架空債権によるファクタリングをしてしまったとき 民事上の責任と刑事上の責任及び対応の順序

売掛債権をファクタリング業者へ譲渡するに当たり、実際には存在しない売掛債権を存在するかのように装ってしまった。あるいは、既に譲渡した売掛債権を重ねて他の業者へ譲渡してしまった。売掛先から受領した金銭を業者へ引き渡さずに他の支払に充ててしまった。資金繰りが逼迫した局面で、そのような取引に及んでしまったという御相談を、当事務所は数多く受けてまいりました。
この局面では、業者に対する民事上の責任、刑事上の責任、売掛先との取引関係の維持、そして資金繰りの再建という、性質の異なる複数の問題が同時に進行します。どの問題から手を付けるかを誤りますと、後の選択肢が狭まります。
本ページは、架空債権によるファクタリングをめぐる問題の全体像を整理した中核となるページです。個別の論点は、末尾に掲げる各ページに整理しています。
まず、事実関係を3つに分けて把握してください
御相談をいただく際に、最初に整理していただきたいのは、次の3つの区別です。この区別が曖昧なまま対応を始めますと、業者に対して述べるべきでない事実を述べてしまい、あるいは主張することができるはずの事実を主張しないままとなります。
| 譲渡した債権の実在性 | 譲渡の対象とした売掛債権が、契約締結の時点で実在していたかどうか。実在していたが金額が過大であったのか、取引そのものが存在しなかったのかによって、法的な評価は異なります。 |
| 業者の認識 | 業者が、譲渡の対象とした債権の内容についてどのような認識を有していたか。業者の側から資料の作成を指示された事実があるかどうか。 |
| 資金の流れ | 業者から受領した金銭の使途。売掛先から受領した金銭の帰属及び使途。複数の業者との間で資金が循環していないかどうか。 |
問題となり得る犯罪 条文に即して整理します
詐欺罪(刑法第246条)
刑法第246条第1項は、人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の拘禁刑に処する旨を定めています。同条第2項は、前項の方法により財産上不法の利益を得た場合について同様の刑を定めています。
詐欺罪が成立するためには、(1)人を欺く行為があること、(2)これにより相手方が錯誤に陥ったこと、(3)錯誤に基づく財産の処分行為があったこと、(4)財物又は財産上の利益の移転があったこと、及び(5)これらについての故意と不法領得の意思があることが必要とされています。
したがって、譲渡の対象とした債権の実在性について業者を欺く行為があったといえるか、業者が資料の内容を信じて買取代金を交付したといえるか、そして契約締結の時点で行為者にどのような認識があったかが、事案ごとに検討されることになります。
私文書偽造罪及び偽造私文書等行使罪(刑法第159条、第161条)
売掛先の名義の請求書、注文書、検収書その他の権利義務又は事実証明に関する文書を、権限がないのに作成した場合には、私文書偽造罪(刑法第159条第1項。3月以上5年以下の拘禁刑)の成否が問題となります。これを業者へ提出した場合には、偽造私文書等行使罪(刑法第161条第1項)の成否も問題となります。
横領罪及び業務上横領罪(刑法第252条、第253条)
2社間ファクタリングにおいて、譲渡の対象とした売掛債権について売掛先から弁済を受けた金銭は、契約上、業者へ引き渡すべきものとされているのが通常です。この金銭を他の用途に費消した場合には、横領罪(刑法第252条第1項。5年以下の拘禁刑)又は業務上横領罪(刑法第253条。10年以下の拘禁刑)の成否が問題となります。
もっとも、当該金銭が誰の所有に属するか、行為者がこれを「自己の占有する他人の物」として占有していたといえるかは、契約の内容及び資金の管理の実態によって判断が分かれ得るところです。この点は、契約書の文言を実際に確認しなければ判断することができません。
「被害額がいくら以上であれば実刑となる」という基準はありません
被害額の多寡のみによって刑の重さが一義的に定まるという取扱いはされていません。当事務所は、被害額を基準として結論を述べる説明を、正確でないものと考えています。
刑法第25条第1項は、3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金の言渡しを受けたときに、情状により、その執行を猶予することができる旨を定めています。すなわち、執行猶予を付すことができるかどうかは、宣告される刑がこの範囲に収まるかどうかによって決せられます。
