架空債権によるファクタリングで刑事責任を問われるおそれがあるとき 問題となる犯罪と捜査手続の流れ

法服姿の裁判官と木槌

この記事の位置付け

不正な債権譲渡をめぐる問題は、民事上の責任が問われる場面と、刑事上の責任が問われる場面とに分かれますので、次のとおり切り分けます。本ページは、問題となる犯罪の類型と捜査手続の流れを扱います。

▶ 架空債権によるファクタリングをしてしまったとき 民事上の責任と刑事上の責任及び対応の順序

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ファクタリング業者に対し、実際には存在しない売掛債権を存在するかのように装って債権譲渡契約を締結してしまった。あるいは、既に他の業者へ譲渡した売掛債権を、重ねて別の業者へ譲渡してしまった。資金繰りに窮した局面で、そのような取引に及んでしまったというご相談を受けることがあります。

このような取引は、刑法上の詐欺罪その他の犯罪の成否が問題となり得る行為です。近年、ファクタリング業者が刑事告訴を行い、捜査機関が捜査に着手した事例が報道されています。

本ページでは、架空債権によるファクタリングについて、どのような犯罪の成否が問題となるのか、捜査手続はどのように進むのか、そして、いま何を確認していただく必要があるのかを、条文に即して整理します。

なお、犯罪の成否も、捜査機関の判断も、事案ごとの事実関係によって異なります。本ページの記載は一般的な説明であり、個別の事案の結論を示すものではありません。

架空債権によるファクタリングとは、どのような取引か

ファクタリングは、事業者が有する売掛債権を業者へ譲渡し、その対価の支払を受ける取引です。民法上は債権の譲渡(民法第466条第1項)であり、その法的性質が売買(民法第555条)であるのか、金銭の貸付けであるのかは、後記のとおり争いのある論点です。

業者は、売掛先から売掛金を回収することができることを前提として、債権の譲渡を受けます。そのため、譲渡の対象となる売掛債権が実在することを確認するため、請求書、注文書、通帳の入出金の履歴、契約書その他の資料の提出を求めます。

ここで、実在しない売掛債権を実在するかのように装う取引が問題となります。実務上、次の類型が見られます。

架空債権の作出 実際には存在しない取引があったかのように装い、売掛債権が存在するかのように見せかけて譲渡する類型です。
二重譲渡 既に一の業者へ譲渡した売掛債権を、その事実を告げずに他の業者へ重ねて譲渡する類型です。
売掛先の信用状態の秘匿 売掛先が支払不能の状態にあること、又は近く支払が困難となる見込みであることを認識しながら、これを告げずに当該売掛先に対する売掛債権を譲渡する類型です。
回収金の不引渡し 2社間ファクタリングにおいて、譲渡した売掛債権の弁済として売掛先から受領した金銭を、業者へ引き渡さずに他の用途に費消する類型です。

いずれも、業者に対する損害の発生が問題となる行為であり、民事上の責任のみならず、刑事上の責任の成否が問題となり得ます。

問題となり得る犯罪 条文に即して整理します

詐欺罪(刑法第246条)

刑法第246条第1項は、人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の拘禁刑に処する旨を定めています。同条第2項は、前項の方法により財産上不法の利益を得た場合について、同様の刑を定めています。

詐欺罪が成立するためには、(1)人を欺く行為があること、(2)これにより相手方が錯誤に陥ったこと、(3)錯誤に基づく財産の処分行為があったこと、(4)財物又は財産上の利益の移転があったこと、及び(5)これらについての故意と不法領得の意思があることが必要とされています。

したがって、売掛債権の実在性について業者を欺く行為があったといえるか、業者が資料の内容を信じて債権買取代金を交付したといえるか、契約締結の時点で行為者にどのような認識があったかが、事案ごとに検討されることになります。資金繰りの見通しについての認識、譲渡の対象とした債権の内容、業者に提出した資料の作成の経緯といった事情が、いずれも検討の対象となります。

私文書偽造罪及び同行使罪(刑法第159条、第161条)

売掛先の名義の請求書、注文書、検収書その他の権利義務又は事実証明に関する文書を、権限がないのに作成した場合には、私文書偽造罪(刑法第159条第1項)の成否が問題となります。刑法第159条第1項は、行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、3月以上5年以下の拘禁刑に処する旨を定めています。

