元請の工事の中断等により入金が得られなくなった場合 法律関係と業者との協議の方法

この記事の位置付け
支払が困難となった場面の対応は、交渉により資金繰りを立て直す場面と、訴訟その他の法的手続へ応じる場面とに分かれますので、次のとおり切り分けます。本ページは、元請の事情により入金が遅れた場合の法律関係と協議を扱います。
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元請の工事が中断し、又は取引先の事業が停止したことにより、予定していた入金が得られず、ファクタリングの支払をすることができなくなったというご相談をお受けすることがあります。
この局面においては、ご自身の責めに帰することのできない事情によって支払が困難となっていますので、業者との協議において、その事実を資料により示すことが有効です。他方で、契約上の義務が当然に免れられるものではありません。
本ページでは、取引先の事情により入金が得られなくなった場合の法律関係と、採り得る対応を整理します。個別の事案における結果を保証するものではありません。
入金が得られない場合の法律関係
第1に、譲渡した売掛債権が既に発生している場合です。この場合、債権は存在しますので、売掛先に対する請求が可能です。もっとも、売掛先の資力によっては、回収が困難となります。
第2に、譲渡した売掛債権がまだ発生していない場合です。将来発生する債権を譲渡した場合において、その債権が発生しなかったときは、譲受人は当該債権を取得しません。この場合、譲受人との間の精算が問題となります。
第3に、工事の請負契約における出来高の取扱いです。工事が中断した場合には、既に施工した部分に相当する報酬の請求が問題となります。請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなし、請負人は注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができます(民法第634条)。
第4に、契約上の義務です。ファクタリングの契約においては、譲渡人が回収した資金を引き渡す義務を負う旨が定められていることが一般です。売掛先から入金がない場合の取扱いは、契約の定めによります。買戻し又は償還の義務が定められている場合には、入金の有無にかかわらず、譲渡人が支払をしなければなりません。
業者との協議において示すべき資料
第1に、取引先の事情により入金が得られないことを示す資料です。工事の中断に関する通知、取引先からの連絡、公表されている情報が該当します。
第2に、入金の見込みに関する資料です。工事の再開の見込み、出来高の精算の見込み、その時期を示す資料を収集してください。
第3に、他の売掛先からの入金の予定です。当該取引先以外からの入金により、どの程度の支払が可能であるかを示します。
第4に、資金繰りの見込みです。今後3箇月について、日単位で作成してください。
第5に、履行することのできる支払の内容です。これらの資料に基づいて、金額、期日、回数を書面により提示します。
取引先に対する対応
第1に、出来高の確認です。既に施工した部分について、数量及び金額を確定し、書面により確認を求めてください。
第2に、支払の時期の確認です。中断の期間中の取扱い、再開後の取扱いを確認してください。
第3に、契約書の確認です。中断の場合の報酬の取扱い、解除の要件、損害の負担に関する条項を確認してください。
第4に、記録の保全です。中断の経緯、指示の内容、協議の記録を保全してください。
第5に、債権譲渡の通知が送付されている場合には、取引先に対する説明の方法を検討することです。
法令の適用に関する前提
ファクタリングは売掛債権の売買であり、金銭の貸付けではありませんので、貸金業法、利息制限法及び出資法の適用はありません。したがって、手数料の水準が高いことのみを理由として、これらの法令に違反するということにはなりません。もっとも、売買の形式が採られていても、その実質において金銭の貸付けと同視すべきであると判断された下級審裁判例がありますので、契約の内容及び運用の実態によっては、別途の検討を要します。
また、取引先の事情により入金が得られないことは、契約上の義務を免れる理由とはなりません。買戻し又は償還の義務が定められている場合には、その義務を履行しなければなりません。
この局面で避けていただきたい対応
第1に、連絡を絶つことです。売掛先に対する債権譲渡の通知の送付を早めます。
第2に、他の業者から資金を得て支払に充てることです。手数料が累積し、負担は加速度的に増大します。
第3に、まだ発生していない工事について請求書を作成して提出することです。実在しない債権に関する資料を作成した場合には、詐欺罪(刑法第246条第1項)、私文書偽造罪及び同行使罪(同法第159条第1項、第161条第1項)の成否が問題となります。
第4に、履行することのできない金額を述べることです。口頭で述べた金額と期日は、後の協議において前提として扱われます。
第5に、取引先に対して感情的な対応をすることです。取引関係を失いますと、回復の原資が失われます。
出来高の確定に関する実務
第1に、契約書及び注文書における工事の範囲を確認します。当初の範囲に加えて追加の工事が行われている場合には、その指示の根拠を示す資料を収集してください。
第2に、施工の記録を整理します。日報、写真、検査の記録、材料の搬入の記録が資料となります。中断の時点における施工の状況を客観的に示すことが必要です。
第3に、出来高査定の基準を確認します。契約書において、出来高の算定の方法が定められている場合には、これに従います。定めがない場合には、工事の内訳書における各工種の金額に、施工の割合を乗じて算定することが一般です。
第4に、注文者に対して書面により確認を求めます。口頭による確認では、後に争いとなった場合の資料となりません。
第5に、協議が調わない場合には、既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなし、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができます(民法第634条)。
第6に、中断の理由が注文者の責めに帰すべき事由による場合には、請負人は報酬の全部を請求することができる場合があります(同法第536条第2項参照)。中断の経緯を示す資料が重要となります。
