ファクタリングの分割による支払の交渉 提案の組み立て方と合意書における留意事項

ファクタリングの支払期日に一括して支払うことができないため、分割による支払を認めてもらいたいという御相談を数多くお受けしています。
分割による支払は、法律上当然に認められるものではありません。ファクタリングは売掛債権の売買であり、業者には分割に応じる義務がありません。したがって、これは交渉によって合意を形成する作業です。
本ページでは、分割による支払の交渉を組み立てる方法、業者が判断の際に見ている事項、合意書において確認すべき条項、及び交渉が調わない場合の選択肢を整理します。個別の事案における結果を保証するものではありません。
分割による支払が法律上当然には認められない理由
ファクタリングは、売掛債権の売買です(民法第555条)。2社間ファクタリングにおいては、譲渡人が売掛先から回収した資金を譲受人へ引き渡す義務を負う旨が定められていることが一般です。この義務は、期限の定めのある債務ですので、期限に履行しなければ遅滞となります。
また、契約書には、引渡しが遅滞した場合について、期限の利益の喪失、買戻しの義務、償還の義務、損害金及び違約金に関する条項が置かれていることが多く見られます。したがって、遅滞が生じますと、請求される金額は増加します。
ファクタリングは金銭の貸付けではありませんので、貸金業法、利息制限法及び出資法の適用はありません。したがって、手数料の水準が高いことのみを理由として、これらの法令に違反するということにはなりません。もっとも、売買の形式が採られていても、その実質において金銭の貸付けと同視すべきであると判断された下級審裁判例がありますので、契約の内容及び運用の実態によっては、別途の検討を要します。
業者が分割の可否を判断する際に見ている事項
業者にとっての目的は、多くの場合に金銭の回収です。したがって、分割に応じるかどうかは、分割によって回収の見込みが高まるかどうかによって判断されます。判断の際に見られているのは、主として次の事項です。
| 資金繰りの見込み | 今後の入金の予定が、資料により確認することができるかどうか。売掛先ごとの入金予定表、受注の状況、通帳の記録が資料となります。 |
| 提案の実行可能性 | 提示された金額が、実際に履行することのできる水準であるかどうか。過大な提案は、履行されなかった場合に信用を失わせます。 |
| 他の業者との関係 | 複数の業者と取引がある場合に、他の業者への支払との関係で実行することができるかどうか。 |
| 売掛先との取引の継続 | 主要な売掛先との取引が維持されているかどうか。取引が停止していれば、回収の原資が失われます。 |
| 連絡の状況 | 連絡に応答しているかどうか。応答がない場合には、回収の手段として通知の送付又は法的手続が選択されやすくなります。 |
提案の組み立て方
第1に、資金繰りの見込みを作成します。今後3箇月から6箇月について、売掛先ごとの入金の予定と、支払の予定を日単位で書き出します。この作業を経ずに金額を述べますと、履行することのできない提案となります。
第2に、支払に充てることのできる原資を確定します。人件費、仕入代金、公租公課その他の事業の継続に不可欠な支払を確保したうえで、残余を原資とします。
第3に、業者ごとの配分を定めます。複数の業者と取引がある場合には、残額、担保の有無、通知の有無を踏まえて配分します。1つの業者にのみ支払をしますと、他の業者との関係が悪化します。
第4に、書面により提案します。口頭による提案は、内容が正確に伝わらず、また後に食い違いを生じます。金額、期日、回数及び前提となる資料を書面に記載して提示してください。
第5に、履行の状況を報告します。合意した内容を履行するとともに、資金繰りに変動が生じた場合には、期日の前に報告してください。事後の報告は信用を損ないます。
合意書において確認すべき条項
分割による支払の合意が成立する場合には、合意書が作成されることが一般です。次の点を確認してください。
1 支払の総額と、その内訳です。元となる債務のほか、損害金、違約金、費用が加算されているかどうかを確認してください。
2 期限の利益の喪失に関する条項です。1回でも遅滞した場合に直ちに全額の支払を求めることができる旨が定められていることがあります。
3 債権譲渡の通知に関する定めです。合意が履行されている間は通知を送付しない旨を明記することができるかどうかを確認してください。
4 連帯保証及び担保に関する定めです。新たに代表者個人の連帯保証、不動産の担保、株式の担保を求められることがあります。
5 公正証書の作成に関する定めです。強制執行を受諾する旨の記載のある公正証書が作成されますと、判決を得ることなく強制執行を受ける状態となります(民事執行法第22条第5号)。委任状に署名する前に、内容を確認してください。
6 清算に関する条項です。合意した金額を支払った場合に、残余の債務が消滅する旨が明記されているかどうかを確認してください。
交渉が調わない場合
業者に分割へ応じる義務はありませんので、交渉が調わないことがあります。その場合には、次の選択肢を検討することとなります。
第1に、売掛先への通知が送付されることを前提として、売掛先に対する説明の方法を準備することです。
第2に、業者が訴訟の提起又は支払督促の申立てを行った場合の対応です。答弁の期限及び督促異議の期限は短いため、書類が届いた時点で直ちに確認する必要があります。
第3に、事業の継続が困難である場合の手続です。私的整理、民事再生、破産その他の手続を検討することとなります。
提案の書面の記載事項
第1に、現在の残額と、その内訳です。元となる金額、損害金、違約金、費用の別に記載します。業者の主張する金額と相違がある場合には、その旨を明示します。
第2に、支払をすることができない理由です。売掛先からの入金の遅れによるものか、他の要因によるものかを具体的に記載します。
第3に、資金繰りの見込みです。今後3箇月から6箇月について、売掛先ごとの入金の予定と支払の予定を示します。
第4に、提案する支払の内容です。金額、期日、回数を明示します。初回の支払を早い時期に設定することにより、履行の意思を示すことができます。
