ファクタリング業者へ事実と異なる請求書又は通帳の写しを提出してしまったとき 問題となる責任と対応の順序

この記事の位置付け
不正な債権譲渡をめぐる問題は、民事上の責任が問われる場面と、刑事上の責任が問われる場面とに分かれますので、次のとおり切り分けます。本ページは、事実と異なる資料を提出した場合の責任と対応の順序を扱います。
▶ 架空債権によるファクタリングをしてしまったとき 民事上の責任と刑事上の責任及び対応の順序
同じ主題を扱う関連ページ
- ▶ ファクタリング業者が債権の内容を知っていた場合 欺罔行為の有無と表明保証条項の意味
- ▶ 架空債権によるファクタリングで刑事責任を問われるおそれがあるとき 問題となる犯罪と捜査手続の流れ
- ▶ 捜査機関から連絡を受けたとき 架空債権によるファクタリングの事案で確認すべき事項と対応の順序
- ▶ 架空債権によるファクタリングをめぐる逮捕の報道について 報じられた事実と、そこから確認できること
- ▶ 売掛債権を二重に譲渡してしまったとき 譲受人相互の優劣、責任の内容及び対応の順序
- ▶ 回収した売掛金をファクタリング業者へ引き渡さなかったとき 横領罪の成否と対応の順序
- ▶ 事実と異なる代表者の変更の登記がされたとき 仮処分の申立てと登記の抹消の手続
- ▶ ファクタリングに関する情報の調べ方 誤解されていることの多い記述と確認の手順
本記事は、ファクタリング業者へ実際の取引と異なる請求書や加工した通帳の写しを提出してしまい、今後どのような責任を問われるのか、何から手を付けるべきかを知りたい事業者の方に向けたものです。
ファクタリング業者に対して、実際の取引と異なる内容の請求書を提出してしまった。通帳の記載を加工した写しを提出してしまった。取引の予定はあるものの、まだ請求書を発行することのできない段階で、先に請求書を作成して提出してしまった。このようなご相談を、当事務所は数多くお受けしています。
資金繰りが逼迫した局面では、目前の期日を越えることが優先され、提出する資料の内容にまで注意が向かないことがあります。もっとも、この行為は、民事上の責任にとどまらず、刑事上の責任が問題となる行為です。
本ページでは、事実と異なる資料を提出した場合に問題となる責任の内容、業者の側の対応、採り得る対応の順序、及び時間の経過によって失われるものを整理します。個別の事案における結果を保証するものではありません。
問題となる責任の全体像
事実と異なる資料を提出して資金を得た場合には、民事上の責任と刑事上の責任の双方が問題となります。さらに、売掛先との取引関係及び資金繰りにも影響が及びます。これらは同時に進行し、それぞれ時間の進み方が異なります。
| 刑事上の責任 | 詐欺罪(刑法第246条第1項)、私文書偽造罪及び同行使罪(同法第159条第1項、第161条第1項)の成否が問題となります。 |
| 民事上の責任 | 契約の解除、債権買取代金の返還、表明及び保証の違反に基づく損害の賠償が問題となります。 |
| 売掛先との関係 | 業者が売掛先へ照会を行い、又は債権譲渡の通知を送付することにより、取引関係に影響が生じます。 |
| 資金繰り | 当該業者との取引が停止し、他の業者との関係にも影響が及びます。 |
刑事上の責任
詐欺罪
人を欺いて財物を交付させた者は、詐欺罪により処罰されます(刑法第246条第1項)。詐欺罪が成立するためには、(1)人を欺く行為があること、(2)これにより相手方が錯誤に陥ったこと、(3)錯誤に基づく財産的処分行為があったこと、(4)財物又は財産上の利益の移転があったこと、及び(5)これらについての故意があることを要します。
実在しない売掛債権を譲渡し、これに基づいて債権買取代金を受領した場合には、債権の存在という取引の基礎となる事実について相手方を欺いたものとして、詐欺罪の成否が問題となります。金額を過大に記載した場合も同様です。
もっとも、資料の作成の経緯、業者の担当者の認識、取引の実態によって、判断は異なり得ます。特に、業者の担当者が債権の内容を正確に把握したうえで取引に応じていた場合には、相手方が錯誤に陥ったといえるかどうかが問題となります。
私文書偽造罪及び同行使罪
行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書を偽造した者は、私文書偽造罪により処罰されます(刑法第159条第1項)。これを行使した者も、同様に処罰されます(同法第161条第1項)。
売掛先の名義を用いて注文書、検収書その他の書面を作成した場合には、私文書偽造罪の成否が問題となります。自社の名義による請求書を作成した場合には、名義人と作成者が一致しますので、直ちに偽造には当たりませんが、その内容が事実と異なる場合には、詐欺罪における欺く行為の一部を構成し得ます。
