ファクタリング会社の側から見た架空債権・二重譲渡・回収金の不引渡しへの法的対応

本記事が扱う場面と、扱わない場面
本記事は、ファクタリングを業として営む事業者の側から見た法的対応を扱います。ファクタリングを利用された事業者の側の対応については、当サイトの他の記事を御覧ください。立場が異なりますと、採るべき対応も異なります。
- ファクタリング会社の側の対応……本記事
- ファクタリングを利用した事業者の側の対応……架空債権によるファクタリングをしてしまったとき 民事上の責任と刑事上の責任及び対応の順序
買い取った売掛債権が実在しなかった。同一の債権が他の事業者へも譲渡されていた。回収を委託した譲渡人が、売掛先から受領した金銭を引き渡さない。ファクタリングを営む事業者においては、これらの事故が一定の頻度で生じます。
これらの局面では、民事上の請求、刑事上の手続、他の債権者との優劣、そして譲渡人の資力の悪化という、性質の異なる複数の問題が同時に進行します。採る手段の順序を誤りますと、回収の可能性そのものを失います。
本ページでは、事故が生じた場合に検討すべき法的手段を、条文に即して整理します。
債権が実在しなかった場合
民事上の請求
契約書に、譲渡の対象とする債権が実在することについての表明及び保証の条項が置かれているのが通常です。これに違反した場合には、契約に定める買戻しの請求、契約の解除(民法第540条以下)及び債務不履行に基づく損害賠償の請求(民法第415条第1項)が考えられます。
また、譲渡人が事実と異なる資料を提出していた場合には、不法行為に基づく損害賠償の請求(民法第709条)も考えられます。この場合、譲渡人が法人であるときは、その代表者個人に対する請求(会社法第350条、第429条第1項)を併せて検討することになります。
刑事上の手続
詐欺罪(刑法第246条第1項)、私文書偽造罪及び偽造私文書等行使罪(同法第159条第1項、第161条第1項)の成否が問題となります。告訴を行う場合には、欺く行為の内容、錯誤に陥った経緯、財産の処分行為を、資料により具体的に特定する必要があります。
もっとも、刑事の手続は、それ自体が金銭の回収をもたらすものではありません。譲渡人の身柄が拘束されれば、弁済の原資を得ることはかえって困難になります。刑事の手続を選択するかどうかは、回収の見込みと併せて判断すべき事項です。
また、審査の過程において債権の実在性を確認していたかどうかは、詐欺罪の成否をめぐる争点となり得ます。審査の記録を残しておくことが、事後の手続において意味を持ちます。
二重に譲渡されていた場合
同一の債権が複数の事業者へ譲渡されていた場合、その優劣は、対抗要件の具備の先後によって決せられます。
確定日付のある証書による通知が売掛先へ到達した日時の先後によるものとされており(民法第467条第2項、最高裁判所第一小法廷昭和49年3月7日判決・民集28巻2号174頁)、確定日付のある通知が同時に到達した場合には、各譲受人は売掛先に対して債権の全額の弁済を請求することができるものと解されています(最高裁判所第三小法廷昭和55年1月11日判決・民集34巻1号42頁)。
債権譲渡登記がされている場合には、当該登記により第三者対抗要件が具備されます(動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律第4条第1項)。
したがって、二重譲渡が判明した局面では、対抗要件の具備の日時を確定することが最初の作業となります。そのうえで、売掛先に対する請求、譲渡人に対する請求、他の譲受人との関係の整理を、順序を定めて行うことになります。
回収金が引き渡されない場合
2社間の取引において、譲渡人が売掛先から受領した金銭を引き渡さない場合には、契約上の引渡義務の履行の請求のほか、横領罪(刑法第252条第1項)又は業務上横領罪(同法第253条)の成否が問題となります。
もっとも、当該金銭が誰の所有に属するか、譲渡人がこれを「自己の占有する他人の物」として占有していたといえるかは、契約の内容及び資金の管理の実態によって判断が分かれ得ます。回収金を分別して管理すべき旨の定めが置かれているかどうか、実際に分別されていたかどうかが、重要な事実となります。
この点は、契約書の設計の段階で手当てをしておくべき事項です。回収金の管理の方法に関する定めを置くこと、報告の義務を定めることが、事後の主張を容易にします。
