架空債権によるファクタリングで逮捕?報じられた事実と、そこから確認できること

この記事の位置付け
不正な債権譲渡をめぐる問題は、民事上の責任が問われる場面と、刑事上の責任が問われる場面とに分かれますので、次のとおり切り分けます。本ページは、逮捕の報道について報じられた事実と確認できる範囲を扱います。
▶ 架空債権によるファクタリングをしてしまったとき 民事上の責任と刑事上の責任及び対応の順序
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本記事は、架空債権によるファクタリングをめぐる逮捕の報道に接し、ご自身の取引に心当たりがあって不安を覚えている経営者の方に向けたものです。
報道から確認することができるのは、業者が刑事告訴を行い、逮捕に至った例が現に存在するということに尽きます。処分までの期間や被害額と刑の重さの関係を報道から一般化することはできません。心当たりがある場合には、業者が刑事告訴を行う前の段階が、最も選択肢の広い局面です。以下、順にご説明します。
架空の売掛債権をファクタリング業者に譲渡して代金をだまし取ったとして、会社の代表者が逮捕されたとの報道がされたことがあります。被害の額が高額であったこと、複数の業者との間で取引が重ねられていたことなどが伝えられておりました。
もっとも、報道により伝えられる事柄は、捜査機関が公表した範囲のごく一部にとどまります。事案の詳細、当事者の言い分、その後の処分の内容は、いずれも明らかにされないのが通常です。
本ページでは、このような報道に接した経営者の方が、そこから何を読み取ることができ、何を読み取ってはならないのかを整理いたします。個別の報道された事案について、当事務所が事実関係を推測して述べることはいたしません。
報道から確認することのできる事柄
この種の報道から確認することができるのは、次の1点に尽きます。
すなわち、架空の売掛債権をファクタリング業者へ譲渡した事案について、業者が刑事告訴を行い、捜査機関が捜査に着手し、逮捕という処分に至った例が現に存在するということです。
従前、この種の事案は、業者との間の民事上の交渉によって処理されることが多いといわれておりました。もっとも、業者が刑事の手続を選択する例があることは、報道により確認することができます。
報道から読み取ってはならない事柄
| 処分に至るまでの期間 | 「取立てが止んでから何か月で捜査が始まる」「捜索から何日で逮捕される」といった時期を、報道された事案から一般化することはできません。捜査の端緒、捜査の範囲及び処分の時期は、事案ごとに異なります。 |
| 被害額と刑の重さの関係 | 「被害額が一定額を超えれば実刑となる」という基準はありません。刑法第25条第1項は、3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金の言渡しを受けたときに、情状により執行を猶予することができる旨を定めており、宣告される刑は一切の事情を考慮して定められます。 |
| 逮捕と有罪との関係 | 逮捕は、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があり、かつ逮捕の必要があると裁判官が認めた場合に行われる処分です(刑事訴訟法第199条第1項、第2項)。有罪の判断がされたことを意味するものではありません。 |
| 当事者の言い分 | 報道の段階では、被疑者の言い分は明らかにされないのが通常です。業者の側から資料の作成を示唆された、審査を行わない旨を告げられたといった事情が存在したかどうかは、報道からは分かりません。 |
この種の事案において問題となり得る犯罪
一般論として、次の各罪の成否が問題となり得ます。いずれも、事案ごとの事実関係に即して判断されるものです。
- 詐欺罪(刑法第246条第1項) 人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の拘禁刑に処するものとされています。
- 私文書偽造罪及び偽造私文書等行使罪(刑法第159条第1項、第161条第1項) 売掛先の名義の請求書等を権限なく作成し、これを業者へ提出した場合に問題となります。
- 横領罪及び業務上横領罪(刑法第252条第1項、第253条) 売掛先から受領した金銭を業者へ引き渡さずに費消した場合に問題となります。
なお、ファクタリングは売掛債権の売買であり、金銭の貸付けではありませんので、貸金業法、利息制限法及び出資法の適用はありません。この点は、上記の各罪の成否とは別の問題です。
報道に接して不安を覚えられた方へ