通帳の写しの記載を加工した場合には、当該通帳の名義がどこにあるかによって、判断が異なります。
民事上の責任
債権譲渡契約書には、譲渡する債権が実在すること、金額に誤りがないこと、他に譲渡していないこと等を表明し、保証する条項が置かれていることが一般です。事実と異なる場合には、契約の解除、債権買取代金の返還、損害の賠償が問題となります。
また、期限の利益の喪失に関する条項により、直ちに全額の支払を求められることがあります。損害金及び違約金が加算されることもあります。請求されている金額に疑義がある場合には、算定の根拠を書面により求めてください。
なお、ファクタリングは売掛債権の売買であり、金銭の貸付けではありませんので、貸金業法、利息制限法及び出資法の適用はありません。したがって、手数料の水準が高いことのみを理由として、これらの法令に違反するということにはなりません。もっとも、売買の形式が採られていても、その実質において金銭の貸付けと同視すべきであると判断された下級審裁判例がありますので、契約の内容及び運用の実態によっては、別途の検討を要します。
業者の側の対応
業者が資料の内容に疑いを持つ契機としては、次のものが挙げられます。
- 支払期日に入金がされなかったこと
- 売掛先に対する照会に対し、当該債権の存在が確認されなかったこと
- 他の業者から、同一の売掛先に関する照会を受けたこと
- 債権譲渡登記の調査により、同一の債権に関する登記が判明したこと
- 提出された資料の書式、印影、記載の体裁に不自然な点が認められたこと
業者が採る対応としては、売掛先への照会、債権譲渡の通知の送付、債権買取代金の返還の請求、訴訟の提起、そして刑事告訴があります。業者にとっての最終的な目的は、多くの場合に金銭の回収です。したがって、被害の弁償に関する協議の余地は残されていることが少なくありません。
対応の順序
第1に、事実関係を確定します。業者ごとに、提出した資料、その内容、提出の日付、受領した金額を時系列で整理します。記憶に基づく整理ではなく、資料に基づく整理が必要です。
第2に、連絡の窓口を定めます。個別の連絡に場当たり的に応答しますと、その場で述べた内容が後に書面又は録音として証拠化されます。
第3に、資力の範囲を確定します。被害の弁償に関する協議においては、いつまでに、いくらを支払うことができるかが中心となります。資金繰りの見込みを作成したうえで協議に入ります。
第4に、売掛先との関係を確認します。売掛先を失いますと、弁償の原資そのものが失われます。
第5に、他の業者との関係を整理します。1つの業者との間で示談が成立しても、他の業者との間で同種の問題がある場合には、全体を把握したうえで順序を定める必要があります。
時間の経過によって失われるもの
第1に、被害の弁償及び示談に関する交渉は、業者が刑事告訴を行う前と後とで、条件が大きく異なります。被害の回復に関する事情は、検察官が公訴を提起するかどうかを判断するに当たって考慮される事情の1つとされています(刑事訴訟法第248条)。
第2に、資料は時間の経過とともに失われます。通信アプリケーションの履歴は、機種の変更、保存期間の経過により参照することができなくなることがあります。業者の担当者が退職した場合には、当時のやり取りを確認することが著しく困難になります。
第3に、個別の連絡に場当たり的に応答することにより、選択肢が自ら狭まります。
第4に、資金繰りが悪化するにつれ、弁償に充てることのできる原資が失われます。
資料の作成の経緯の整理
第1に、いつの時点で作成したかを確定してください。資金繰りが逼迫していた時期と一致しているかどうかは、判断において意味を持ちます。
第2に、誰が作成したかを確定してください。ご自身が作成したのか、従業員に指示して作成させたのか、業者の担当者から助言を受けて作成したのかによって、判断が異なります。
第3に、どの程度事実と異なるかを整理してください。取引が全く存在しない場合と、取引は存在するが金額が過大である場合と、取引は存在するが時期が異なる場合とでは、判断が異なります。
第4に、業者の担当者の認識を整理してください。担当者が事情を把握していた場合には、相手方が錯誤に陥ったといえるかどうかが問題となります。
第5に、その後の経過を整理してください。当該資料に基づく取引について、既に支払を完了しているか、なお残額があるかによって、弁償の要否が異なります。
弁償に関する協議の進め方
第1に、弁償すべき金額を確定してください。当該取引により受領した金額のうち、未だ引き渡していない部分が中心となります。
第2に、原資を確定してください。手元資金、今後の入金の予定、資産の処分、第三者からの援助を検討します。
第3に、支払の計画を書面により提示してください。金額、期日、回数を明示します。一括して支払うことができない場合には、分割による支払を提案することとなります。
