M&Aに際してファクタリングの利用を開示する必要があるか 表明保証、価格及び手続への影響

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ファクタリングの利用をめぐる判断は、資金調達の手段を選び直す場面と、M&Aその他の局面で利用を開示する場面とに分かれますので、次のとおり切り分けます。本ページは、表明保証、価格及び手続への影響を扱います。

▶ ファクタリングとは 法的な構造、取引の類型、負担の把握の方法及び契約上の留意事項

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後継者がいないため会社の譲渡を進めており、買主候補との間で基本合意に至った。ところが、直近の1年間、資金繰りのためにファクタリングを繰り返し利用しており、その事実を仲介の担当者にも伝えていない。決算書には借入金として現れていないのだから、伝えなくてもよいのではないか。このようなご相談を数多くお受けします。

会社の譲渡では、買主は対象会社の資金繰りの実態を把握したうえで価格を決めます。売掛債権を先に譲り渡していれば、譲渡の実行の後に買主が受け取る入金は、その分だけ減ります。買主にとっては、貸借対照表に現れない負担を引き受けたのと同じ結果になりますので、この点は必ず調査の対象となります。

結論から申し上げます。ファクタリングの利用は、開示するかどうかを売主が選ぶことのできる事項ではなく、開示しなければ表明保証の違反として補償の請求を受け、実行の前に判明すれば取引そのものが中止となる事項です。開示によって価格が下がることはありますが、開示しなかったことによる損失は、それをはるかに上回ります。以下、順にご説明します。

本記事が扱う場面と、扱わない場面

会社を譲る場面と、自社の資金繰りを立て直す場面とでは、検討の順序が異なりますので、次のとおり切り分けます。

会社を譲るときに、必ず調べられる項目です

M&Aの手続では、買主が対象会社の法務、財務及び税務の調査を行います。この調査の目的は、計算書類に計上されていない負担を洗い出すことにあります。退職給付、未払の割増賃金、係属中の紛争、債権の譲渡が、その代表です。

調査の質問票には、売掛債権について「第三者に譲渡し、又は担保に供したものの有無」を問う項目が置かれるのが通例です。この問いに対して「無し」と回答した場合、後に譲渡の事実が判明すれば、説明の不足ではなく、虚偽の回答として扱われます。

また、譲渡の方式によって負担がどこへ移るかが変わります。株式の譲渡であれば、対象会社が当事者である契約はそのまま対象会社に残ります。会社法第2条第29号は、吸収分割を、株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割後他の会社に承継させることと定めており、分割の方式では承継の対象に含まれ得ます。事業の全部の譲渡であれば、会社法第467条第1項第1号により株主総会の決議による承認を要します。

貸借対照表に現れない場合があります

売買として構成された取引では、譲り渡した売掛金は貸借対照表から落ち、受け取った対価は預金として計上されます。額面との差額は、支払手数料又は売上債権売却損として損益計算書に計上されます。負債の部には何も残りません。ここに、実態と外観の乖離が生じます。

会社法第431条は、株式会社の会計は一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとすると定めています。買戻しの義務を伴う内容の契約であれば、売買ではなく資金の調達に近い性質を持ちますので、その会計の処理が慣行に従っているかどうかが問われます。処理の当否にかかわらず、買主は契約の内容に即して実態を判断します。

把握の手掛かりとなるのは、売掛金の回転期間の不自然な短縮と、販売費及び一般管理費の中の支払手数料の増加です。売上が横ばいであるのに売掛金の残高だけが減り、手数料が増えていれば、調査の担当者は必ずその内訳の提出を求めます。

買主が調査によってどこから把握するのか

第一の手掛かりは、預金の入出金の明細です。売掛先の名称と異なる名義からの入金が定期的にあり、その金額が請求書の額面と一致しない場合、譲渡の対価であることが強く推認されます。調査では、通常、直近2期分の全ての口座の明細の提出が求められます。

第二は、登記の調査です。動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律第4条第1項は、法人が債権を譲渡した場合において、その譲渡につき債権譲渡登記ファイルに譲渡の登記がされたときは、当該債権の債務者以外の第三者については、民法第467条の規定による確定日付のある証書による通知があったものとみなすと定めています。登記の有無は、対象会社に関する登記事項の調査によって確認されます。

