給与ファクタリングを金銭の貸付けと判断した下級審裁判例 判断の枠組みとその射程

この記事の位置付け
ファクタリングの適法性は、債権の売買として扱われる場面と、金銭の貸付けと判断される場面とに分かれますので、次のとおり切り分けます。本ページは、下級審の裁判例が用いた判断の枠組みとその射程を扱います。
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いわゆる給与ファクタリングについては、最高裁判所の判断に先立ち、下級審において、これを金銭の貸付けに当たるものとして判断した裁判例が複数示されていました。
本ページでは、これらの下級審裁判例において用いられた判断の枠組みを整理し、事業者向けのファクタリングに関する事案における意義を述べます。個別の事案における結果を保証するものではありません。
下級審裁判例において示された判断の枠組み
給与ファクタリングに関する下級審裁判例においては、次の点が判断の中心とされていました。
第1に、譲受人が使用者に対して直接に支払を求めることが予定されているかどうかです。賃金は直接労働者に支払わなければならないものとされていますので(労働基準法第24条第1項)、譲受人が使用者に対して請求することは予定されていません。
第2に、譲受人が資金を回収する方法が、労働者による交付に限られるかどうかです。限られる場合には、実質において、労働者に対する金銭の交付と、その返還の合意にほかならないと評価されます。
第3に、労働者が回収不能の危険を負っているかどうかです。使用者が賃金を支払わない場合に、労働者が譲受人に対して責任を負う仕組みとなっている場合には、売買としての性質が希薄となります。
第4に、手数料の水準です。もっとも、水準は、それ自体で法令違反を基礎付けるものではなく、取引の実質を推認させる事情の1つとして位置付けられていました。
これらの判断は、最高裁判所第三小法廷令和5年2月20日決定(刑集77巻2号13頁)により、貸金業法第2条第1項及び出資法第5条第3項にいう「貸付け」に当たる旨が判示されたことによって、方向が確定しました。
事業者向けのファクタリングとの区別
これらの判断は、給与債権に特有の事情を前提とするものです。事業者が有する売掛債権を対象とする事業者向けのファクタリングとは事案を異にしますので、この判断がそのまま及ぶものではありません。
事業者向けのファクタリングにおいては、譲受人が売掛先に対して債権譲渡の通知をし、売掛先から直接に支払を受けることが、法律上も実務上も予定されています(民法第467条第1項)。実際に、引渡しが遅滞した場合には通知が送付され、譲受人が売掛先から直接に回収する例が数多くあります。
ファクタリングは売掛債権の売買であり、金銭の貸付けではありませんので、貸金業法、利息制限法及び出資法の適用はありません。したがって、手数料の水準が高いことのみを理由として、これらの法令に違反するということにはなりません。もっとも、売買の形式が採られていても、その実質において金銭の貸付けと同視すべきであると判断された下級審裁判例がありますので、契約の内容及び運用の実態によっては、別途の検討を要します。
事業者向けの事案において考慮されている要素
事業者向けのファクタリングについて、売買の形式が採られていても実質において金銭の貸付けと同視すべきであると判断された下級審裁判例においては、次の要素が考慮されています。
| 回収不能の危険の所在 | 売掛先が支払をしない場合に譲渡人が買い戻し、又は償還する義務を負う仕組みとなっているかどうか。 |
| 売掛先の信用の調査 | 譲受人が売掛先の信用状況を調査しているかどうか。 |
| 担保及び保証の徴求 | 代表者個人の連帯保証、不動産の担保、株式の担保が徴求されているかどうか。 |
| 譲渡の対象の特定 | 譲渡の対象とされた債権が具体的に特定されているかどうか。 |
| 資金の授受の態様 | 債権買取代金が分割して交付されているかどうか。返済に相当する入金が定期的に行われているかどうか。 |
| 取引の反復性 | 同一の当事者間で取引が反復し、実質において与信の枠として機能しているかどうか。 |
これらは、いずれか1つが認められれば直ちに貸付けと同視されるというものではありません。取引全体を通じて判断されます。
裁判例を参照する際の留意点
第1に、事案の類型を確認してください。給与債権を対象とする事案と、事業者が有する売掛債権を対象とする事案とでは、判断の前提が異なります。
第2に、裁判所及び審級を確認してください。下級審の裁判例は、他の事件を拘束するものではありません。
第3に、判断の理由を確認してください。結論のみを引用した紹介では、射程を把握することができません。
第4に、当該事案における契約の内容を確認してください。ご自身の契約書の条項と一致しているかどうかが、参照の可否を左右します。
裁判例の調べ方と読み方
第1に、裁判所、年月日、事件番号を確認します。同じ主題に関する裁判例であっても、審級及び時期によって判断の重みが異なります。
第2に、事案の概要を確認します。譲渡の対象が賃金債権であるか売掛債権であるか、当事者が個人であるか法人であるか、取引が1回限りであるか反復しているかによって、判断の前提が異なります。
第3に、当事者の主張を確認します。いかなる法律構成により請求がされたのか、いかなる事実が主張されたのかを把握しなければ、判断の意味を理解することができません。
第4に、裁判所が認定した事実を確認します。判断の結論は、認定された事実を前提とするものです。認定された事実がご自身の事案と異なる場合には、同じ結論とはなりません。
第5に、判断の理由を確認します。結論のみを引用した紹介では、射程を把握することができません。
第6に、その後の裁判例の動向を確認します。下級審の判断が、後の上級審の判断により変更されることがあります。
事業者向けの事案における主張の組み立て方
