売掛先が売掛金を供託した場合 供託の原因、還付請求権の帰属及び供託金還付同意書の意味

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債権譲渡をめぐる論点は、対抗要件の仕組みを確かめる場面と、売掛先に知られた後の影響へ対応する場面とに分かれますので、次のとおり切り分けます。本ページは、供託の原因と還付請求権の帰属及び同意書の意味を扱います。
▶ ファクタリングにおける債権譲渡の通知 対抗要件の仕組みと売掛先への影響及び対応の方法
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ファクタリング業者から売掛先に対して債権譲渡の通知が発送された後、売掛先が売掛金を法務局に供託したという連絡を受けることがあります。また、契約の締結時に、供託金の還付について同意する旨の書面の差入れを求められたというご相談を受けることもあります。
供託がされますと、売掛金は売掛先の手元を離れ、誰がその金銭の交付を受けることができるかという問題に移行します。この段階では、事実関係の把握と手続の選択とを、いずれも速やかに行う必要があります。
本ページでは、供託がされる原因、供託金の還付を請求することができる者、そして供託金還付同意書がどのような意味を持つのかを整理します。
売掛先が供託をするのは、どのような場合か
供託には複数の類型があります。ファクタリングに関して問題となるのは、主として次の2つです。
弁済供託(民法第494条)
民法第494条第1項は、債権者が弁済の受領を拒み、又は受領することができないときに、弁済者が弁済の目的物を供託することができる旨を定めています。また、同条第2項は、弁済者が過失なく債権者を確知することができないときにも、供託をすることができる旨を定めています。
ファクタリングの場面では、譲渡人と譲受人の双方から支払を求められ、いずれに支払うべきかを売掛先が判断することができない場合に、同条第2項による債権者不確知を原因とする供託がされることがあります。また、譲渡の通知が複数の業者から届いている場合も同様です。
供託がされますと、その時点で債権は消滅します(民法第494条第1項後段)。すなわち、売掛先は、以後、譲渡人に対しても譲受人に対しても支払義務を負わないことになります。
執行供託(民事執行法第156条)
売掛債権に対して差押えがされている場合には、第三債務者である売掛先は、その債権の全額に相当する金銭を供託することができます(民事執行法第156条第1項)。また、差押えが競合した場合等には、供託をしなければならないものとされています(同条第2項)。
供託金の還付を請求することができるのは誰か
供託金の還付を請求することができるのは、供託によって消滅した債権について、真に権利を有していた者です。
債権者不確知を原因とする供託の場合、供託所は、いずれが真の債権者であるかを自ら判断しません。したがって、還付を請求する者は、自らが還付を受ける権利を有することを証する書面を添付して請求することになります(供託規則第24条第1項第1号)。
この「還付を受ける権利を有することを証する書面」としては、他の被供託者が同意した旨の書面、又は権利を有することを確認する確定判決その他これに準ずるものが用いられます。
すなわち、当事者の間で権利の帰属について争いがある場合には、供託金の帰属を確定するために、訴訟等の手続を要することになります。
供託金還付同意書の意味
ファクタリングの契約に際して、譲渡人があらかじめ、供託がされた場合にその還付を業者が受けることに同意する旨の書面を差し入れることが求められる例があります。
この書面は、前記の「還付を受ける権利を有することを証する書面」として用いられることが想定されているものと考えられます。これが供託所に提出されますと、業者が還付を受けることが可能となります。
もっとも、当該書面の効力については、次の点が問題となり得ます。
第1に、供託の原因となる事実が生じる前の段階で、包括的に還付についての同意をすることが、どの範囲で効力を有するかという問題があります。
第2に、譲渡そのものの効力が争われている場合には、その前提を欠くことになります。当該取引が金銭の貸付けとしての実質を有し、契約の全部又は一部が無効であると判断される場合には、業者が債権を取得したという前提が失われます。
第3に、差入れに際して、その意味及び効果について十分な説明がされていたかという問題があります。
