事実と異なる代表者の変更の登記がされたとき 仮処分の申立てと登記の抹消の手続

株式会社の定款

この記事の位置付け

不正な債権譲渡をめぐる問題は、民事上の責任が問われる場面と、刑事上の責任が問われる場面とに分かれますので、次のとおり切り分けます。本ページは、事実と異なる登記がされた場合の仮処分と抹消の手続を扱います。

▶ 架空債権によるファクタリングをしてしまったとき 民事上の責任と刑事上の責任及び対応の順序

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本記事は、ファクタリングの取引に際して交付した書面等が用いられ、知らない間に会社の代表者を変更する事実と異なる登記がされてしまった会社の経営者の方に向けたものです。

このような場合には、職務執行停止及び職務代行者選任の仮処分等の申立て、登記の抹消の申請、株主総会の決議の不存在の確認の訴え等の手続を採ることが考えられます。あわせて、金融機関や主要な取引先への連絡、印鑑及び重要書類の保全を並行して行い、会社財産の処分や取引関係の喪失を防ぐことが重要です。以下、時間の順序に沿ってご説明します。

知らない間に会社の代表取締役が変更されていた。登記事項証明書を取得したところ、役員全員が解任され、面識のない者が就任していた。このようなご相談をお受けすることがあります。

ファクタリングの取引に際して交付した白紙の委任状、印鑑証明書、株式の担保に関する書面が用いられ、又は議事録が偽造されて、事実と異なる登記がされることがあります。このような登記がされますと、会社の預金口座の管理、契約の締結、取引の継続に直ちに支障が生じます。

本ページでは、事実と異なる代表者の登記がされた場合に採り得る手続を、時間の順序に沿って整理します。個別の事案における結果を保証するものではありません。

仮処分の申立てにおいて必要となる資料

第1に、履歴事項全部証明書です。現在の登記の内容と、変更の経緯を示します。

第2に、株主名簿です。議決権の帰属を示します。株主名簿が作成されていない場合には、法人税の確定申告書に添付される同族会社等の判定に関する明細書、株式の取得の経緯を示す資料により補います。

