真正な売買といえるかどうか 判断において考慮されている要素と争う場合の主張の組み立て方

購入か賃借かを示す道標と住宅の模型

ファクタリングをめぐる紛争において、最も中心となる争点は、当該取引が真正な売買であるか、それとも実質において金銭の貸付けであるかという点です。この判断によって、適用される法令が異なり、当事者の主張の内容も大きく変わります。

ファクタリングは売掛債権の売買であり、金銭の貸付けではありませんので、貸金業法、利息制限法及び出資法の適用はありません。したがって、手数料の水準が高いことのみを理由として、これらの法令に違反するということにはなりません。もっとも、売買の形式が採られていても、その実質において金銭の貸付けと同視すべきであると判断された下級審裁判例がありますので、契約の内容及び運用の実態によっては、別途の検討を要します。

本ページでは、真正な売買であるかどうかの判断において考慮されている要素を、要素ごとに整理します。あわせて、争う場合に収集すべき資料と、主張を組み立てる際の留意点を述べます。個別の事案における結果を保証するものではありません。

なぜこの区別が問題となるのか

売買と貸付けとでは、適用される法令が異なります。金銭の貸付けであれば、利息制限法第1条が定める上限を超える部分は無効となり、上限を超えて支払われた金銭は元本に充当されます。また、貸金業の登録を受けずに業として貸付けを行うことは、貸金業法第11条第1項に違反します。出資法第5条が定める水準を超える場合には、刑事上の責任が問題となります。

これに対し、売買であれば、これらの規律は及びません。手数料の水準について法令上の上限はなく、登録も要しません。この差が極めて大きいことから、取引の性質が最も中心的な争点となります。

もっとも、実務上、この争点が問題となる場面は限られています。既に取引が終了し、支払った金銭の返還を求める場面、及び業者から請求を受けてこれを争う場面が中心です。現に取引が継続している局面では、この争点を先行させますと、売掛先に対する債権譲渡の通知が送付され、事業の継続そのものが困難となることがあります。順序の判断が重要です。

考慮されている要素

回収不能の危険の所在

最も重視されている要素です。売買であれば、譲渡の後は、売掛先が支払をしない危険は譲受人が負うのが本来の姿です。これに対し、契約において、売掛先が支払をしない場合に譲渡人が買い戻す義務、又は譲受人に対して償還する義務が定められている場合には、危険が譲渡人に残ることとなります。

もっとも、買戻しの条項が置かれていることのみによって直ちに貸付けと評価されるものではありません。買戻しの事由が、債権の不存在、金額の相違、譲渡の禁止の特約の存在といった、譲渡人の責めに帰すべき事由に限定されている場合には、売買としての性質と矛盾しないと解する余地があります。買戻しの事由の範囲が重要です。

売掛先の信用の調査

売買であれば、譲受人にとっての関心は売掛先の資力にあります。したがって、売掛先の信用状況を調査することが自然です。調査がされていない場合には、譲受人が実際に依拠しているのは譲渡人の資力であることがうかがわれます。

調査の有無は、契約に至る過程で提出を求められた資料の内容から推認されます。売掛先の決算書類、信用調査の報告書の提出が求められていない一方で、譲渡人の決算書類、納税証明書、代表者の資産の状況に関する資料の提出が求められている場合には、この点が問題となります。

担保及び保証の徴求

代表者個人の連帯保証、不動産の担保、株式の担保、手形の差入れが求められている場合には、譲渡人の資力を前提とする取引であることがうかがわれます。売買であれば、譲渡人が担保を提供する必要は本来ありません。

譲渡の対象の特定

売買であれば、譲渡の対象となる債権が具体的に特定されているのが自然です。売掛先の名称、金額、支払期日が明確でなく、又は事後に差し替えることが予定されている場合には、資金の融通が主たる目的であることがうかがわれます。

資金の授受の態様

買取代金が一括して交付されず、分割して交付されている場合、又は返済に相当する入金が定期的に行われている場合には、貸付けに類似する態様であるといえます。また、譲渡の対価が売掛債権の額面に対して著しく低廉である場合には、その差額が実質において利息に相当するとの評価がされ得ます。