偽造した文書を業者へ提出した場合には、偽造私文書等行使罪(刑法第161条第1項)の成否も問題となります。

横領罪及び業務上横領罪(刑法第252条、第253条)

2社間ファクタリングにおいて、譲渡の対象とした売掛債権について売掛先から弁済を受けた金銭は、契約上、業者へ引き渡すべきものとされているのが通常です。この金銭を他の用途に費消した場合には、横領罪(刑法第252条第1項)又は業務上横領罪(刑法第253条)の成否が問題となります。もっとも、当該金銭が誰の所有に属するか、行為者がこれを「自己の占有する他人の物」として占有していたといえるかは、契約の内容及び資金の管理の実態によって判断が分かれ得るところです。

「損害額がいくら以上であれば実刑となる」という基準はありません

被害額の多寡のみによって刑の重さが一義的に定まるという取扱いはされていません。

刑法第25条第1項は、3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金の言渡しを受けたときに、情状により、その執行を猶予することができる旨を定めています。すなわち、刑の執行を猶予することができるかどうかは、宣告される刑がこの範囲に収まるかどうかによって決せられます。

そして、宣告される刑は、犯行の態様、計画性の有無及び程度、被害の額、被害の回復の状況、示談の成否、前科及び前歴の有無、反省の状況その他の一切の事情を考慮して定められます。被害の弁償及び示談の成否は、量刑上の考慮要素として重要な意味を持ちます。

したがって、「被害額が一定額を超えれば必ず実刑となる」といった説明は正確ではありません。弁護人としては、被害の回復及び示談の成立に向けた活動を早期に行うことが、最も実質的な意味を持つと考えています。

刑事責任が問題とならない場合もあります

詐欺罪は、人を欺く行為があることを要件としています。したがって、譲渡の対象とした債権の内容について業者が正確に認識していた場合には、そもそも欺く行為があったといえないことになります。

実務上、業者の側から資料の作成の方法を指示された、実在しない取引に係る請求書の提出を求められた、というご相談を受けることがあります。このような事情がある場合には、業者の認識の内容が重要な事実となりますので、当時の連絡の記録、担当者との通信の履歴、提出を求められた資料の一覧といった資料を保全しておく必要があります。

もっとも、業者の担当者に認識があったことと、業者という法人に認識があったこととは、必ずしも同一ではありません。この点は、事案ごとに慎重な検討を要します。

捜査手続はどのように進むのか 時期を予測することはできません

捜査機関がいつ、どのような処分を行うかを、外部から予測することはできません。「取立てが止まってから何か月で捜査が始まる」「捜索がされてから何日で逮捕される」といった時期の予測を述べることは、当事務所としては差し控えます。

他方で、刑事訴訟法が定める手続の骨格は、次のとおりです。

任意の出頭要請及び取調べ 捜査機関は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができます(刑事訴訟法第198条第1項本文)。ただし、被疑者は、逮捕又は勾留をされている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後何時でも退去することができます(同項ただし書)。
供述拒否権の告知 取調べに際しては、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならないものとされています(刑事訴訟法第198条第2項)。
供述調書の作成 供述調書は、閲覧させ、又は読み聞かせて、誤りがないかどうかを問わなければならず、被疑者が増減変更の申立てをしたときは、その供述を調書に記載しなければならないものとされています(刑事訴訟法第198条第4項)。また、署名押印は、これを拒むことができます(同条第5項)。
逮捕後の手続 司法警察員は、被疑者を受け取ったときは、48時間以内に書類及び証拠物とともに被疑者を検察官に送致する手続をしなければならないものとされています(刑事訴訟法第203条第1項)。検察官は、被疑者を受け取ったときは、24時間以内に勾留の請求をしなければならないものとされています(同法第205条第1項)。
勾留の期間 勾留の期間は、勾留の請求をした日から10日とされ、やむを得ない事由があると認めるときは、通じて10日を超えない範囲で延長することができるものとされています(刑事訴訟法第208条第1項、第2項)。

なお、被疑者として取調べを受ける場合であっても、逮捕されるとは限りません。他方で、任意の取調べに応じないことをもって直ちに逮捕されるものでもありません。逮捕は、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があり、かつ、逮捕の必要があると裁判官が認めた場合に、令状によって行われるものです(刑事訴訟法第199条第1項、第2項)。