業者との協議において示す資料の作り方
第1に、中断の事実を示す資料です。注文者からの通知、協議の記録、公表されている情報を整理します。
第2に、出来高の一覧です。工種ごとの金額と施工の割合を示し、請求することのできる金額を算出します。
第3に、入金の見込みです。出来高の精算の時期、工事の再開の見込み、再開後の入金の予定を、根拠とともに示します。
第4に、他の売掛先からの入金の予定です。当該取引先以外からの入金により、どの程度の支払が可能であるかを示します。
第5に、今後3箇月の資金繰りの見込みです。日単位で作成し、支払に充てることのできる金額を明らかにします。
第6に、履行することのできる支払の内容です。金額、期日、回数を書面により提示します。
取引先との関係を維持しながら進めるための留意点
第1に、注文者に対して感情的な対応をしないことです。中断の原因が注文者にある場合であっても、取引関係を失いますと、回復の原資が失われます。
第2に、出来高の確認を書面により求めることです。口頭による確認では、後に争いとなった場合の資料となりません。
第3に、債権譲渡の通知が送付されている場合には、注文者に対する説明の内容及び順序を整えることです。事実を伏せることは、かえって信用を損ないます。
第4に、他の工事への影響を確認することです。1つの工事の中断により資金が不足しますと、他の工事の施工にも影響が及びます。
第5に、下請に対する支払を確保することです。下請に対する支払が遅滞しますと、施工体制そのものが維持できなくなります。
公共工事における特有の取扱い
第1に、前払金の制度です。公共工事においては、前払金保証事業会社の保証を受けることにより、前払金を受領することができる場合があります。工事が中断した場合の前払金の取扱いについては、契約における定めを確認してください。
第2に、中間前払金及び出来高部分払です。工事の進行に応じた支払を求めることができる場合があります。
第3に、債権譲渡の制限です。公共工事の請負代金債権については、譲渡を制限する特約が付されていることが一般です。譲渡した場合には、契約上の義務の違反として、指名停止その他の措置の対象となることがあります。
第4に、入札の参加資格への影響です。財務の状況、経営事項審査の評点に影響が生じることがあります。
第5に、これらの点から、公共工事の請負代金債権を譲渡の対象とすることには、民間工事の場合と異なる注意を要します。
本ページの位置付け
本ページは、元請の工事の中断その他の取引先の事情により入金が得られなくなった事業者の方に向けて、法律関係と業者との協議の方法を整理したものです。
ご自身の責めに帰することのできない事情による場合であっても、契約上の義務が当然に免れられるものではありません。他方で、その事実を資料により示すことは、協議において有効です。
出来高の確定、再開の見込みの確認、資金繰りの見込みの作成という順序で資料を整えたうえで、業者との協議に入ってください。
いま確認していただきたいこと
1 中断している工事の出来高を、数量及び金額により確定してください。
2 工事の再開の見込みと、その時期を確認してください。
3 業者ごとの残額、支払期日、担保の有無及び通知の有無を一覧にしてください。
4 契約書における買戻し又は償還の事由の範囲を確認してください。
5 今後3箇月の資金繰りを、日単位で作成してください。
6 他の売掛先からの入金の予定を確認してください。
よくあるご質問
入金がないのに支払わなければならないのですか。
契約の定めによります。買戻し又は償還の義務が定められている場合には、入金の有無にかかわらず支払をしなければなりません。契約書をご持参ください。
取引先の事情であることを説明すれば、猶予してもらえますか。
猶予に応じる義務はありませんが、資料により裏付けられた説明は、協議において考慮されます。
工事が中断した場合の報酬はどうなりますか。
既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分について報酬を請求することができます(民法第634条)。出来高の確定が前提となります。
まだ発生していない工事について請求書を出してもよいですか。
行わないでください。刑事上の責任が問題となります。
取引先に債権譲渡の通知が届いてしまいました。
事実を正確に伝え、支払先を明確にし、今後の取引の見込みを具体的に示すことにより、取引が維持された例があります。説明の方法をあらかじめ整理してください。
複数の業者から請求を受けています。
資金の流れの全体を把握したうえで、対応の順序を定める必要があります。直ちにご相談ください。
おわりに
取引先の事情により入金が得られない場合であっても、契約上の義務が当然に免れられるものではありません。他方で、その事実を資料により示すことは、協議において有効です。
出来高の確定、再開の見込みの確認、資金繰りの見込みの作成という順序で資料を整えたうえで、業者との協議に入ってください。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
取引先の事情により入金が得られない場合のご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)
ご留意事項
本ページの記載は、取引先の事情による入金の遅れに関する一般的な法制度及び当事務所の取扱いの説明であり、個別の事案について一定の結果を保証するものではありません。見通し、要する期間、回収し又は負担する金額その他の帰結は、事案ごとの事実関係及び資料によって異なります。
また、課税関係につきましては税理士の職域ですので、当事務所において判断することはいたしません。税務上の取扱いについては、顧問税理士にご確認ください。
法令の改正、裁判例の集積により内容が変わる場合には、記載を改めます。実際のご依頼に際しましては、必ず個別にご相談ください。ご相談の内容は、弁護士法上の守秘義務に基づき秘密を厳守いたします。
出典
- 民法第467条第1項、第634条
- 刑法第159条第1項、第161条第1項、第246条第1項
- 貸金業法第2条第1項
- 利息制限法第1条
- 出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律第5条
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