第5に、他の業者との関係です。複数の業者と取引がある場合には、全体の配分の考え方を示します。公平な取扱いをしていることを示すことにより、協議が進みやすくなります。
第6に、債権譲渡の通知に関する要望です。合意が履行されている間は送付を留保するよう求めます。
協議が調った後の履行の管理
第1に、支払の期日を管理してください。1回でも遅滞しますと、期限の利益の喪失に関する条項により、直ちに全額の請求を受けることがあります。
第2に、支払の記録を保存してください。送金の記録により、履行の状況を示すことができます。
第3に、資金繰りに変動が生じた場合には、期日の前に報告してください。事後の報告は信用を損ないます。
第4に、他の業者との関係に変化が生じた場合にも、報告してください。
第5に、合意した金額を支払い終えた場合には、清算の確認を書面により求めてください。あわせて、債権譲渡登記の抹消、通知書の返還を求めます。
合意書に署名する前の最終確認
第1に、支払の総額と内訳が、協議した内容と一致しているかどうか。
第2に、期限の利益の喪失の事由が、過度に広範でないかどうか。
第3に、新たな連帯保証、担保の差入れが含まれていないかどうか。
第4に、強制執行を受諾する旨の記載のある公正証書の作成に関する条項が含まれていないかどうか。含まれている場合には、その意味を理解したうえで判断してください(民事執行法第22条第5号)。
第5に、合意した金額を支払った場合に、残余の債務が消滅する旨が明記されているかどうか。
第6に、債権譲渡の通知に関する定めが、協議した内容と一致しているかどうか。
協議が調わない場合の見通し
第1に、売掛先に対する債権譲渡の通知が送付される可能性が高まります。送付されますと、取引関係に直ちに影響します。
第2に、業者が訴訟の提起又は支払督促の申立てを行うことがあります。答弁の期限、督促異議の期限が短いため、書類が届いた時点で直ちに確認してください。
第3に、仮差押命令の申立てがされることがあります。事業用の口座が対象となりますと、資金繰りに直ちに影響します。
第4に、代表者個人の連帯保証がある場合には、個人に対する請求がされます。
第5に、事業の継続が困難である場合には、私的整理、民事再生、破産その他の手続を検討することとなります。この判断は、資金が尽きる前に行う必要があります。
本ページの位置付け
本ページは、ファクタリングの分割による支払を求めることを検討している事業者の方に向けて、提案の組み立て方と合意書における留意事項を整理したものです。
分割による支払は、法律上当然に認められるものではありません。業者に応じる義務はありませんので、交渉によって合意を形成する作業となります。
資金繰りの資料に基づいて履行することのできる提案を組み立て、これを書面により提示し、履行の状況を報告するという手順によって進めてください。
いま確認していただきたいこと
1 今後3箇月の資金繰りを、日単位で作成してください。
2 業者ごとの残額、支払期日、担保の有無及び通知の有無を一覧にしてください。
3 契約書における期限の利益の喪失、損害金及び違約金に関する条項を確認してください。
4 既に提示されている合意書の案がある場合には、署名の前に内容を確認してください。
5 業者との連絡の記録を保全してください。
よくあるご質問
分割による支払を求めることは、法律上の権利ですか。
権利ではありません。業者に応じる義務はありませんので、交渉によって合意を形成することとなります。
いくらから提案すればよいでしょうか。
資金繰りの見込みから、確実に履行することのできる金額を算出してください。過大な提案は、履行されなかった場合に信用を失わせ、以後の交渉を困難にします。
弁護士に依頼すれば分割に応じてもらえますか。
結果を保証することはできません。もっとも、資金繰りの資料に基づいて提案を組み立て、書面により提示することにより、協議が調う例があります。
公正証書の作成を求められています。応じるべきでしょうか。
強制執行を受諾する旨の記載のある公正証書が作成されますと、判決を得ることなく強制執行を受ける状態となります。内容を確認し、必要性と不利益を比較したうえで判断してください。
合意した後に、また支払うことができなくなりました。
期限の利益の喪失に関する条項により、直ちに全額の請求を受けることがあります。期日の前に事情を報告し、再度の協議を求めることが必要です。
複数の業者から分割を求められています。どのように配分すべきでしょうか。
残額、担保の有無、通知の有無を踏まえて配分します。1つの業者にのみ支払をしますと、他の業者との関係が悪化し、全体の収拾が困難になります。
おわりに
分割による支払の交渉は、資金繰りの資料に基づいて履行することのできる提案を組み立て、これを書面により提示し、履行の状況を報告するという手順によって進めます。口頭でその場をしのぐ対応は、結果として選択肢を狭めます。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
ファクタリングの分割による支払に関する御相談
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御留意事項
本ページの記載は、ファクタリングの分割による支払に関する一般的な法制度及び当事務所の取扱いの説明であり、個別の事案について一定の結果を保証するものではありません。見通し、要する期間、回収し又は負担する金額その他の帰結は、事案ごとの事実関係及び資料によって異なります。
また、課税関係につきましては税理士の職域ですので、当事務所において判断することはいたしません。税務上の取扱いについては、顧問税理士に御確認ください。
法令の改正、裁判例の集積により内容が変わる場合には、記載を改めます。実際の御依頼に際しましては、必ず個別に御相談ください。御相談の内容は、弁護士法上の守秘義務に基づき秘密を厳守いたします。
出典
- 民法第412条、第555条
- 民事執行法第22条第5号
- 貸金業法第2条第1項
- 利息制限法第1条
- 出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律第5条
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