第1に、手数料の水準を主張の中心に置かないことです。水準が高いことは、それ自体では法令違反を基礎付けません。水準は、他の要素と併せて、取引の実質を推認させる事情の1つとして位置付けます。
第2に、回収不能の危険の所在を中心に置くことです。売掛先が支払をしない場合に譲渡人が責任を負う仕組みとなっているかどうかが、最も重視されている要素です。契約書の条項のみならず、実際に買戻しが求められた事実を示す資料が重要となります。
第3に、売掛先の信用の調査がされていない事実を示すことです。契約に至る過程で提出を求められた資料の一覧を作成し、売掛先に関する資料の提出が求められなかったことを示します。
第4に、担保及び保証の徴求の事実を示すことです。譲渡人の資力を前提とする担保が徴求されている事実は、売買としての性質と整合しません。
第5に、資金の授受の態様を示すことです。債権買取代金が分割して交付されている事実、返済に相当する入金が定期的に行われている事実を、通帳の記録により示します。
第6に、立証の負担を見積もることです。運用の実態を示す資料の多くは業者の手元にありますので、文書提出命令の申立て(民事訴訟法第221条第1項)を含めて検討する必要があります。
争う時期の判断
現に取引が継続している局面において取引の性質を争いますと、業者は回収の手段として売掛先に対する債権譲渡の通知を選択することがあります。通知が送付されますと、取引関係が失われ、資金繰りの再建の前提そのものが失われます。
他方で、取引が既に終了している局面においては、この問題が生じません。したがって、争うことを検討するのであれば、まず資金の流出を止め、取引を終了させたうえで着手することが安全です。
もっとも、消滅時効及び資料の保存期間の問題がありますので、無期限に先送りすることもできません。事業の継続の見込みと併せて、時期を判断することとなります。
下級審裁判例の意義と限界
第1に、下級審の裁判例は、他の事件を拘束するものではありません。もっとも、同種の事案における判断の参考とされます。
第2に、複数の裁判例において同じ判断が積み重ねられている場合には、実務上の指針としての意味を持ちます。
第3に、上級審の判断が示された場合には、これに従うこととなります。給与ファクタリングについては、最高裁判所の判断により方向が確定しました。
第4に、事業者向けのファクタリングについては、最高裁判所の判断が示されていません。したがって、下級審の判断が分かれる余地があります。
第5に、いずれにしても、判断は当該事案における契約の内容及び運用の実態を前提とするものです。ご自身の事案との相違を確認してください。
本ページの位置付け
本ページは、給与ファクタリングを金銭の貸付けと判断した下級審裁判例について、判断の枠組みとその射程を整理したものです。
これらの判断は、給与債権に特有の事情を前提とするものであり、事業者が有する売掛債権を対象とする事業者向けのファクタリングにそのまま及ぶものではありません。
事業者向けの事案において取引の性質を争う場合には、契約の内容及び運用の実態に関する具体的な事実によることとなります。
いま確認していただきたいこと
1 ご自身の取引が、給与債権を対象とするものか、事業者が有する売掛債権を対象とするものかを確認してください。
2 契約書に、買戻し又は償還請求に関する条項があるかどうかを確認してください。
3 契約に至る過程で、売掛先に関する資料の提出を求められたかどうかを確認してください。
4 連帯保証、担保の差入れの有無を確認してください。
5 債権買取代金が一括して交付されたかどうかを、通帳の記録により確認してください。
よくあるご質問
下級審の裁判例は、他の事件にも適用されますか。
他の事件を拘束するものではありません。もっとも、同種の事案における判断の参考とされます。
給与ファクタリングの裁判例を、事業者向けの事案で援用できますか。
給与債権に特有の事情を前提とする判断ですので、そのまま援用することは適切ではありません。
事業者向けの事案で、貸付けと判断された裁判例はありますか。
売買の形式が採られていても実質において金銭の貸付けと同視すべきであると判断された下級審裁判例があります。もっとも、いずれも当該事案における契約の内容及び運用の実態を前提とするものです。
手数料の水準は、どの程度考慮されますか。
水準それ自体が法令違反を基礎付けるものではありません。他の要素と併せて、取引の実質を推認させる事情の1つとして位置付けられます。
裁判例はどこで確認することができますか。
最高裁判所のウェブサイトにおいて、一部の裁判例が公開されています。判例集に登載された裁判例については、判例集により確認することができます。
争う場合には、何を準備すればよいですか。
契約書のほか、実際の資金の流れ、業者との連絡の記録その他の運用の実態を示す資料を収集してください。
おわりに
給与ファクタリングに関する下級審裁判例は、譲受人が第三債務者から直接に回収することが予定されているかどうかを判断の中心としていました。この点は、最高裁判所の判断においても維持されています。
事業者向けのファクタリングにおいては、譲受人が売掛先から直接に回収することが予定されていますので、判断の前提が異なります。事業者向けの事案において争う場合には、契約の内容及び運用の実態に関する具体的な事実によることとなります。
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出典
- 最高裁判所第三小法廷令和5年2月20日決定(刑集77巻2号13頁)
- 民法第467条第1項
- 貸金業法第2条第1項
- 出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律第5条第3項
- 労働基準法第24条第1項
- 利息制限法第1条
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