、売掛先に対して事実関係を正確に説明すること、そして取引関係の維持に向けた対応をとることです。
本ページでは、通知が到達した後の局面において、確認すべき事項と、採り得る対応を整理します。通知がされる前の段階の対応については、末尾に掲げる中核となるページを御覧ください。
まず、通知の内容を確認します
売掛先へ届いた書面の写しを入手し、次の各点を確認してください。売掛先に依頼すれば、写しの交付を受けられることが通常です。
| 差出人 | 通知は、譲渡人が行うか、又は譲渡人から委任を受けた譲受人が譲渡人の名義で行う必要があります(民法第467条第1項)。譲受人が自らの名義で行った通知は、原則として対抗要件の具備の効力を有しません。 |
| 通知の方式 | 第三者に対する対抗要件を具備するためには、確定日付のある証書によることを要します(民法第467条第2項)。内容証明郵便による場合、郵便局の日付印が確定日付となります。 |
| 到達の日時 | 複数の業者から通知が届いている場合には、優劣は到達の日時の先後によって決せられます(最高裁判所第一小法廷昭和49年3月7日判決・民集28巻2号174頁)。売掛先において受領の記録を確認してください。 |
| 譲渡の対象となる債権の特定 | いつの、どの取引に係る、いくらの債権が譲渡の対象とされているかを確認します。特定が不十分な場合には、その効力が問題となり得ます。 |
| 債権譲渡登記の記載 | 登記事項証明書が添付されている場合には、動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律第4条第2項による通知である可能性があります。 |
売掛先は、誰に支払うべきこととなるのか
債務者対抗要件が具備された場合、売掛先は、譲受人に対して支払うべきこととなります。譲渡人に対して支払っても、譲受人に対抗することができません。
もっとも、次の場合には、売掛先の対応が異なり得ます。
第1に、複数の業者から通知が届いている場合です。売掛先は、いずれに支払うべきかを判断することができないとして、債権者不確知を原因とする弁済供託をすることがあります(民法第494条第2項)。供託がされますと、債権は消滅します(同条第1項後段)。
第2に、譲渡の効力そのものが争われている場合です。譲渡人が譲渡の効力を争っている旨を売掛先が認識している場合にも、供託がされることがあります。
第3に、売掛先が譲渡人に対して反対債権を有している場合です。対抗要件具備時より前の原因に基づいて生じた債権による相殺をもって、譲受人に対抗することができます(民法第469条第1項)。
売掛先に対して、何をどのように説明するか
この局面で最も重要なのは、売掛先に対する説明です。説明を怠り、又は事実と異なる説明をしますと、取引関係の回復は困難になります。
実務上、次の点を整理して伝えることが有用です。
- 債権を譲渡した事実があること。及び、その理由が資金調達であること。
- 支払先について、法的にどのような関係になるのか。売掛先が二重に支払う義務を負うものではないこと。
- 今後の取引について、どのような対応を予定しているか。
- 弁護士に委任している場合には、その旨及び連絡の窓口。
売掛先の担当者は、多くの場合、債権譲渡の法律関係を御存じではありません。「二重に支払わなければならないのではないか」「関わると面倒なことになるのではないか」という懸念から、取引の停止という判断に至ることがあります。法律関係を正確に説明することが、取引関係の維持につながります。
放置した場合に失われるもの
第1に、売掛先が業者へ直接に連絡を取り、業者から一方的な説明を受けることになります。先に説明した側の見方が、事実の理解の枠組みとなります。
第2に、取引の停止が既成事実となります。いったん取引が停止されますと、これを回復することは容易ではありません。
第3に、供託がされた場合、供託金の帰属をめぐる手続が別途必要となります。他の当事者が先に還付の請求を行いますと、払い渡された後に取り戻すことは困難になります。
業者の事情
業者が通知を送付するのは、売掛先から直接に回収するためです。したがって、通知が送付された後も、業者にとっての目的は金銭の回収であることに変わりはありません。
売掛先が支払に応じない場合、又は供託をした場合には、業者は速やかな回収を得られません。この点は、支払の方法についての協議の余地が残されていることを示しています。
また、取引先を失うことにより譲渡人の事業が立ち行かなくなれば、業者にとっても回収の原資が失われます。この点を踏まえた交渉が可能な場合があります。
売掛先が確認する事項と主張することのできる事項
第1に、通知が譲渡人の名義によりされているかどうかです。譲受人が自らの名でした通知には、対抗要件としての効力が認められません。もっとも、譲受人が譲渡人を代理して通知をすることは可能であるとされていますので、代理権の有無を含めて検討することとなります。
第2に、通知の到達の時期です。売掛先は、通知の到達の前に譲渡人へ支払をしていた場合には、これをもって譲受人に対抗することができます(民法第468条第1項)。
第3に、反対債権の有無です。売掛先が譲渡人に対して反対債権を有する場合には、対抗要件具備時より前に取得した債権による相殺をもって譲受人に対抗することができます(同法第469条第1項)。対抗要件具備時より後に取得した債権であっても、対抗要件具備時より前の原因に基づいて生じた債権については、同様です(同条第2項)。
第4に、譲渡を制限する意思表示の有無です。取引基本契約書において譲渡を禁止し、又は制限する旨が定められている場合において、譲受人が悪意又は重大な過失であるときは、売掛先は履行を拒むことができます(同法第466条第3項)。
第5に、複数の通知の有無です。複数の通知が到達し、誰に支払うべきかを判断することができないときは、売掛先は供託をすることができます(同法第494条第2項)。
第6に、債権の存否及び金額です。譲渡の対象とされた債権が実在しない場合、又は金額が過大である場合には、売掛先は支払を拒むことができます。