第三は、売掛先への確認です。買主が主要な取引先に対して残高の確認を行う手続の中で、既に第三者へ支払った旨の回答が返れば、その時点で判明します。第四は、経理の担当者への面談です。これらの手掛かりは相互に補い合いますので、一つを伏せても他から把握されます。

開示しなかった場合に問われる責任

責任は、三つの筋道で問われます。第一は、契約に定められた表明保証の違反に基づく補償の請求です。第二は、債務不履行に基づく損害賠償の請求です。民法第415条第1項は、債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者はこれによって生じた損害の賠償を請求することができると定めています。

第三は、不法行為に基づく損害賠償の請求です。民法第709条は、故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負うと定めています。事実を知りながら申告しなかった場合には、この筋道が主張されます。

売買の目的物が契約の内容に適合しない場合の規定も関係します。民法第562条第1項は、引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときの買主の追完の請求を定め、同法第564条は、これらの規定が同法第415条による損害賠償の請求及び解除権の行使を妨げないと定めています。同法第566条は、種類又は品質に関する不適合について、買主が不適合を知った時から1年以内に通知しないときは責任を追及することができないと定める一方、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときはこの期間の制限を適用しないとしています。伏せていた場合には、時の経過による保護を受けられません。

表明保証及び補償の条項でどのように扱われるのか

株式譲渡契約では、売主が対象会社に関する一定の事実を表明し、その正確性を保証します。売掛債権については、計算書類に計上された売掛債権が実在し、第三者に譲渡されておらず、担保権その他の負担が設定されていない旨の条項が置かれるのが通常です。ファクタリングの利用は、この条項に正面から抵触します。

補償の条項では、違反によって買主に生じた損害を売主が補償する旨が定められます。実務上重要となるのは、補償の上限額と、請求をすることのできる期間です。上限額は譲渡の代金の一定の割合とされ、期間は実行の日から1年から2年とされることが通常です。ただし、売主が事実を知りながら開示しなかった場合には、上限額及び期間の制限を適用しないという例外が置かれます。

また、買主が調査によって既に知っていた事項については補償の対象から除外する旨の定めが置かれることがあります。したがって、調査の過程で開示された事項は、価格の交渉の対象にはなっても、後日の補償の請求の対象からは外れます。開示は、売主にとって責任の範囲を限定する手段でもあります。

価格の算定にどのように反映されるのか

反映のされ方は二つあります。第一は、純有利子負債への加算です。株式の価値は、事業の価値から純有利子負債を差し引いて算定されます。買戻しの義務を伴う取引や、実質的に資金の調達として機能している取引は、有利子負債に準ずるものとして扱われ、その残高が価格から差し引かれます。

第二は、正常収益力の修正です。額面との差額として計上された費用は、資金繰りのための恒常的な支出とみなされ、収益力の算定から除かれません。実行の後もこの手段を用いなければ運転資金が回らないのであれば、必要な運転資金の水準が引き上げられ、価格はさらに下がります。

もっとも、実行の後に利用を停止できる見通しを示すことができれば、修正の幅は小さくなります。買主の側で金融機関からの調達に切り替えられるのであれば、恒常的な費用ではなくなるからです。開示に際して、残高と停止の計画をあわせて示すことが、価格を守る方法となります。

譲渡の実行までに整理しておくべき事項

第一に、現に有効な契約を全て特定し、契約書、申込書、入金の記録を時系列に整理します。第二に、譲渡済みで未入金の債権を、売掛先別、入金の予定日別に一覧にします。実行の日をまたぐものは精算の対象となりますので、特に正確に把握してください。

第三に、登記がされている場合には、抹消の可否と、抹消に要する期間及び費用を確認します。第四に、売掛先との基本契約に譲渡を制限する定めがあるかどうかを確認します。民法第466条第2項は、当事者が債権の譲渡を禁止し又は制限する旨の意思表示をしたときであっても、債権の譲渡はその効力を妨げられないと定めていますが、売掛先との取引の契約上は解除の事由とされていることがあり、この点は買主が最も懸念する事項です。

第五に、実行の日までに利用を停止する場合の資金繰りを作成します。停止すれば、その月の運転資金が不足しますので、代替の手当てを示さなければ、買主は実行の後の混乱を懸念します。民法第467条第1項が定める債務者に対する通知又は債務者の承諾の有無についても、売掛先ごとに確認しておいてください。