そして、宣告される刑は、犯行の態様、計画性の有無及び程度、被害の額、被害の回復の状況、示談の成否、前科及び前歴の有無、反省の状況その他の一切の事情を考慮して定められます。とりわけ、被害の回復及び示談の成否は、量刑上も、また検察官が公訴を提起するかどうかの判断(刑事訴訟法第248条)においても、重要な考慮要素となります。
業者の認識が問題となる場合
詐欺罪は、人を欺く行為があることを要件としています。したがって、譲渡の対象とした債権の内容について業者が正確に認識していた場合には、欺く行為があったとはいえないことになります。
実務上、業者の担当者から資料の作成の方法について示唆を受けた、実在しない取引に係る請求書の提出を求められた、という御相談を受けることがあります。このような事情が認められる場合には、業者の認識の内容が重要な事実となります。
もっとも、次の点には注意が必要です。第1に、担当者個人の認識と、業者という法人の認識とは、必ずしも同一に評価されるとは限りません。第2に、これらの事情は、資料によって裏付けることができなければ、主張として維持することが困難です。したがって、当時の連絡の記録、担当者との通信の履歴、提出を求められた資料の一覧を、いま保全しておく必要があります。
なお、業者との契約書には、譲渡の対象とする債権が実在することについての表明及び保証の条項が置かれているのが通常です。この条項の効力がどの範囲に及ぶかは、業者の認識の内容と併せて検討すべき事項です。
破産をすれば問題が解消するわけではありません
破産手続における免責は、破産債権についての責任を免れさせる制度です(破産法第253条第1項本文)。刑事上の責任は、この制度の対象ではありません。
また、破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権は、免責の対象から除かれています(破産法第253条第1項第2号)。さらに、破産者が信用取引により財産を取得し、その財産について詐術を用いた場合は、免責不許可事由に当たるものとされています(破産法第252条第1項第5号)。
したがって、「破産をすれば解決する」という前提で対応を組み立てることは適当ではありません。他方で、事業の継続が困難である場合に、私的整理、民事再生又は破産のいずれの手続によるかを検討すること自体は、必要な作業です。
放置した場合に失われるもの
この局面では、時間の経過そのものが不利益をもたらします。
第1に、被害の弁償及び示談に関する交渉は、業者が刑事告訴を行う前と後とで、条件が大きく異なります。告訴の前であれば、支払の方法についての協議に応じる業者は少なくありません。
第2に、複数の業者との間で取引がある場合、一の業者への対応が他の業者へ伝わることがあります。順序を定めずに個別に対応しますと、全体の収拾が困難になります。
第3に、売掛先に対して債権譲渡の通知がされますと、取引関係そのものが失われるおそれがあります。売掛先との取引が事業の基盤である場合、これは資金繰りの再建を著しく困難にします。
第4に、資料の保全が遅れますと、業者の認識に関する主張を裏付けることができなくなります。通信アプリケーションの履歴は、期間の経過により参照することができなくなることがあります。
業者の事情
業者がどのように行動するかを理解しておくことは、対応の順序を定めるうえで有用です。
第1に、買い取った債権が回収不能となった場合、業者にはそのまま損失が生じます。したがって、業者にとっての第一の関心は、金銭の回収にあります。
第2に、刑事告訴は、それ自体が業者にとって金銭の回収をもたらすものではありません。むしろ、行為者の身柄が拘束されれば、弁済の原資を得ることは困難になります。この点は、協議の余地が残されていることを示しています。
第3に、業者の中には、同種の事案が繰り返されることを防ぐ必要があると考えている者があります。この場合には、金銭の回収のみによって解決を図ることは難しくなります。
なお、ファクタリング業者について、一律に違法な業者であるとか、貸金業者であるといった評価を述べることは、当事務所としては差し控えます。個々の取引が売買としての実質を有するのか、金銭の貸付けとしての実質を有するのかは、契約の内容及び運用の実態に即して個別に判断されるべき事項です。この論点については、末尾に掲げる関連ページに整理しています。