売掛先が供託した場合
売掛先が、誰に支払うべきかを判断することができないとして、債権者不確知を原因とする弁済供託をすることがあります(民法第494条第2項)。供託がされますと、債権は消滅します(同条第1項後段)。
供託金の還付を請求するためには、還付を受ける権利を有することを証する書面を添付する必要があります(供託規則第24条第1項第1号)。他の被供託者の同意が得られない場合には、権利の帰属を確定する手続を要します。
あらかじめ還付についての同意を記載した書面の差入れを受けている場合であっても、譲渡の効力そのものが争われている事案では、その前提が問題とされることがあります。
取引の実質をめぐる争いへの備え
回収の手続を採りますと、譲渡人の側から、当該取引が金銭の貸付けとしての実質を有する旨の主張がされることがあります。
ファクタリングは売掛債権の売買であり、金銭の貸付けではありませんので、貸金業法、利息制限法及び出資法の適用はありません。したがって、手数料の水準が高いことのみを理由として、これらの法令に違反するということにはなりません。もっとも、売買の形式が採られていても、その実質において金銭の貸付けと同視すべきであると判断された下級審裁判例がありますので、契約の内容及び運用の実態によっては、別途の検討を要します。
なお、いわゆる給与ファクタリングについては、最高裁判所第三小法廷令和5年2月20日決定(刑集77巻2号13頁)が、貸金業法第2条第1項及び出資法第5条第3項にいう「貸付け」に当たる旨を判示しています。もっとも、これは、賃金は直接労働者に支払わなければならないものとされていること(労働基準法第24条第1項)から、譲受人が使用者に対して直接に支払を求めることが予定されていないという、給与債権に特有の事情を前提とする判断です。事業者が有する売掛債権を対象とする事業者向けのファクタリングとは事案を異にしますので、この判断がそのまま及ぶものではありません。
事業者が有する売掛債権を対象とする取引については、最高裁判所の判断は示されておらず、下級審の裁判例も事案により結論が分かれています。判断に当たっては、償還請求権又は買戻義務の有無、売掛先の信用リスクの帰属、回収の業務の委託の有無、売掛先への通知の要否、手数料の水準、取引の継続性及び反復性、債権の選別の有無といった事情が総合して考慮されています。
したがって、契約書の文言のみならず、実際の運用がこれと整合していることが重要です。当事務所は、顧問先の事業者に対し、契約書及び運用体制の見直しについての助言を行っています。
事故の類型ごとの対応
譲り受けた債権が実在しない場合
まず、売掛先に対する照会により、債権の不存在を確認します。そのうえで、表明及び保証の違反に基づく契約の解除、買取代金の返還、損害の賠償を請求します。刑事上の対応としては、詐欺罪(刑法第246条第1項)、私文書偽造罪及び同行使罪(同法第159条第1項、第161条第1項)の成否を検討します。
金額が過大である場合
実在する部分と過大な部分とを区分し、それぞれについて取扱いを検討します。実在する部分については、通常の回収の手続によることとなります。
二重譲渡の場合
対抗要件を備えた時期の先後により優劣が定まります。劣後する立場となった場合には、譲渡人に対する責任の追及によることとなります。他の譲受人との間の協議により、按分による解決が図られることもあります。
回収金が引き渡されない場合
契約書に分別管理の義務が定められているかどうかを確認します。定められている場合には、横領罪(刑法第252条第1項)又は業務上横領罪(同法第253条)の成否を検討します。定められていない場合には、単なる債務不履行にとどまるとの評価もあり得ます。
譲渡人と連絡が取れない場合
売掛先に対する債権譲渡の通知を送付し、直接の回収を図ることとなります。あわせて、譲渡人の資産の状況を調査し、保全の要否を検討します。
回収の総額を最大化する観点からの判断
第1に、譲渡人の事業が継続しているかどうかです。継続していれば、将来の売掛債権から回収がされる見込みがあります。通知の送付により事業が停止しますと、他の債権について回収が困難となります。
第2に、売掛先の資力です。売掛先が支払能力を有する場合には、通知により確実に回収することができます。