これらの点は、いずれも事案ごとの検討を要する事項です。当事務所は、還付を止めることができる旨を、あらかじめ保証することはいたしません。もっとも、争う余地があるかどうかを検討することは、いずれの事案においても可能です。
債権が二重に譲渡されている場合
同一の売掛債権が複数の業者へ譲渡されている場合、その優劣は、確定日付のある証書による通知が売掛先に到達した日時の先後によって定まるものと解されています(民法第467条第2項、最高裁判所第一小法廷昭和49年3月7日判決・民集28巻2号174頁)。
また、確定日付のある通知が同時に到達した場合には、各譲受人は、売掛先に対して債権の全額の弁済を請求することができるものと解されています(最高裁判所第三小法廷昭和55年1月11日判決・民集34巻1号42頁)。
なお、債権譲渡登記がされている場合には、当該登記により対抗要件が具備されます(動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律第4条第1項)。この場合の優劣についても、別途の検討を要します。
放置した場合に失われるもの
供託がされた後に手続を採らないまま時間が経過しますと、次の不利益が生じます。
第1に、他の当事者が先に還付の請求を行い、供託金が払い渡されてしまうことがあります。払い渡された後に取り戻すためには、別途の請求を要し、相手方の資力の問題も生じます。
第2に、売掛先との取引関係が悪化します。供託という手続を採らせたこと自体が、取引の継続に影響します。
第3に、供託金が事業の運転資金として予定されていた場合、資金繰りに直接の影響が生じます。
供託がされた場合の手続の流れ
第1に、供託の通知です。供託者は、遅滞なく債権者に供託の通知をしなければならないものとされています(民法第495条第3項)。もっとも、債権者を確知することができないことを理由とする供託においては、通知の相手方が明らかでないことがあります。
第2に、供託の事実の確認です。供託所において、供託書の正本又は供託の事実を証する書面を確認します。供託の原因、供託の金額、被供託者として記載された者を確認してください。
第3に、還付請求権の帰属の確定です。譲受人相互の優劣によって定まります。確定日付のある証書による通知の到達の先後、又は債権譲渡登記の日時の先後によります。
第4に、当事者間の協議です。優劣について争いがない場合には、還付を受けることのできる者が単独で還付の請求をすることができます。
第5に、争いがある場合の手続です。還付請求権の確認を求める訴えを提起し、判決に基づいて還付の請求をすることとなります。
供託金還付同意書を求められた場合
譲受人から、供託金の還付について同意する旨の書面への署名押印を求められることがあります。この書面の意味を正確に理解しておく必要があります。
第1に、この書面は、譲渡人が還付請求権を有しないことを前提として、譲受人が還付を受けることに異議がない旨を示すものです。
第2に、署名押印をしますと、後に譲渡の効力を争うことが事実上困難となります。取引の性質を争うことを検討している場合には、慎重な判断を要します。
第3に、複数の譲受人が存在する場合には、いずれの譲受人に対して同意をするかによって、他の譲受人との関係が生じます。
第4に、供託の金額が、譲受人に対する債務の額を超える場合には、超える部分の取扱いを確認する必要があります。
第5に、署名押印の前に、契約書の条項及び取引の記録を確認してください。
売掛先に対する説明
供託をした売掛先は、二重の支払を避けるためにこの手続を選択したものです。したがって、売掛先に対しては、供託の判断が適切であったことを前提として、今後の取引について説明することとなります。
第1に、供託の判断について異議を述べないでください。売掛先の立場からは、合理的な判断です。
第2に、今後の支払先を明確にしてください。譲受人相互の優劣が確定した後に、改めて説明することとなります。
第3に、納品又は役務の提供に支障が生じないことを示してください。
第4に、供託に要した事務の負担について、謝意を伝えてください。
第5に、今後同様の事態が生じないことについて、具体的な見込みを示してください。
供託がされた後の資金繰りへの影響
第1に、当該売掛金は、譲渡人には入金されません。譲渡の効力を争う場合であっても、還付を受けることのできる者が確定するまでは、資金化することができません。
第2に、他の売掛先からの入金の予定を確認し、資金繰りの見込みを作成し直す必要があります。