説明の場面ごとの留意点
担当者から問合せを受けた場面
事実関係を正確に伝えたうえで、支払先を明確にしてください。この段階で事実と異なる説明をしますと、後に判明した場合に信用を失います。
責任者に対して説明する場面
取引の継続の可否が判断されますので、納品、役務の提供に支障が生じないことを、具体的な体制とともに説明します。あわせて、資金繰りの見込みと、今後の対応の方針を示します。
書面により説明する場面
口頭のみの説明は、社内で正確に伝わりません。事実関係、支払先、今後の取引の見込み、連絡の窓口を記載した書面を交付してください。
取引の停止を告げられた場面
直ちに撤回を求めるのではなく、判断の理由を確認してください。理由が資金繰りに対する不安である場合には、これに対応する資料を示すことにより、再考を求める余地があります。
通知が複数の売掛先に送付された場合
この場合には、説明の順序を定める必要があります。取引の比重が大きい売掛先から順に、直接に説明することが原則となります。
また、同業者間で情報が共有される業界においては、1社に対する説明の内容が他社に伝わります。したがって、説明の内容を統一しておく必要があります。
あわせて、業者に対しては、これ以上の通知の送付を留保するよう申し入れます。既に送付された分についての対応と、今後の送付の抑止とは、別の交渉となります。
説明の後の取引の維持に向けた対応
第1に、納品又は役務の提供を確実に継続してください。取引の実務に影響が及ばなければ、売掛先が取引を停止する動機は小さくなります。
第2に、支払先の変更に伴う事務の負担を軽減してください。譲受人の口座、振込の手続について、必要な情報を整理して提供します。
第3に、進捗を定期的に報告してください。業者との協議の状況、通知の撤回の見込みについて、時期を定めて報告します。
第4に、他の売掛先への波及を防いでください。同業者間で情報が共有される業界においては、説明の内容を統一しておく必要があります。
第5に、取引の停止を告げられた場合には、判断の理由を確認してください。理由が資金繰りに対する不安である場合には、これに対応する資料を示すことにより、再考を求める余地があります。
本ページの位置付け
本ページは、売掛先に対して債権譲渡の通知が届いた後の局面にある事業者の方に向けて、確認すべき事項と売掛先に対する説明の方法を整理したものです。
既に送付された通知の効力を一方的に消滅させる法律上の手段はありません。したがって、対応の中心は、売掛先に対する説明と、取引の維持に向けた具体的な行動となります。
事実を伏せず、支払先を明確にし、今後の取引の見込みを具体的に示すことが、取引を維持するための最も有効な方法です。
いま確認していただきたいこと
1 売掛先へ届いた書面の写しを入手し、差出人、方式、到達の日時、譲渡の対象となる債権の特定を確認してください。
2 複数の業者から通知が届いていないかを、売掛先に確認してください。
3 売掛先が既に支払をしたか、供託をしたかを確認してください。
4 当該売掛先との取引が、今後どの程度継続する見込みであるかを整理してください。取引の重要性は、対応の順序を定める上で最も重要な要素となります。
5 業者との契約書、及び業者との連絡の記録を保全してください。
よくあるご質問
通知が届いてしまいました。撤回してもらうことはできますか。
通知が到達した後の撤回については、譲受人及び譲渡人の双方の関与を要し、また売掛先の理解も必要となります。事案によっては協議の余地がありますが、結果を保証することはできません。
売掛先から、二重に支払うことになるのではないかと問われました。
債務者対抗要件が具備された場合、売掛先が譲受人に対して支払えば、その債務は消滅します。二重に支払う義務を負うものではありません。この点を正確に説明することが、取引関係の維持につながります。
売掛先が供託をしてしまいました。どうすればよいですか。
供託金の還付を請求することができるのは、真に権利を有する者です。誰が権利を有するかを確定する手続を検討することになります。
取引を停止すると告げられました。
まず、売掛先に対して法律関係を正確に説明することが必要です。そのうえで、今後の取引の条件について協議することが考えられます。早期の対応が重要となります。
おわりに
通知が到達した後の局面では、業者との関係よりも、売掛先との関係の維持が事業の帰趨を左右します。売掛先に対する説明を、事実に即して、速やかに行っていただく必要があります。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
債権譲渡の通知が到達した後の御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)
御留意事項
本ページの記載は、債権譲渡の通知が届いた後の対応に関する一般的な法制度及び当事務所の取扱いの説明であり、個別の事案について一定の結果を保証するものではありません。見通し、要する期間、回収し又は負担する金額その他の帰結は、事案ごとの事実関係及び資料によって異なります。
また、課税関係につきましては税理士の職域ですので、当事務所において判断することはいたしません。税務上の取扱いについては、顧問税理士に御確認ください。
法令の改正、裁判例の集積により内容が変わる場合には、記載を改めます。実際の御依頼に際しましては、必ず個別に御相談ください。御相談の内容は、弁護士法上の守秘義務に基づき秘密を厳守いたします。
出典
- 民法第467条第1項及び第2項、第469条第1項、第494条第1項及び第2項
- 動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律第4条第2項
- 最高裁判所第一小法廷昭和49年3月7日判決・民集28巻2号174頁
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