債権譲渡に関する民法の改正とファクタリングの実務 譲渡制限特約、将来債権及び抗弁の取扱い

この記事の位置付け
債権譲渡をめぐる論点は、対抗要件の仕組みを確かめる場面と、売掛先に知られた後の影響へ対応する場面とに分かれますので、次のとおり切り分けます。本ページは、民法の改正による譲渡制限特約、将来債権及び抗弁の取扱いを扱います。
▶ ファクタリングにおける債権譲渡の通知 対抗要件の仕組みと売掛先への影響及び対応の方法
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平成29年法律第44号による民法の改正により、債権の譲渡に関する規律が変更されました。改正の前後で、譲渡を制限する意思表示の効力、将来発生する債権の譲渡、債務者の抗弁の取扱いが変わっています。
本ページでは、これらの改正の内容と、ファクタリングの実務に及ぼす影響を整理します。個別の事案における結果を保証するものではありません。
譲渡を制限する意思表示の効力
改正前の民法においては、当事者が反対の意思を表示した場合には債権を譲渡することができないものとされ、この意思表示は善意の第三者に対抗することができないものとされていました。判例は、譲渡を禁止する特約に反する譲渡は原則として無効であるとしたうえで、譲受人が善意である場合には有効となると解していました。
改正後の民法第466条第2項は、当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない旨を定めています。すなわち、譲渡そのものは有効となります。
もっとも、同条第3項は、譲渡を制限する旨の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる旨を定めています。
したがって、譲渡は有効であるものの、譲受人が悪意又は重大な過失である場合には、売掛先は譲受人に対する支払を拒み、譲渡人に支払うことができるという構造になっています。
ファクタリングの実務に及ぼす影響
第1に、譲渡を禁止する特約が付されている売掛債権についても、譲渡それ自体は有効となりました。この点は、資金化の手段としての利用の余地を広げるものです。
第2に、他方で、譲受人が悪意又は重大な過失である場合には、売掛先が履行を拒むことができます。実務上、譲受人は契約書の確認を通じて特約の有無を把握することが一般ですので、悪意とされる場合が少なくありません。
第3に、この場合、譲受人は、売掛先に対して相当の期間を定めて譲渡人への履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、同条第4項により、履行を拒むことができなくなります。もっとも、この手続を経る過程で、売掛先に譲渡の事実が明らかになります。
第4に、譲渡人にとっては、譲渡を禁止する特約に反して譲渡した事実が、売掛先との取引関係に影響します。契約上の義務の違反として、取引の停止の理由とされることがあります。
第5に、債権譲渡契約書における表明及び保証の条項において、譲渡を制限する意思表示がないことが対象とされていることが一般です。特約があるにもかかわらずこれを秘して譲渡した場合には、契約の解除、損害の賠償が問題となります。
将来発生する債権の譲渡
改正後の民法第466条の6第1項は、債権の譲渡は、その意思表示の時に債権が現に発生していることを要しない旨を定めています。同条第2項は、債権が譲渡された場合において、その意思表示の時に債権が現に発生していないときは、譲受人は、発生した債権を当然に取得する旨を定めています。
これにより、将来発生する債権を譲渡の対象とすることが、明文により認められました。継続的な取引から生じる売掛債権を包括的に譲渡の対象とする契約は、この規定を前提とするものです。
もっとも、包括的な譲渡がされますと、他の資金調達手段の利用が困難となります。譲渡の対象の範囲を確認することが重要です。
債務者の抗弁
改正後の民法第468条第1項は、債務者は、対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる旨を定めています。
また、同法第469条第1項は、債務者は、対抗要件具備時より前に取得した譲渡人に対する債権による相殺をもって譲受人に対抗することができる旨を定めています。同条第2項は、対抗要件具備時より後に取得した債権であっても、対抗要件具備時より前の原因に基づいて生じた債権等については、相殺をもって対抗することができる旨を定めています。
実務上、売掛先が譲渡人に対して反対債権を有する場合には、相殺の主張がされることがあります。譲渡の対象とする債権を選定する際には、この点を確認する必要があります。
法令の適用に関する前提
ファクタリングは売掛債権の売買であり、金銭の貸付けではありませんので、貸金業法、利息制限法及び出資法の適用はありません。したがって、手数料の水準が高いことのみを理由として、これらの法令に違反するということにはなりません。もっとも、売買の形式が採られていても、その実質において金銭の貸付けと同視すべきであると判断された下級審裁判例がありますので、契約の内容及び運用の実態によっては、別途の検討を要します。
民法の改正は、債権の譲渡に関する規律を変更したものであり、ファクタリングに対する貸金に関する法令の適用の有無を変更するものではありません。
改正の前後で取扱いが変わる場面
第1に、譲渡を禁止する特約が付されている売掛債権の譲渡です。改正前は、判例により、特約に反する譲渡は原則として無効であり、譲受人が善意である場合には有効となると解されていました。改正後は、譲渡そのものは有効となり、譲受人が悪意又は重大な過失である場合に債務者が履行を拒むことができるという構成に変更されています。
第2に、将来発生する債権の譲渡です。改正前も判例により有効性が認められていましたが、改正により明文の規定が置かれました(民法第466条の6第1項及び第2項)。
第3に、債務者の抗弁です。改正前は、債務者が異議をとどめないで承諾をしたときは、譲渡人に対抗することができた事由があっても譲受人に対抗することができないものとされていました。改正により、この制度は廃止されています。