取引の反復性

同一の当事者間で取引が反復し、実質において与信の枠として機能している場合には、個別の売買というよりも、継続的な資金の融通としての性質が強くなります。

これらの要素の関係

これらは、いずれか1つが認められれば直ちに貸付けと同視されるというものではありません。取引全体を通じて判断されます。

実務上、最も重視されているのは、回収不能の危険の所在です。危険が譲渡人に残る仕組みとなっており、かつ売掛先の信用の調査がされていない場合には、譲受人が依拠しているのは譲渡人の資力であるといえますので、貸付けに近い性質を有することとなります。

他方で、契約書の文言のみによって判断されるものではありません。契約書に買戻しの条項が置かれていない場合であっても、実際の運用において買戻しが求められているのであれば、その事実が考慮されます。逆に、条項が置かれていても、実際には行使されていない場合には、その事実も考慮されます。

したがって、争う場合には、契約書の条項のみならず、実際の資金の流れ、業者との連絡の記録、他の取引における取扱いといった、運用の実態を示す資料を収集する必要があります。

争う場合に収集すべき資料

1 債権譲渡契約書、基本契約書及び個別契約書の全部

2 契約に至る過程で提出を求められた資料の一覧及びその控え

3 通帳又は取引明細(買取代金の入金及び業者への送金の全部)

4 業者から交付された計算書、明細書

5 業者の担当者との連絡の記録(電子メール、通信アプリケーションの履歴、録音)

6 連帯保証、担保の差入れ、手形の差入れに関する書面

7 債権譲渡登記の有無が分かる資料

8 買戻しが求められた場合には、その経緯を示す資料

主張を組み立てる際の留意点

第1に、手数料の水準を主張の中心に置かないことです。水準が高いことは、それ自体では法令違反を基礎付けません。水準は、他の要素と併せて、取引の実質を推認させる事情の1つとして位置付けます。

第2に、給与ファクタリングに関する判断を援用する場合には、射程を正確に示すことです。いわゆる給与ファクタリングについては、最高裁判所第三小法廷令和5年2月20日決定(刑集77巻2号13頁)が、貸金業法第2条第1項及び出資法第5条第3項にいう「貸付け」に当たる旨を判示しています。もっとも、これは、賃金は直接労働者に支払わなければならないものとされていること(労働基準法第24条第1項)から、譲受人が使用者に対して直接に支払を求めることが予定されていないという、給与債権に特有の事情を前提とする判断です。事業者が有する売掛債権を対象とする事業者向けのファクタリングとは事案を異にしますので、この判断がそのまま及ぶものではありません。

第3に、現に取引が継続している場合には、順序を検討することです。取引の性質を争う姿勢を示すことにより、売掛先に対する債権譲渡の通知が送付されることがあります。事業の継続を優先するのか、既に生じた負担を争うことを優先するのかを、あらかじめ定めておく必要があります。

第4に、立証の負担を見積もることです。運用の実態を示す資料は、その多くが業者の手元にあります。文書提出命令の申立て等の手段を含めて、立証の方法を検討する必要があります。

要素ごとの立証の方法

回収不能の危険の所在

契約書における買戻し及び償還請求に関する条項が第一の資料となります。加えて、実際に買戻しが求められた事実を示す資料が重要です。業者からの請求書、担当者との連絡の記録が該当します。契約書に条項がない場合であっても、実際の運用において買戻しが求められているのであれば、その事実が考慮されます。

売掛先の信用の調査

契約に至る過程で提出を求められた資料の一覧を作成します。売掛先の決算書類、信用調査の報告書の提出が求められていない一方で、譲渡人の決算書類、納税証明書、代表者の資産の状況に関する資料の提出が求められている場合には、この点を主張することができます。

担保及び保証の徴求

連帯保証に関する書面、担保の設定に関する書面、手形の差入れに関する書面が資料となります。

譲渡の対象の特定

個別契約書における債権の表示を確認します。売掛先の名称、債権の発生原因、金額、支払期日が記載されているかどうかが問題となります。事後に差替えが行われた事実がある場合には、これを示す資料を収集します。