業者に対して直接に事情を説明することの是非
資料の内容について業者から問合せを受けた段階で、経営者の方が直接に事情を説明されることがあります。
この場面で述べた内容は、後に書面又は録音として証拠化され、刑事及び民事の双方の手続において用いられることがあります。また、支払の方法についての合意が、法的な検討を経ないまま形成されてしまうこともあります。
したがって、業者との連絡の窓口をどのように設定するか、どの範囲の事実をどのような方法で伝えるかについては、あらかじめ整理しておく必要があります。事実と異なる説明を重ねることは、いずれの局面においても不利に働きます。
いま確認していただきたいこと
1 債権譲渡契約書、基本契約書及び個別契約書の全部を、業者ごとに時系列で整理してください。表明及び保証の条項、回収金の取扱いに関する条項、契約解除の条項に付箋を付してください。
2 業者へ提出した資料(請求書、注文書、検収書、通帳の写し、決算書類等)の控えを、提出の日付とともに整理してください。
3 売掛先からの入金の記録及び業者への送金の記録を、通帳又は取引明細により確認し、複数の業者との間で資金の循環が生じていないかを確認してください。
4 業者の担当者との連絡の記録(電子メール、通信アプリケーションの履歴、着信の履歴、録音)を保全してください。削除しないでください。
5 売掛先に対して債権譲渡の通知がされているかどうか、また、債権譲渡登記がされているかどうかを確認してください。
よくあるご質問
まだ業者から何も言われていません。いま相談する必要がありますか。
業者から連絡がある前の段階が、最も選択肢の広い局面です。支払の方法についての協議、資金繰りの立て直し、売掛先との取引関係の維持のいずれについても、取り得る手段が残されています。
業者から刑事告訴をすると通知されました。必ず逮捕されるのでしょうか。
告訴は、捜査の端緒の1つです。告訴がされたことによって当然に逮捕がされるものではありません。逮捕は、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があり、かつ、逮捕の必要があると裁判官が認めた場合に、令状によって行われます(刑事訴訟法第199条)。
業者の担当者から資料を作るように言われました。この事情は主張することができますか。
業者の認識の内容は、詐欺罪の成否に関わる重要な事実です。もっとも、これを裏付ける資料がなければ、主張として維持することは困難です。当時の連絡の記録を、いま保全してください。
複数の業者との間で問題が生じています。どこから手を付けるべきでしょうか。
各業者との契約の内容、譲渡した債権の重なりの有無、既に受領した金銭の帰属を整理したうえで、優先順位を定める必要があります。事実関係の整理を先行させることが、結果として最も早い解決につながります。
売掛先に知られずに解決することはできますか。
売掛先に対する債権譲渡の通知がされていない段階であれば、通知を回避し、又は時期を遅らせることに向けた協議の余地があります。もっとも、結果を保証することはできません。売掛先との取引の重要性を含めて、優先順位を定める必要があります。
おわりに
架空債権によるファクタリングの問題は、事実関係を正確に把握し、優先順位を定めて対応することにより、道筋を付けることができます。最も避けるべきは、事実を曖昧にしたまま個別の連絡に場当たり的に応答し、選択肢を自ら狭めていくことです。
当事務所は、ファクタリングに関する紛争を数多く取り扱ってまいりました。どの段階からであっても、御相談をいただくことができます。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
架空債権によるファクタリングに関する御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)
出典
- 刑法第25条第1項、第159条第1項、第161条第1項、第246条第1項及び第2項、第252条第1項、第253条
- 刑事訴訟法第199条、第248条
- 破産法第252条第1項第5号、第253条第1項本文及び同項第2号
- 民法第466条第1項、第467条、第555条
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