ファクタリングに際して株式の担保を求められる理由と、実行された場合に生じる効果

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債権譲渡をめぐる論点は、対抗要件の仕組みを確かめる場面と、売掛先に知られた後の影響へ対応する場面とに分かれますので、次のとおり切り分けます。本ページは、株式の担保を求められる理由と実行された場合の効果を扱います。
▶ ファクタリングにおける債権譲渡の通知 対抗要件の仕組みと売掛先への影響及び対応の方法
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本記事は、ファクタリングの契約に際して、代表者が保有する株式を担保に供するよう求められている事業者の方と、既に差し入れてしまった事業者の方に向けたものです。
ファクタリングの契約の締結に際して、代表者が保有する株式を担保に供するよう求められることがあります。売掛債権の売買であるにもかかわらず、なぜ株式の担保が必要となるのかというご質問をいただきます。
株式の担保は、実行されますと、会社の支配そのものが移転します。事業の継続に直結する事項ですので、その意味を正確に理解したうえで判断する必要があります。
本ページでは、株式の担保が求められる理由、担保の方法、実行された場合に生じる効果、確認すべき事項、及び既に差し入れている場合の対応を整理します。個別の事案における結果を保証するものではありません。
株式の担保が求められる理由
ファクタリングは売掛債権の売買です。本来、譲渡の後は、売掛先が支払をしない危険は譲受人が負うのが売買の姿です。この場合、譲渡人から担保の提供を受ける必要はありません。
他方で、契約において、売掛先が支払をしない場合に譲渡人が買い戻す義務、又は譲受人に対して償還する義務が定められている場合には、譲受人は譲渡人に対する債権を有することとなります。この債権の回収を確保するために、担保が求められます。
また、2社間の取引においては、譲渡人が売掛先から回収した資金を引き渡す義務を負いますので、この義務の履行を確保する目的もあります。
もっとも、譲渡人の資力を前提とする担保が徴求されている事実は、当該取引が実質において金銭の貸付けであると主張する場合において、重視される要素の1つです。ファクタリングは売掛債権の売買であり、金銭の貸付けではありませんので、貸金業法、利息制限法及び出資法の適用はありません。したがって、手数料の水準が高いことのみを理由として、これらの法令に違反するということにはなりません。もっとも、売買の形式が採られていても、その実質において金銭の貸付けと同視すべきであると判断された下級審裁判例がありますので、契約の内容及び運用の実態によっては、別途の検討を要します。
担保の方法
| 株式質 | 株式に質権を設定するものです(会社法第146条第1項)。株券発行会社においては株券の交付が効力発生の要件となります(同条第2項)。株券不発行会社においては、株主名簿への記載又は記録が第三者対抗要件となります(同法第147条第1項)。 |
| 譲渡担保 | 担保の目的で株式を譲渡するものです。形式上は株主が移転しますので、株主名簿の名義書換えを伴うことがあります。 |
| 株券の預託 | 株券を預けるにとどまり、質権の設定の手続がとられていないことがあります。この場合、担保としての効力に疑義が生じます。 |
| 白紙の株式譲渡承認請求書等の徴求 | 譲渡の制限のある株式について、承認の請求に関する書面をあらかじめ徴求するものです。用途及び範囲を確認する必要があります。 |
実行された場合に生じる効果
第1に、議決権の行使に影響します。譲渡担保の場合、株主名簿上の株主が譲受人となりますので、株主総会における議決権を行使することができなくなるおそれがあります。
第2に、役員の選任及び解任に影響します。議決権の過半数が移転しますと、取締役の選任及び解任が可能となります(会社法第329条第1項、第339条第1項)。会社の経営そのものが移転することとなります。
第3に、事業の譲渡その他の重要な事項の決定に影響します。
第4に、他の株主との関係に影響します。譲渡の制限のある株式については、承認の手続を経る必要があります(会社法第136条以下)。手続を欠く譲渡の効力については、会社との関係で対抗することができないものと解されています。
第5に、事業承継の計画に影響します。株式が第三者に移転しますと、後継者への承継が困難となります。
差入れの前に確認すべき事項
1 担保の方法が、質権の設定であるか、譲渡担保であるかを確認してください。
2 担保に供する株式の数と、発行済株式の総数に占める割合を確認してください。過半数を超える場合には、実行により会社の支配が移転します。
3 被担保債権の範囲を確認してください。特定の取引に限定されているか、将来の取引を含む包括的なものであるかによって、影響が異なります。
4 実行の要件を確認してください。どのような事由が生じた場合に実行されるのかを、具体的に確認してください。
5 実行の方法を確認してください。処分の方法、評価の方法、清算の方法が定められているかどうかを確認してください。
6 株券の交付を求められた場合には、預り証の交付を受けてください。
7 定款における株式の譲渡の制限の有無を確認してください。
既に差し入れている場合の対応
第1に、株主名簿の記載を確認してください。名義が書き換えられている場合には、既に譲渡担保として処理されている可能性があります。
第2に、株券を交付している場合には、預り証の有無を確認してください。
第3に、被担保債権の残額を確認してください。完済した場合には、担保の解除及び株券の返還を求めることができます。
第4に、実行の予告を受けた場合には、実行の要件が満たされているかどうかを確認してください。要件を欠く実行に対しては、これを争う余地があります。
第5に、清算の要否を確認してください。譲渡担保の実行に際しては、目的物の価額が被担保債権の額を超える場合には、その差額を清算する義務があるものと解されています。
担保の実行の手続
第1に、株式質の実行です。質権者は、被担保債権の弁済期が到来した場合において、質権の目的である株式について、民事執行法に定める方法により換価することができるほか、正当な理由がある場合には、鑑定人の評価に従い株式をもって直ちに弁済に充てることを裁判所に請求することができます(民法第354条参照)。