なぜ隠したまま実行すると取引そのものが覆るのか

理由は、問われているものが金額の多寡ではなく、売主の説明に対する信頼だからです。買主は、限られた期間の調査によって全てを確認することはできませんので、売主の説明が正確であることを前提として価格を決めます。一つの重要な事項について虚偽の説明があれば、他の説明も全て検証し直さなければならなくなります。

実行の前に判明した場合には、価格の再交渉ではなく、取引の中止に至ることがあります。中止となれば、それまでに要した調査の費用の負担が問題となり、仲介の契約に基づく手数料の取扱いも争いとなります。

実行の後に判明した場合には、買主が既に対象会社の内部に入っていますので、契約書も帳簿も全て買主の手元にあります。伏せることは、金額の面でも、その後の紛争の進み方の面でも、売主に不利にしか働きません。

弁護士に任せられる範囲と、依頼の時期

弁護士が担うのは、開示する範囲と方法の設計、開示の資料の作成、表明保証の条項及び補償の条項の交渉、買戻しの義務を伴う契約の内容の分析、譲渡済みの債権について実行の日に行う精算の条項の作成、そして登記の抹消に関する手続です。開示の仕方によって、価格への影響と、実行の後に負う責任の範囲の双方が変わります。

依頼の時期は、買主候補との間で秘密保持契約を締結し、資料の提出を求められる前です。この段階であれば、開示の順序と表現を設計する余地があります。調査が始まった後にご相談をいただいた場合でも、質問票への回答を提出する前であれば、なお対応できます。回答を提出した後では、訂正という形をとらざるを得ず、信頼の回復に相当の手間を要します。

いま確認していただきたいこと

現に有効な契約と、過去2期の間に終了した契約を全て並べ、契約日、譲り渡した債権の売掛先、額面、対価の額、入金日、買戻しの義務の有無を一覧にしてください。次に、譲渡済みで未入金の債権を、入金の予定日の順に並べます。

あわせて、対象会社に関する登記事項を取得し、債権の譲渡に係る登記の有無を確認してください。最後に、直近2期の損益計算書の中で、支払手数料、売上債権売却損その他の科目に計上した差額の合計額を算出します。この金額は、価格の交渉において必ず論点となります。

よくあるご質問

既に終了しており残高がない場合でも開示が必要ですか

必要です。過去の利用は、資金繰りの実態を示す事実として調査の対象となります。残高がないことは価格への影響を小さくする事情ですので、開示によって不利になる場面は限られます。

仲介の担当者にだけ伝えておけば足りますか

足りません。表明保証は、売主が買主に対して行うものです。仲介の担当者に伝えた事実があっても、買主に開示されていなければ、違反の主張を防ぐことはできません。開示は、書面によって買主に対して行ってください。

開示すれば必ず価格が下がりますか

残高と、実行の後に停止できるかどうかによります。実行の日までに終了し、代替の資金の手当てが示されていれば、価格への影響は限定されます。

買主が調査で見落とした場合はどうなりますか

見落としがあっても、売主の責任は消えません。表明保証の違反は、買主の認識とは別に、表明した内容が事実と異なることによって成立します。売主が知りながら開示しなかった場合には、補償の上限額及び期間の制限も適用されないのが通例です。

実行の直前に判明した場合、どう対応すべきですか

直ちに、契約の一覧、残高、入金の予定を書面にまとめ、自ら買主へ提出してください。判明の経緯を説明し、実行の日における精算の方法を提案します。指摘を受けてから小出しに認める対応が、最も取引を失いやすい対応です。

おわりに

M&Aにおけるファクタリングの取扱いは、伏せられるかどうかという問題ではなく、いつ、どの範囲で、どのような資料とともに示すかという設計の問題です。契約と残高を確定させ、実行の日における精算の方法を先に提案すること。この順序を守れば、価格への影響は抑えられ、実行の後に負う責任も限定できます。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

M&Aに際してのファクタリングの開示に関するご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

出典

  • 民法第415条第1項(債務不履行による損害賠償)、第466条第2項(債権の譲渡性)、第467条第1項(債権の譲渡の対抗要件)、第562条第1項(買主の追完請求権)、第564条(買主の損害賠償請求及び解除権の行使)、第566条(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)、第709条(不法行為による損害賠償)
  • 会社法第2条第29号(定義・吸収分割)、第431条(会計の原則)、第467条第1項第1号(事業譲渡等の承認等)
  • 動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律第4条第1項(債権の譲渡の対抗要件の特例等)

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