第3に、業者に対しては、供託がされた事実を説明し、支払の方法について改めて協議することとなります。
第4に、売掛先との取引が継続しているかどうかを確認してください。供託をした売掛先が、以後の取引を停止することがあります。
第5に、同様の事態が他の売掛先についても生じる可能性がありますので、譲渡した債権の一覧により、重なりの有無を確認してください。
本ページの位置付け
本ページは、売掛先が売掛金を供託した事案について、供託の原因、還付請求権の帰属及び供託金還付同意書の意味を整理したものです。
供託がされた場合、当該売掛金は譲渡人には入金されません。したがって、資金繰りの見込みを作成し直す必要があります。
供託金還付同意書への署名押印を求められた場合には、その意味を確認したうえで判断してください。署名押印をしますと、後に譲渡の効力を争うことが事実上困難となります。
いま確認していただきたいこと
1 売掛先から、供託をした旨の通知を受けているかどうかを確認してください。弁済者は、遅滞なく債権者に供託の通知をしなければならないものとされています(民法第495条第3項)。
2 通知を受けている場合には、供託書の正本の写しの交付を売掛先へ依頼し、供託所、供託番号、供託の原因、被供託者の記載を確認してください。
3 業者へ差し入れた書面の控えの全部を確認し、供託金の還付に関する同意の記載があるかどうかを確認してください。
4 売掛先に対して債権譲渡の通知が到達した日時を確認してください。複数の業者から通知がされている場合には、各通知の到達の日時が重要となります。
5 債権譲渡登記の有無を確認してください。
よくあるご質問
供託されてしまうと、もう回収することはできないのでしょうか。
そうではありません。供託金は、真に権利を有する者が還付を請求することができます。誰が権利を有するかを確定する手続を採ることになります。
還付同意書を差し入れてしまいました。もう争えないのでしょうか。
差し入れた書面の効力については、差入れの経緯、譲渡そのものの効力を含めて検討する余地があります。書面の写しをご持参のうえ、ご相談ください。
売掛先に供託をするよう求めてもよいのでしょうか。
供託をするかどうかは、売掛先が判断する事項です。譲渡人の側から一定の行動を求めることは、売掛先との関係及び業者との関係の双方に影響しますので、慎重な検討を要します。
供託がされた後も、業者からの請求は続くのでしょうか。
供託により売掛先の債務は消滅しますが、譲渡人と業者との間の契約上の問題は残ります。契約の内容に応じて、なお請求がされることがあります。
おわりに
供託がされた局面は、時間の経過が直接に不利益をもたらす場面です。供託書の記載を確認することから始めていただければと思います。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
売掛金の供託に関するご相談
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受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)
ご留意事項
本ページの記載は、売掛金の供託に関する一般的な法制度及び当事務所の取扱いの説明であり、個別の事案について一定の結果を保証するものではありません。見通し、要する期間、回収し又は負担する金額その他の帰結は、事案ごとの事実関係及び資料によって異なります。
また、課税関係につきましては税理士の職域ですので、当事務所において判断することはいたしません。税務上の取扱いについては、顧問税理士にご確認ください。
法令の改正、裁判例の集積により内容が変わる場合には、記載を改めます。実際のご依頼に際しましては、必ず個別にご相談ください。ご相談の内容は、弁護士法上の守秘義務に基づき秘密を厳守いたします。
出典
- 民法第467条第1項及び第2項、第494条第1項及び第2項、第495条第1項及び第3項
- 民事執行法第156条第1項及び第2項
- 供託規則第24条第1項第1号
- 動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律第4条第1項
- 最高裁判所第一小法廷昭和49年3月7日判決・民集28巻2号174頁
- 最高裁判所第三小法廷昭和55年1月11日判決・民集34巻1号42頁
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