ご自身の取引について心当たりがあり、報道に接して不安を覚えられたというご相談をお受けすることがあります。
この局面で申し上げられるのは、業者が刑事告訴を行う前の段階が、最も選択肢の広い局面であるということです。被害の弁償及び示談に関する協議は、告訴の前と後とで条件が大きく異なります。被害の回復に関する事情は、検察官が公訴を提起するかどうかを判断するに当たって考慮される事情の一つとされています(刑事訴訟法第248条)。
また、資料は時間の経過とともに失われます。通信アプリケーションの履歴は、機種の変更や保存期間の経過により参照することができなくなることがあります。
この種の事案において問題となり得る犯罪
第1に、詐欺罪です。人を欺いて財物を交付させた者は、詐欺罪により処罰されます(刑法第246条第1項)。実在しない売掛債権を譲渡し、これに基づいて債権買取代金を受領した場合には、債権の存在という取引の基礎となる事実について相手方を欺いたものとして、その成否が問題となります。
第2に、私文書偽造罪及び同行使罪です。行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書を偽造した者は、私文書偽造罪により処罰されます(同法第159条第1項)。これを行使した者も、同様に処罰されます(同法第161条第1項)。売掛先の名義を用いて注文書、検収書その他の書面を作成した場合には、その成否が問題となります。
第3に、横領罪及び業務上横領罪です。自己の占有する他人の物を横領した者は、横領罪により処罰されます(同法第252条第1項)。業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、業務上横領罪により処罰されます(同法第253条)。回収した資金を分別して管理すべき旨が定められているにもかかわらず他の支払に充てた場合には、その成否が問題となります。
いずれについても、成立するかどうかは、契約の内容、提出された資料、業者の担当者の認識、資金の流れといった具体的な事実によって判断されます。
手続の流れ
第1に、捜査の端緒です。告訴、告発、被害の申告のほか、他の事件の捜査の過程で判明する場合があります。告訴は、捜査の端緒の1つであり、告訴がされたことによって当然に逮捕がされるものではありません。
第2に、任意の捜査です。捜査機関は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができるものとされています(刑事訴訟法第198条第1項本文)。被疑者は、逮捕又は勾留をされている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後何時でも退去することができます(同項ただし書)。
第3に、逮捕です。罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があり、かつ、逮捕の必要があると裁判官が認めた場合に、令状によって行われます(同法第199条)。
第4に、勾留です。逮捕された被疑者について、勾留の理由及び必要があると認められる場合に、裁判官が勾留を決定します(同法第207条第1項、第60条第1項)。
第5に、処分の決定です。検察官は、犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができます(同法第248条)。被害の回復に関する事情は、この判断において考慮される事情の1つとされています。
報道に接した事業者の方が確認すべき事項
第1に、ご自身が業者へ提出した資料の内容が、事実に即しているかどうかです。請求書の金額、取引の時期、売掛先の名称について、実際の取引と一致しているかどうかを確認してください。
第2に、同一の債権を複数の業者へ譲渡していないかどうかです。譲渡した債権の一覧を作成し、重なりがないかどうかを確認してください。
第3に、売掛先から回収した資金を、業者へ引き渡しているかどうかです。分別して管理すべき旨が定められている場合には、他の支払に充てた時点で問題が生じます。
第4に、業者から提出を求められた資料のうち、加工したものがないかどうかです。通帳の写しの記載を加工した場合には、その内容によって判断が異なります。
第5に、これらに心当たりがある場合には、業者から指摘を受ける前の段階が、最も選択肢の広い局面です。
報道と実際の事案との違い
第1に、報道においては、事案の一部のみが伝えられます。契約の内容、資料の作成の経緯、業者の担当者の認識といった、判断において重要となる事情は、多くの場合に報じられません。