第3に、定款です。株式の譲渡の制限の有無、役員の員数、株主総会の招集の手続を確認します。

第4に、株主総会の招集の通知の有無を示す資料です。招集の通知がされていないことは、決議の不存在を基礎付ける事情となります。

第5に、当該登記の申請書及び添付書類です。閲覧により内容を確認し、可能であれば写しの交付を受けます。

第6に、白紙の委任状又は印鑑証明書を交付した経緯を示す資料です。交付の時期、相手方、目的について、当時のやり取りの記録を収集します。

保全の必要性の疎明

仮処分の申立てにおいては、被保全権利のほか、保全の必要性を疎明する必要があります。次の事情が該当します。

第1に、会社財産が処分されるおそれです。預金の払戻し、不動産の処分、事業の譲渡がされた場合には、原状の回復が著しく困難となります。

第2に、取引先との関係が失われるおそれです。登記上の代表者が取引先に連絡した場合には、取引の継続が困難となります。

第3に、従業員の雇用に影響するおそれです。

第4に、金融機関との関係に影響するおそれです。預金口座が凍結され、又は融資が停止されることがあります。

第5に、事態が既に進行していることです。実際に払戻しがされ、又は連絡がされている事実があれば、これを疎明します。

並行して行うべき対応

第1に、金融機関への連絡です。事情を説明し、払戻しについて慎重な取扱いを求めます。

第2に、主要な取引先への連絡です。事実関係と対応の状況を説明し、登記上の代表者からの連絡に応じないよう求めます。

第3に、印鑑及び重要書類の保全です。会社の実印、銀行印、契約書、帳簿の所在を確認し、確保します。

第4に、従業員への説明です。事実関係と対応の方針を説明し、登記上の代表者からの指示に従わないよう伝えます。

第5に、株主総会の決議の不存在の確認の訴えその他の本案の準備です。仮処分は暫定的な措置ですので、本案の手続を併せて進める必要があります。

是正が完了した後の対応

第1に、履歴事項全部証明書を取得し、登記の内容が是正されていることを確認してください。

第2に、金融機関に対して、是正の完了を報告してください。口座の凍結が解除されるまでに時間を要することがあります。

第3に、取引先に対して、経緯と結果を説明してください。書面により行うことが確実です。

第4に、白紙の委任状、印鑑証明書その他の書面のうち、返還を受けていないものがある場合には、改めて返還を求めてください。

第5に、再発を防ぐため、印鑑及び重要書類の管理の方法を見直してください。あわせて、履歴事項全部証明書を定期的に取得する運用を定めてください。

本ページの位置付け

本ページは、事実と異なる代表者の変更の登記がされた事業者の方に向けて、仮処分の申立てと登記の抹消の手続を整理したものです。

時間の経過とともに原状の回復が困難となりますので、履歴事項全部証明書を取得して登記の内容を確認したうえで、直ちにご相談ください。

あわせて、白紙の委任状、印鑑証明書、株式の担保に関する書面については、交付の前にその用途及び範囲を確認することが、予防として重要です。

まず確認すべき事項

第1に、履歴事項全部証明書を取得し、いつ、どのような登記がされているかを確認してください。登記の年月日、登記の原因、就任した者の氏名及び住所を確認します。

第2に、登記の申請書及び添付書類の閲覧を求めてください。解任されたとされる役員のうちのいずれかが閲覧を求めた場合には、届出印又は運転免許証の提示等の適宜の方法により、登記簿上の役員本人又はその代理人であることを確認したうえで、閲覧に応じられる取扱いとされています。仮処分の申立てのために必要である等の事情が認められる場合には、申請書等の写しの交付を受けることができる場合もあります。

第3に、当該登記の基礎となった書面が、自らが署名押印したものであるかどうかを確認してください。白紙の委任状を交付した記憶がある場合には、その経緯を記録してください。

第4に、会社の預金口座、印鑑、重要書類の所在を確認してください。

採り得る手続

職務執行停止及び職務代行者選任の仮処分

争いのある登記上の代表者について、その職務の執行を停止し、職務を代行する者を選任する旨の仮処分を求めることができます。この仮処分の命令があった場合には、その旨の登記は、裁判所の嘱託によってされることとなります(民事保全法第56条)。

この手続により、登記上の代表者による会社財産の処分、契約の締結といった行為を止めることができます。緊急性が高い場合には、この手続を先行させることとなります。

登記に係る代表者が代表者の地位にないことを仮に定める仮処分

民事保全法第23条第2項に基づく仮の地位を定める仮処分として、登記に係る代表者が代表者の地位にないことを仮に定める内容の仮処分を求めることができます。

登記が完了する前に、解任されたとされる代表者から、当該申請に係る申請人が代表者の地位にないことを仮に定める内容の仮処分決定書等が提出された場合には、当該決定書等を当該登記申請の審査の資料とすることができるものとされています。

登記の抹消の申請

登記が完了した後に、解任されたとされる代表者から、申請書にその者が代表者の地位にあること及び登記に係る代表者は代表者の地位にないことを仮に定める内容の仮処分決定書等を添付して、当該登記の抹消の申請がされた場合には、他に却下事由がない限り、当該登記の抹消の登記をすることができるものとされています(商業登記法第109条第2項、第107条第2項本文参照。同法第109条第1項第2号)。

株主総会の決議の不存在の確認の訴え等

登記の基礎となった株主総会の決議について、その不存在の確認、又は無効の確認を求める訴えを提起することができます(会社法第830条第1項及び第2項)。決議の取消しを求める場合には、決議の日から3箇月以内に訴えを提起しなければなりません(同法第831条第1項)。

刑事上の対応

公務員に対し虚偽の申立てをして、登記簿に不実の記録をさせた者は、公正証書原本不実記載罪により処罰されます(刑法第157条第1項)。また、議事録その他の書面が偽造された場合には、私文書偽造罪及び同行使罪(同法第159条第1項、第161条第1項)の成否が問題となります。

登記所における取扱い

会社又は法人の役員全員の解任を内容とする変更登記の申請があった場合には、速やかに、当該会社又は法人に適宜の方法で連絡するものとされています。この連絡を受けた場合には、直ちに対応を開始してください。

また、上記のとおり、登記完了の前後を通じて、仮処分決定書等が審査の資料とされ、又は抹消の申請の添付書類とされる取扱いが定められています。したがって、仮処分の申立てを速やかに行うことが、実務上最も有効な対応です。