第3に、他の債権者の動向です。他の業者が先に通知を送付し、又は法的手続に着手した場合には、これに遅れることは不利となります。
第4に、費用と回収額の比較です。訴訟の提起、仮差押命令の申立てには費用を要します。
第5に、刑事告訴の影響です。告訴により譲渡人の側の資力が失われ、又は事業が停止することがあります。回収の見込みとの関係で判断する必要があります。
予防のための実務
第1に、売掛先に対する照会の実施です。譲渡の前に債権の存否を確認することにより、多くの事故を防ぐことができます。もっとも、2社間の取引においては、照会により譲渡の事実が明らかになりますので、運用上の工夫を要します。
第2に、債権譲渡登記の調査です。既に登記がされている場合には、二重譲渡の危険があります。
第3に、資料の原本の確認です。写しのみによる確認は、加工された資料を見落とす原因となります。
第4に、取引の実績の確認です。過去に同一の売掛先からの入金の実績があるかどうかを、通帳の記録により確認します。
第5に、審査の記録の保存です。調査の方法、参照した資料、判断の理由を記録することにより、取引の性質が争われた場合の裏付けとなります。
いま確認していただきたいこと
1 基本契約書及び個別契約書について、表明及び保証、買戻し、回収金の管理、契約解除、期限の利益の喪失に関する条項を確認してください。
2 審査の過程の記録(売掛先への確認、提出資料の検証)が保存されているかを確認してください。
3 対抗要件の具備の状況(通知の到達の日時、債権譲渡登記の有無及び日時)を、案件ごとに整理してください。
4 譲渡人の資力の状況、他の債権者の有無を把握してください。
よくあるご質問
刑事告訴を行うべきでしょうか。
回収の見込みと併せて判断すべき事項です。刑事の手続は、それ自体が金銭の回収をもたらすものではありません。
二重譲渡が判明しました。まず何をすべきですか。
対抗要件の具備の日時を確定することが最初の作業です。そのうえで、売掛先、譲渡人、他の譲受人のそれぞれに対する対応の順序を定めます。
契約書に還付同意書の差入れを定めていますが、効力は確実ですか。
譲渡の効力そのものが争われている事案では、その前提が問題とされることがあります。契約書の設計と併せて検討する必要があります。
貸付けであると主張された場合、どのように反論すべきですか。
契約書の文言のみならず、実際の運用の状況が重要となります。売掛先の信用リスクの帰属、回収の実態、審査の記録が主張の裏付けとなります。
おわりに
ファクタリングの事故への対応は、回収の見込み、他の債権者との関係、そして取引の実質をめぐる争いへの備えを、同時に考えなければならない領域です。事故が生じた後の対応のみならず、契約書及び運用体制の設計の段階からの検討が有用です。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
ファクタリング会社様からの御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)
出典
- 民法第415条第1項、第467条第1項及び第2項、第494条第1項及び第2項、第540条、第709条
- 会社法第350条、第429条第1項
- 刑法第159条第1項、第161条第1項、第246条第1項、第252条第1項、第253条
- 貸金業法第2条第1項
- 出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律第5条第3項
- 動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律第4条第1項
- 供託規則第24条第1項第1号
- 最高裁判所第三小法廷令和5年2月20日決定・刑集77巻2号13頁
- 最高裁判所第一小法廷昭和49年3月7日判決・民集28巻2号174頁
- 最高裁判所第三小法廷昭和55年1月11日判決・民集34巻1号42頁
このページの位置付けと、関連するページ
本ページは、ファクタリング会社側の法務に関する解説の中核となるページです。個別の論点は、次の各ページに整理しています。
同じ主題を扱う関連ページ
具体的な御相談をお考えの皆様へ
本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次の御案内のページに整理しています。あわせて御覧ください。