資金の授受の態様

通帳の記録により、買取代金が一括して交付されたかどうか、返済に相当する入金が定期的に行われたかどうかを示します。

相手方の反論として想定されるもの

第1に、買戻しの事由が譲渡人の責めに帰すべき事由に限定されているという反論です。条項の文言の解釈が争点となります。

第2に、売掛先の信用の調査を行っていたという反論です。内部の調査の記録が提出されることがあります。この場合には、当該記録の作成の時期及び内容を検討することとなります。

第3に、担保及び保証は表明及び保証の違反に備えたものであるという反論です。担保の目的が何であったかが争点となります。

第4に、譲渡の対象は特定されていたという反論です。個別契約書の記載を根拠とすることが想定されます。

第5に、譲渡人が事業者であり、内容を理解して契約をしたという反論です。もっとも、事業者であることのみによって取引の性質が定まるものではありません。

主張の組立ての実際

第1に、複数の要素を組み合わせて主張します。単一の要素のみでは、取引全体としての評価に至りません。

第2に、時系列に沿って事実を配置します。契約の締結の経緯、取引の反復の状況、条件の変化を時系列で示すことにより、取引の実質が浮かび上がります。

第3に、業者の側の内部の資料の提出を求めます。文書提出命令の申立て(民事訴訟法第221条第1項)を検討することとなります。

第4に、当事者尋問により、契約の締結の経緯及び説明の内容を立証します。

第5に、仮に主張が認められた場合の効果を、あらかじめ算定しておきます。引直しの計算により、請求することのできる金額、又は支払を免れることのできる金額の見込みを立てます。

いま確認していただきたいこと

1 契約書に、買戻し又は償還請求に関する条項があるかどうかを確認してください。

2 買戻しの事由がどのように定められているかを確認してください。

3 契約に至る過程で、売掛先に関する資料の提出を求められたかどうかを確認してください。

4 連帯保証、担保の差入れ、手形の差入れの有無を確認してください。

5 買取代金が一括して交付されたかどうかを、通帳の記録により確認してください。

6 同一の業者との取引の回数と期間を確認してください。

よくあるご質問

買戻しの条項があれば、貸付けと認められますか。

直ちに認められるものではありません。買戻しの事由が譲渡人の責めに帰すべき事由に限定されている場合には、売買としての性質と矛盾しないと解する余地があります。

手数料が高いことは、どの程度考慮されますか。

水準それ自体が法令違反を基礎付けるものではありません。他の要素と併せて、取引の実質を推認させる事情の1つとして位置付けられます。

契約書には何も書かれていませんが、実際には買戻しを求められています。

運用の実態は考慮されます。求められた経緯を示す資料を保全してください。

現在も取引が続いていますが、争うべきでしょうか。

争う姿勢を示すことにより、売掛先に対する通知が送付されることがあります。事業の継続を優先するかどうかを、あらかじめ判断する必要があります。

証拠が業者の手元にあります。

文書提出命令の申立て等の手段を検討することとなります。手元にある資料の範囲で、まず主張の骨格を組み立てます。

既に取引が終了しています。

売掛先への通知の問題が生じませんので、争う場合の障害は小さくなります。もっとも、資料の保存期間の経過により、取引の全体を復元することが困難となることがあります。

おわりに

真正な売買であるかどうかは、契約書の文言のみによってではなく、回収不能の危険の所在、売掛先の信用の調査、担保及び保証の徴求、譲渡の対象の特定、資金の授受の態様、取引の反復性を総合して判断されます。

争う場合には、契約書のほか、運用の実態を示す資料を収集する必要があります。また、現に取引が継続している場合には、順序の判断が結果を左右します。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

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受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)

出典

  • 民法第90条、第467条第1項、第555条
  • 利息制限法第1条
  • 貸金業法第2条第1項、第11条第1項
  • 出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律第5条第3項
  • 労働基準法第24条第1項
  • 最高裁判所第三小法廷令和5年2月20日決定(刑集77巻2号13頁)

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