ファクタリングの問題の本質 資金繰りの構造から見た4つの論点

ファクタリングをめぐる紛争は、個別の論点が数多く存在するように見えます。もっとも、当事務所が数多くの事案を取り扱ってまいりました経験からいたしますと、問題の本質は、資金繰りの構造に還元することができます。
本ページでは、ファクタリングをめぐる問題の本質を、負担の累積、危険の所在、売掛先との関係、そして情報の非対称という4つの論点に分けて整理します。個別の論点に関する解説とは異なり、なぜ問題が生じるのかという構造そのものを述べます。
第1の論点 負担の累積
ファクタリングの負担は、売掛債権の額面と実際に受領する金額との差額です。これを期間で除して年率に引き直しますと、他の資金調達手段と比較することができます。額面の10パーセントの手数料で期間が1箇月である場合、年率に引き直した負担は約133パーセントに相当します。
この負担を運転資金から捻出することができる事業者は多くありません。営業利益率が数パーセントである事業において、月次で10パーセントの負担を吸収することは、構造上不可能です。
したがって、次の売掛債権を譲渡して前回の引渡しに充てるという循環が生じます。この循環に入りますと、譲渡することのできる売掛債権の残量が減少する一方で、負担は累積します。当事務所に寄せられる御相談の多くは、この段階に至った事案です。
重要なのは、この循環が、当事者の意思の弱さによって生じるのではなく、負担の水準と営業利益率との差によって構造的に生じるという点です。したがって、意思によってこれを止めることは困難であり、資金繰りの構造そのものを見直すほかありません。
第2の論点 危険の所在
売買であれば、譲渡の後は、売掛先が支払をしない危険は譲受人が負うのが本来の姿です。この危険を引き受ける対価として、手数料が正当化されます。
もっとも、実際の契約においては、売掛先が支払をしない場合に譲渡人が買い戻す義務、又は譲受人に対して償還する義務が定められていることが少なくありません。この場合、危険は譲渡人に残ります。
危険が譲渡人に残るにもかかわらず、危険を引き受けることを前提とする水準の手数料が課されているとしますと、対価と給付との間に不均衡が生じます。これが、取引の性質が争われる根本的な理由です。
ファクタリングは売掛債権の売買であり、金銭の貸付けではありませんので、貸金業法、利息制限法及び出資法の適用はありません。したがって、手数料の水準が高いことのみを理由として、これらの法令に違反するということにはなりません。もっとも、売買の形式が採られていても、その実質において金銭の貸付けと同視すべきであると判断された下級審裁判例がありますので、契約の内容及び運用の実態によっては、別途の検討を要します。
第3の論点 売掛先との関係
ファクタリングにおいて最も重要な資産は、売掛債権そのものではなく、売掛先との取引関係です。売掛債権は、取引関係から継続的に生み出されるものだからです。
ところが、譲受人が有する最も強力な回収の手段は、売掛先に対する債権譲渡の通知です(民法第467条第1項)。通知が送付されますと、売掛先は取引の継続を再考します。取引を失いますと、将来の売掛債権が生じなくなりますので、譲渡人にとっては返済の原資そのものが失われます。
すなわち、譲受人にとって最も効果的な回収の手段は、譲渡人の返済能力を破壊する手段でもあります。この構造が、交渉における緊張を生みます。
この点を理解しますと、交渉の方向が定まります。譲受人にとっても、取引関係が維持され、将来の売掛債権から回収がされる方が、結果として有利である場合が少なくありません。この点を資料に基づいて示すことが、交渉の中心となります。
第4の論点 情報の非対称
契約の締結の場において、譲渡人が確認することのできる情報は限られています。手数料の割合は示されますが、これを年率に引き直した水準は示されません。買戻しの条項は記載されていますが、その意味は説明されないことがあります。控除の名目は記載されていますが、返還の要件は明らかにされないことがあります。
他方で、譲受人は、多数の取引の経験に基づき、どの段階で通知を送付すべきか、どの程度の水準であれば履行が期待できるかを把握しています。
この非対称は、資金繰りが逼迫し、検討の時間がない局面において、最も大きくなります。急がされている状況で締結された契約が、後に最も重い負担となるのは、このためです。
したがって、契約の締結の前に、実際に受領することのできる金額、控除の内訳、買戻しの事由の範囲、通知が送付される要件を書面により確認することが、最も有効な予防となります。
4つの論点の関係
これらの論点は、独立したものではありません。情報の非対称のもとで締結された契約により、危険が譲渡人に残る仕組みが設定され、その水準ゆえに負担が累積し、累積した負担を回収するために売掛先への通知が用いられるという連鎖になっています。
したがって、対応もこの連鎖に沿って組み立てることとなります。まず資金の流出を止め、次に契約の内容を精査し、そのうえで売掛先との取引関係を守りながら支払の方法を協議するという順序です。
この順序を誤り、例えば取引の性質を争うことを先行させますと、通知が送付され、取引関係が失われます。取引関係が失われますと、支払の原資そのものが失われますので、結果として交渉の余地がなくなります。
4つの論点に対応する具体的な作業
負担の累積への対応
まず、取引ごとの負担を年率に引き直し、直近1年間の合計を営業利益と比較します。合計が営業利益に近づいている場合には、資金の流出を止めることが最優先となります。次の譲渡を行わないという判断が、最初の対応です。