第4に、告訴の留保を求めてください。弁償が履行されている間は告訴を留保するよう求めます。もっとも、業者に応じる義務はありません。
第5に、合意が成立した場合には、書面を作成してください。弁償の内容、告訴に関する取扱い、清算の範囲を明記します。
第6に、履行の状況を報告してください。遅滞が生じますと、協議の前提が失われます。
事案が複数の業者に及ぶ場合
第1に、業者ごとに、提出した資料と事実との相違の内容を整理してください。
第2に、対応の順序を定めてください。残額の大きい業者、告訴を予告している業者、既に売掛先へ通知を送付した業者の別により、優先順位が異なります。
第3に、いずれの業者に対しても、同じ内容の説明をしてください。業者相互の間で情報が共有されることがあります。
第4に、原資の配分を検討してください。1つの業者にのみ弁償をしますと、他の業者との関係が悪化します。
第5に、全体の解決の見込みを立ててください。個別の解決を積み重ねる方法では、途中で原資が尽きることがあります。
いま確認していただきたいこと
1 業者ごとに、提出した資料の控えを、提出の日付とともに整理してください。
2 債権譲渡契約書における表明及び保証の条項の内容を確認してください。
3 通帳又は取引明細により、債権買取代金の入金及び業者への送金の記録を確認してください。
4 業者の担当者との連絡の記録を保全してください。削除しないでください。
5 売掛先に対する債権譲渡の通知の有無、及び債権譲渡登記の有無を確認してください。
6 弁償に充てることのできる原資の見込みを、資金繰りの見込みとともに整理してください。
7 同種の問題が他の業者との間にもあるかどうかを確認してください。
よくあるご質問
まだ業者から何も言われていません。相談する必要がありますか。
業者から指摘を受ける前の段階が、最も選択肢の広い局面です。この段階でのご相談をお勧めしています。
担当者は、請求書の内容が実際と異なることを知っていました。
担当者が債権の内容を正確に把握したうえで取引に応じていた場合には、相手方が錯誤に陥ったといえるかどうかが問題となります。もっとも、担当者個人の認識が業者の認識と評価されるかどうかは、別途の検討を要します。当時のやり取りの記録が重要となります。
受け取った金額を返せば、刑事上の問題はなくなりますか。
被害の弁償によって犯罪の成立そのものが否定されるものではありません。もっとも、被害の回復に関する事情は、公訴を提起するかどうかの判断において考慮される事情の1つとされています。
取引先に知られずに解決することはできますか。
通知が送付されていない段階であれば、送付の回避又は延期に向けた協議の余地があります。もっとも、結果を保証することはできません。
提出した資料を回収したいのですが。
提出した資料の回収を求めることは、証拠の隠滅と評価されるおそれがあります。行わないでください。
刑事告訴をすると言われました。必ず逮捕されるのでしょうか。
告訴は捜査の端緒の1つであり、告訴がされたことによって当然に逮捕がされるものではありません。逮捕は、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があり、かつ、逮捕の必要があると裁判官が認めた場合に、令状によって行われます(刑事訴訟法第199条)。
複数の業者との間で同じ問題があります。
全体を把握したうえで対応の順序を定める必要があります。1つの業者への対応が他の業者に伝わることがあります。
おわりに
事実と異なる資料を提出した場合には、民事上の責任、刑事上の責任、売掛先との取引関係及び資金繰りという4つの問題が同時に進行します。いずれか1つだけに対応していますと、他の問題が手遅れになります。
資料に基づいて事実関係を確定し、連絡の窓口を定め、弁償に充てることのできる原資を確定するという順序で進めることが、結果として最も早い解決につながります。業者が刑事告訴を行う前の段階が、最も選択肢の広い局面です。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
事実と異なる資料を提出した場合のご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)
出典
- 刑法第159条第1項、第161条第1項、第246条第1項
- 刑事訴訟法第199条、第248条
- 民法第415条、第540条、第545条
- 貸金業法第2条第1項
- 利息制限法第1条
- 出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律第5条
具体的なご相談をお考えの皆様へ
本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページに整理しています。あわせてご覧ください。