第2に、譲渡担保の実行です。目的物を処分してその代金を債務の弁済に充てる方法(処分清算型)と、目的物を確定的に取得したうえで評価額と債権額との差額を清算する方法(帰属清算型)があります。いずれの場合にも、目的物の価額が被担保債権の額を超えるときは、その差額を清算する義務があるものと解されています。
第3に、株主名簿の名義書換えです。譲渡担保においては、実行の前から名義が書き換えられていることがあります。この場合、議決権の行使をめぐる争いが生じます。
第4に、譲渡の制限のある株式の場合です。会社の承認を要しますので(会社法第136条以下)、手続を経ないまま行われた譲渡については、会社との関係で効力を対抗することができないものと解されています。
第5に、実行の予告を受けた場合の対応です。実行の要件が満たされているかどうか、清算の手続が予定されているかどうかを確認したうえで、これを争う余地を検討します。
会社の支配が移転した場合に生じる事象
第1に、株主総会における議決権の行使です。議決権の過半数が移転しますと、取締役の選任及び解任が可能となります(会社法第329条第1項、第339条第1項)。
第2に、代表者の変更の登記です。新たに選任された取締役により、代表取締役が変更されることがあります。
第3に、預金口座及び印鑑の管理です。代表者が変更されますと、口座の管理権限が移転します。
第4に、取引先との関係です。代表者の変更が取引先に伝わりますと、取引の継続が困難となることがあります。
第5に、事業の譲渡その他の重要な財産の処分です。取締役会又は株主総会の決議により、会社の財産が処分されることがあります。
これらが生じた後に原状を回復することは、著しく困難です。したがって、実行の予告を受けた段階で、直ちに対応する必要があります。
差入れを避けるための交渉
第1に、担保に供する株式の数を限定することです。発行済株式の総数の過半数に満たない範囲にとどめることにより、実行された場合であっても会社の支配は維持されます。
第2に、被担保債権の範囲を限定することです。特定の取引に限定し、将来の取引を含めないようにします。
第3に、実行の要件を明確にすることです。いかなる事由が生じた場合に実行されるのかを、具体的に定めます。
第4に、清算の方法を定めることです。目的物の評価の方法、差額の支払の時期を定めておきます。
第5に、他の担保への代替を提案することです。事業に不可欠でない資産があれば、これを担保に供することを提案することが考えられます。
担保の解除を求める場合の手順
第1に、被担保債権が消滅していることを、通帳の記録により確認してください。
第2に、契約書における担保の解除に関する定めを確認してください。
第3に、書面により解除及び株券の返還を求めてください。期限を定めたうえで、応じない場合には法的手続を採る旨を明らかにします。
第4に、株主名簿の名義が書き換えられている場合には、名義の回復を求めてください。応じない場合には、株主の地位の確認を求める訴えを提起することとなります。
第5に、質権の設定の登録がされている場合には、その抹消を求めてください。
本ページの位置付け
本ページは、ファクタリングに際して株式の担保を求められた事業者の方に向けて、その理由と、実行された場合に生じる効果を整理したものです。
株式の担保は、実行されますと会社の支配そのものが移転します。売掛債権の売買に付随する担保としては、影響が極めて大きいものです。
差入れを求められた場合には、担保の方法、被担保債権の範囲、実行の要件及び方法を確認したうえで判断してください。
いま確認していただきたいこと
1 担保に関する契約書の写しを確認してください。
2 株主名簿の現在の記載を確認してください。
3 定款における株式の譲渡の制限の有無を確認してください。
4 履歴事項全部証明書により、現在の役員の登記を確認してください。
5 被担保債権の残額と、実行の要件を確認してください。
6 株券を交付している場合には、預り証の有無を確認してください。
よくあるご質問
売買であるのに、なぜ担保が必要なのですか。
買戻しの義務又は償還の義務が定められている場合には、譲受人は譲渡人に対する債権を有しますので、その回収を確保する目的があります。もっとも、担保が徴求されている事実は、取引の性質を争う場合において重視される要素の1つです。
過半数の株式を担保に供しても差し支えありませんか。
実行されますと、会社の支配が移転します。事業の継続に直結する事項ですので、慎重な検討を要します。
株券を預けただけですが、担保になりますか。
株券発行会社においては、株券の交付が質権の効力発生の要件とされています(会社法第146条第2項)。もっとも、当事者間の合意の内容によって、担保としての効力の有無は異なり得ます。契約書をご持参ください。
完済しましたが、株券が返還されません。
被担保債権が消滅した以上、担保を存続させる理由はありません。返還を求めることができます。
実行すると告げられました。
実行の要件が満たされているかどうかを確認してください。要件を欠く実行に対しては、これを争う余地があります。直ちにご相談ください。
知らないうちに株主が変更されていました。
株主名簿の記載及び登記の内容を確認してください。事実と異なる処理がされている場合には、その是正に向けた手続を検討することとなります。
おわりに
株式の担保は、実行されますと会社の支配そのものが移転します。売掛債権の売買に付随する担保としては、影響が極めて大きいものです。
差入れを求められた場合には、担保の方法、被担保債権の範囲、実行の要件及び方法を確認したうえで判断してください。既に差し入れている場合においても、現在の状態を確認しておくことが重要です。
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出典
- 会社法第136条、第146条第1項及び第2項、第147条第1項、第329条第1項、第339条第1項
- 貸金業法第2条第1項
- 利息制限法第1条
- 出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律第5条
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