時間の経過によって失われるもの

第1に、登記上の代表者による会社財産の処分がされることがあります。預金の払戻し、不動産の処分、事業の譲渡がされた場合には、原状の回復が著しく困難となります。

第2に、取引先との関係が失われます。登記上の代表者が取引先に連絡した場合には、取引の継続が困難となります。

第3に、株主総会の決議の取消しを求める場合には、決議の日から3箇月以内に訴えを提起しなければなりません。

第4に、資料が失われます。会社の印鑑、重要書類が持ち出された場合には、手続に支障が生じます。

予防のために確認すべき事項

1 用途及び範囲が記載されていない委任状には署名押印しないこと。

2 印鑑証明書の交付を求められた場合には、用途と通数を確認すること。

3 株式の担保に関する書面については、実行の要件及び方法を確認すること。

4 定款における株式の譲渡の制限の有無を確認すること。

5 履歴事項全部証明書を定期的に取得し、登記の内容を確認すること。

法令の適用に関する前提

ファクタリングは売掛債権の売買であり、金銭の貸付けではありませんので、貸金業法、利息制限法及び出資法の適用はありません。したがって、手数料の水準が高いことのみを理由として、これらの法令に違反するということにはなりません。もっとも、売買の形式が採られていても、その実質において金銭の貸付けと同視すべきであると判断された下級審裁判例がありますので、契約の内容及び運用の実態によっては、別途の検討を要します。

他方で、本ページで述べた登記に関する問題は、取引の性質にかかわらず生じるものです。取引が適法であることと、個別の行為が適法であることとは、別の問題です。

よくあるご質問

登記を元に戻すには、どのくらいの期間を要しますか。

仮処分の申立てから決定までの期間は、事案の内容及び疎明資料の状況によって異なります。緊急性が高い場合には、その旨を疎明したうえで申立てを行うこととなります。

まず何をすべきでしょうか。

履歴事項全部証明書を取得し、登記の内容を確認してください。あわせて、会社の預金口座の状況を確認してください。そのうえで、直ちにご相談ください。

白紙の委任状を交付した記憶があります。

交付の経緯、時期、相手方を記録してください。用途を偽って交付を受けた場合には、別途の問題が生じ得ます。

刑事告訴をすることはできますか。

公正証書原本不実記載罪、私文書偽造罪等の成否が問題となります。もっとも、刑事上の手続と、登記を是正する民事上の手続とは別ですので、まず民事上の手続を先行させることが一般です。

取引先にどのように説明すべきでしょうか。

事実関係を正確に伝えたうえで、対応の状況を説明することとなります。説明の内容及び順序については、あらかじめ整理しておく必要があります。

預金口座が凍結されました。

金融機関に対し、登記の是正に向けた手続を行っている旨を説明し、必要な資料を提出することとなります。並行して、当面の資金繰りの手当てを検討する必要があります。

おわりに

事実と異なる代表者の登記がされた場合には、時間の経過とともに原状の回復が困難となります。まず履歴事項全部証明書を取得して登記の内容を確認し、仮処分の申立てを速やかに行うことが、実務上最も有効な対応です。

あわせて、白紙の委任状、印鑑証明書、株式の担保に関する書面については、交付の前にその用途及び範囲を確認することが、予防として重要です。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

事実と異なる登記がされた場合のご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)

ご留意事項

本ページの記載は、事実と異なる登記がされた場合の対応に関する一般的な法制度及び当事務所の取扱いの説明であり、個別の事案について一定の結果を保証するものではありません。見通し、要する期間、回収し又は負担する金額その他の帰結は、事案ごとの事実関係及び資料によって異なります。

また、課税関係につきましては税理士の職域ですので、当事務所において判断することはいたしません。税務上の取扱いについては、顧問税理士にご確認ください。

法令の改正、裁判例の集積により内容が変わる場合には、記載を改めます。実際のご依頼に際しましては、必ず個別にご相談ください。ご相談の内容は、弁護士法上の守秘義務に基づき秘密を厳守いたします。

出典

  • 民事保全法第23条第2項、第56条
  • 商業登記法第107条第2項、第109条第1項第2号及び第2項
  • 会社法第830条第1項及び第2項、第831条第1項
  • 刑法第157条第1項、第159条第1項、第161条第1項
  • 役員全員の解任を内容とする登記申請があった場合の取扱いについて(平成15年5月6日付け民商第1405号民事局商事課長通知)

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件に関与し、平成23年には最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得ております。現在は弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士を務めております。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

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