第2に、報道の時点では、捜査が進行中であり、事実関係が確定していません。
第3に、逮捕がされたことは、有罪の判断がされたことを意味しません。何人も、法律の定める手続によらなければ、刑罰を科せられません(日本国憲法第31条)。
第4に、報道された事案とご自身の事案とは、契約の内容及び運用の実態が異なります。同様の判断がされるということを読み取ることはできません。
第5に、したがって、報道の内容ではなく、ご自身の契約書の条項と取引の記録に基づいて確認してください。
資料を保全する際の具体的な方法
第1に、業者との連絡の記録を保存してください。電子メールは削除せず、通信アプリケーションの履歴は画面の写しを保存してください。
第2に、提出した資料の控えを、提出の日付とともに整理してください。
第3に、通帳又は取引明細により、資金の授受の全部を書き出してください。
第4に、契約書及び個別契約書の全部を、業者ごとに時系列で整理してください。
第5に、資料を廃棄し、又は改変しないでください。証拠の隠滅と評価されるおそれがあります。
本ページの位置付け
本ページは、架空債権によるファクタリングをめぐる逮捕の報道に接した事業者の方に向けて、報道から確認することのできる事柄と、読み取ってはならない事柄を整理したものです。
当事務所は、個別の事件について、報道されている以上の事実関係を把握しているものではありません。以下に述べたところは、一般的な法律上の枠組みの整理です。
ご自身の取引について心当たりがある場合には、業者から指摘を受ける前の段階が、最も選択肢の広い局面です。
いま確認していただきたいこと
1 債権譲渡契約書、基本契約書及び個別契約書の全部を、業者ごとに時系列で整理してください。
2 業者へ提出した資料の控えを、提出の日付とともに整理してください。
3 売掛先からの入金の記録及び業者への送金の記録を、通帳又は取引明細により確認してください。
4 業者の担当者との連絡の記録を保全してください。削除しないでください。
よくあるご質問
報道された事案について、詳しい事情を教えてもらえますか。
当事務所は、報道された個別の事案について、事実関係を推測して述べることはいたしません。報道により伝えられる事柄は、事案の一部にとどまります。
同じような取引をしてしまいました。すぐに逮捕されるのでしょうか。
捜査機関がいつ、どのような処分を行うかを外部から予測することはできません。もっとも、業者が刑事告訴を行う前の段階での対応が、最も選択肢の広い局面です。
業者から「報道されたような事案になる」と言われました。
そのような発言は、支払を促すための材料として用いられることがあります。予告のとおりに実行されるとは限りません。もっとも、予告を受けた段階で対応を整えておく必要があります。
被害を弁償すれば、刑事責任を問われないのでしょうか。
被害の弁償及び示談の成立は、検察官が公訴を提起するかどうかの判断(刑事訴訟法第248条)においても、量刑においても重要な考慮要素です。もっとも、弁償によって当然に犯罪が成立しなくなるものではありません。
おわりに
報道に接して不安を覚えられた段階は、まだ何も起きていない段階であることが少なくありません。この段階でのご相談が、最も広い選択肢を残します。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
架空債権によるファクタリングに関するご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)
ご留意事項
本ページの記載は、架空債権によるファクタリングをめぐる報道に関する一般的な法制度及び当事務所の取扱いの説明であり、個別の事案について一定の結果を保証するものではありません。見通し、要する期間、回収し又は負担する金額その他の帰結は、事案ごとの事実関係及び資料によって異なります。
また、課税関係につきましては税理士の職域ですので、当事務所において判断することはいたしません。税務上の取扱いについては、顧問税理士にご確認ください。
法令の改正、裁判例の集積により内容が変わる場合には、記載を改めます。実際のご依頼に際しましては、必ず個別にご相談ください。ご相談の内容は、弁護士法上の守秘義務に基づき秘密を厳守いたします。
出典
- 刑法第25条第1項、第159条第1項、第161条第1項、第246条第1項、第252条第1項、第253条
- 刑事訴訟法第199条第1項及び第2項、第248条
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