第4に、相殺の抗弁です。改正により、対抗要件具備時より後に取得した債権であっても、対抗要件具備時より前の原因に基づいて生じた債権等については、相殺をもって対抗することができる旨が明らかにされました(同法第469条第2項)。
第5に、適用の時期です。改正法は令和2年4月1日から施行されており、施行の日前に締結された契約については、原則として従前の例によることとされています。したがって、契約の締結の時期を確認する必要があります。
取引基本契約書における譲渡制限の条項の確認
第1に、譲渡を禁止し、又は制限する旨の条項の有無を確認してください。多くの取引基本契約書には、この条項が置かれています。
第2に、条項の文言を確認してください。事前の書面による承諾を要する旨が定められている場合には、承諾を得ることができるかどうかを検討することとなります。
第3に、違反した場合の効果を確認してください。契約の解除、損害の賠償が定められていることがあります。
第4に、業者に対して条項の存在を告げたかどうかを確認してください。債権譲渡契約書における表明及び保証の条項に反する場合には、契約の解除、損害の賠償が問題となります。
第5に、承諾を得ることができる場合には、これを得たうえで譲渡することが安全です。承諾を得ることは、3社間の取引に近づくことを意味しますが、後の紛争を避けることができます。
将来発生する債権を譲渡する場合の留意点
第1に、対象の範囲です。特定の売掛先に対する債権に限定するか、すべての売掛先に対する債権を含めるかによって、影響が大きく異なります。
第2に、期間です。長期にわたる譲渡がされますと、その期間中の資金化の手段が失われます。
第3に、債権譲渡登記との関係です。包括的な登記がされますと、他の業者による取引及び金融機関からの借入れが困難となります。
第4に、債権が発生しなかった場合の取扱いです。譲受人は当該債権を取得しませんので、精算が問題となります。契約書における定めを確認してください。
第5に、事業を譲渡し、又は会社分割を行う場合の影響です。将来発生する債権が譲渡されている場合には、事業の再編に制約が生じることがあります。
契約の締結の時期による取扱いの違い
第1に、令和2年4月1日以後に締結された契約については、改正後の規定が適用されます。
第2に、同日前に締結された契約については、原則として従前の例によることとされています。したがって、譲渡を禁止する特約に反する譲渡の効力について、改正前の解釈によることとなります。
第3に、基本契約が同日前に締結され、個別の譲渡が同日以後に行われた場合の取扱いについては、個別に検討を要します。
第4に、取引が長期にわたる場合には、時期により適用される規定が異なることとなりますので、契約書の日付を確認してください。
第5に、将来発生する債権の譲渡についても、同様に時期による違いが生じます。
本ページの位置付け
本ページは、債権譲渡に関する民法の改正がファクタリングの実務に及ぼす影響を整理したものです。
改正により、譲渡を制限する意思表示がされている債権についても譲渡が有効となり、将来発生する債権の譲渡が明文により認められました。他方で、譲受人が悪意又は重大な過失である場合には売掛先が履行を拒むことができますので、実務上の取扱いは単純ではありません。
なお、民法の改正は、ファクタリングに対する貸金に関する法令の適用の有無を変更するものではありません。
いま確認していただきたいこと
1 譲渡の対象とした売掛債権について、取引基本契約書における譲渡を制限する特約の有無を確認してください。
2 特約がある場合には、譲受人がこれを把握していたかどうかを確認してください。
3 債権譲渡契約書における表明及び保証の条項の内容を確認してください。
4 将来発生する債権が譲渡の対象とされている場合には、その範囲を確認してください。
5 売掛先が譲渡人に対して反対債権を有していないかどうかを確認してください。
よくあるご質問
譲渡を禁止する特約があっても譲渡できますか。
譲渡それ自体は有効です(民法第466条第2項)。もっとも、譲受人が悪意又は重大な過失である場合には、売掛先は履行を拒むことができます(同条第3項)。
特約があることを業者に伝えていませんでした。
債権譲渡契約書における表明及び保証の条項に反する場合には、契約の解除、損害の賠償が問題となります。契約書をご持参ください。
売掛先から取引の停止を告げられました。
特約に反して譲渡した事実が、契約上の義務の違反とされることがあります。説明の方法を含め、対応を検討することとなります。
将来の売掛債権をまとめて譲渡しています。
譲渡の対象の範囲を確認してください。包括的な譲渡がされますと、他の資金調達手段の利用が困難となります。
売掛先が相殺を主張しています。
対抗要件具備時より前に取得した債権による相殺は、譲受人に対抗することができます(民法第469条第1項)。譲受人からの請求との関係を整理する必要があります。
民法の改正により、ファクタリングの規制が変わりましたか。
債権の譲渡に関する規律が変更されたものであり、貸金に関する法令の適用の有無を変更するものではありません。
おわりに
民法の改正により、譲渡を制限する意思表示がされている債権についても譲渡が有効となり、将来発生する債権の譲渡が明文により認められました。他方で、譲受人が悪意又は重大な過失である場合には売掛先が履行を拒むことができますので、実務上の取扱いは単純ではありません。
譲渡の対象とする債権を選定する際には、特約の有無、反対債権の有無、譲渡の範囲を確認してください。
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出典
- 民法第466条第2項から第4項まで、第466条の6第1項及び第2項、第467条、第468条第1項、第469条第1項及び第2項
- 民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)
- 貸金業法第2条第1項
- 利息制限法第1条
- 出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律第5条
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