「偽証罪になる」と言われた場合について

偽証罪は、法律により宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときに成立するものとされています(刑法第169条)。捜査段階における被疑者の供述は、宣誓を伴うものではありませんので、この規定の適用の対象とはなりません。

もっとも、これは事実と異なる供述をしてよいという趣旨ではありません。事実と異なる供述は、後の手続において供述の信用性が争われる原因となり、かえって不利益に働くことがあります。記憶が明確でない事項について、記憶に反する供述をすることは避けるべきです。

業者に対して直接に事情を説明することの是非

資料の内容について業者から問合せを受けた段階で、経営者の方が直接に事情を説明されることがあります。

この場面で述べた内容は、後に書面又は録音として証拠化され、刑事及び民事の双方の手続において用いられることがあります。また、支払の方法についての合意が、法的な検討を経ないまま形成されてしまうこともあります。

したがって、業者との連絡の窓口をどのように設定するか、どの範囲の事実をどのような方法で伝えるかについては、あらかじめ整理しておく必要があります。

いま確認していただきたいこと

次の各点は、ご相談をいただく前に確認していただくことのできる事項です。

1 債権譲渡契約書、基本契約書及び個別契約書の全部を、締結した業者ごとに時系列で整理してください。

2 業者へ提出した資料(請求書、注文書、検収書、通帳の写し、決算書類等)の控えを、提出の日付とともに整理してください。

3 売掛先からの入金の記録及び業者への送金の記録を、通帳又は取引明細により確認してください。

4 業者の担当者との連絡の記録(電子メール、通信アプリケーションの履歴、着信の履歴、録音)を保全してください。削除しないでください。

5 捜査機関から連絡を受けている場合には、連絡のあった日時、所属及び氏名、伝えられた用件を記録してください。

よくあるご質問

業者から刑事告訴をすると通知されました。告訴されると必ず逮捕されるのでしょうか。

告訴は、捜査の端緒の1つです。告訴がされたことによって当然に逮捕がされるものではありません。逮捕は、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があり、かつ、逮捕の必要があると裁判官が認めた場合に、令状によって行われます(刑事訴訟法第199条)。

被害の弁償をすれば、刑事責任を問われないのでしょうか。

被害の弁償及び示談の成立は、量刑上の重要な考慮要素であり、また、検察官が公訴を提起するかどうかの判断(刑事訴訟法第248条)においても考慮される事情です。もっとも、弁償をしたことによって当然に犯罪が成立しなくなるものではありません。

捜査機関から出頭を求められました。応じなければならないのでしょうか。

逮捕又は勾留をされている場合を除き、出頭を拒み、又は出頭後何時でも退去することができるものとされています(刑事訴訟法第198条第1項ただし書)。もっとも、応じるかどうかの判断は、事案の状況によって異なりますので、応答をされる前に弁護士にご相談ください。

取調べにおいて弁護人を選任することはできますか。

被疑者は、いつでも弁護人を選任することができます(刑事訴訟法第30条第1項)。逮捕又は勾留をされていない段階においても、弁護人を選任し、捜査機関に対して意見を述べ、又は弁護人を通じて対応を行うことができます。

複数の業者との間で問題が生じています。どこから手を付けるべきでしょうか。

各業者との契約の内容、譲渡した債権の重なりの有無、既に受領した金銭の帰属を整理したうえで、優先順位を定める必要があります。事実関係の整理を先行させることが、結果として最も早い解決につながります。

おわりに

架空債権によるファクタリングの問題は、刑事上の責任、業者に対する民事上の責任、売掛先との取引関係の維持、そして資金繰りの再建という、性質の異なる複数の問題が同時に進行する局面です。

いずれの問題も、事実関係を正確に把握したうえで、優先順位を定めて対応することにより、道筋を付けることができます。当事務所は、ファクタリングに関する紛争を数多く取り扱ってまいりました。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

架空債権によるファクタリングと刑事責任に関するご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)

出典

  • 刑法第25条第1項、第159条第1項、第161条第1項、第169条、第246条第1項及び第2項、第252条第1項、第253条
  • 刑事訴訟法第30条第1項、第198条第1項から第5項まで、第199条第1項及び第2項、第203条第1項、第205条第1項、第208条第1項及び第2項、第248条
  • 民法第466条第1項、第555条

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