危険の所在への対応
契約書における買戻し又は償還の事由の範囲を確認します。売掛先の支払能力の欠如を事由とする場合には、回収不能の危険が譲渡人に残ることとなります。この点は、取引の性質を争う場合において最も重視される要素です。
売掛先との関係への対応
主要な売掛先との取引額と、その事業に占める比重を確認します。上位の数社で売上高の大半を占める場合には、債権譲渡の通知が送付された時点で事業の継続が困難となります。したがって、通知の送付を避けることが交渉の最優先の目標となります。
情報の非対称への対応
契約書の全文、控除の内訳、通知が送付される要件を書面により確認します。既に締結している場合であっても、条項を確認することにより、現在の立場を正確に把握することができます。
対応の順序を誤った場合に生じること
第1に、取引の性質を争うことを先行させた場合です。業者は回収の手段として売掛先に対する債権譲渡の通知を選択することがあり、取引関係が失われます。取引を失いますと、支払の原資そのものが失われますので、結果として交渉の余地がなくなります。
第2に、資金の流出を止めないまま協議を進めた場合です。協議の期間中も負担が累積しますので、提案することのできる内容が日々悪化します。
第3に、1つの業者にのみ支払をした場合です。他の業者との関係が悪化し、全体の収拾が困難となります。また、破産手続に移行した場合には、否認の対象となることがあります(破産法第162条)。
第4に、連絡を絶った場合です。通知の送付を早めます。
第5に、事実と異なる資料を提出した場合です。民事上の問題が刑事上の問題に転化します。
当事務所における方針の立て方
第1に、事実関係を資料により確定します。記憶に基づく整理では、方針を誤ります。
第2に、目指す到達点を定めます。事業の継続を優先するのか、既に生じた負担を争うことを優先するのかを、最初に定めます。
第3に、優先順位を定めます。時間の余裕がない問題から着手し、並行して時間を要する問題の準備を進めます。
第4に、見込みを率直に申し上げます。できないことをできると申し上げることはいたしません。
第5に、履行の状況に応じて方針を見直します。当初の見込みと異なる展開となった場合には、速やかに方針を改めます。
4つの論点の相互の関係
情報の非対称のもとで締結された契約により、危険が譲渡人に残る仕組みが設定されます。その水準ゆえに負担が累積し、累積した負担を回収するために売掛先への通知が用いられます。この連鎖が、ファクタリングをめぐる問題の基本的な構造です。
したがって、いずれか1つの論点のみに対応しても、問題は解決しません。連鎖の順序に沿って、まず資金の流出を止め、次に契約の内容を精査し、そのうえで売掛先との取引関係を守りながら支払の方法を協議することとなります。
この順序を誤りますと、選択肢が失われます。特に、取引の性質を争うことを先行させますと、通知が送付され、取引関係が失われます。取引関係が失われますと、支払の原資そのものが失われますので、結果として交渉の余地がなくなります。
本ページの位置付け
本ページは、ファクタリングをめぐる問題の全体像を把握しようとしておられる事業者の方に向けて、問題の本質を資金繰りの構造から整理したものです。
個別の論点に関する解説とは異なり、なぜ問題が生じるのかという構造そのものを述べています。個別の論点については、本ページの下部に掲げた関連するページを御覧ください。
連鎖の順序に沿って、まず資金の流出を止め、契約の内容を精査し、売掛先との取引関係を守りながら支払の方法を協議するという順序が、結果として最も早い解決につながります。
いま確認していただきたいこと
1 実際に受領した金額と引き渡した金額の差額を、期間で除して年率に引き直してください。
2 その水準と、直近の営業利益率とを比較してください。
3 契約書における買戻し又は償還の事由の範囲を確認してください。
4 主要な売掛先との取引額と、その事業に占める比重を確認してください。
5 譲渡することのできる売掛債権の残量を確認してください。
6 今後3箇月の資金繰りを、日単位で作成してください。
よくあるご質問
意思が弱いから循環に陥ったのでしょうか。
そうではありません。負担の水準と営業利益率との差によって構造的に生じるものです。意思によってこれを止めることは困難ですので、資金繰りの構造そのものを見直すこととなります。
何から手を付けるべきでしょうか。
まず資金の流出を止めることです。取引を重ねる限り、負担は累積します。
取引の性質を争うことを先にすべきではありませんか。
現に取引が継続している場合には、争う姿勢を示すことにより通知が送付され、取引関係が失われることがあります。順序の判断が結果を左右します。
業者は取引先への通知を本当に送りますか。
契約に定められた要件を満たす場合には、送付することができます。他方で、取引関係が維持され将来の売掛債権から回収がされる方が有利である場合には、留保されることがあります。
契約の際に説明を受けていませんでした。
説明がなかったことのみによって契約の効力が否定されるものではありません。もっとも、重要な事項について事実と異なる説明を受けた場合には、取消しが問題となります(民法第96条第1項)。
どの段階で相談すべきでしょうか。
次回の支払期日を履行することができるかどうかが不確かとなった時点で御相談ください。売掛先への通知がされる前の段階が、最も選択肢の広い局面です。
おわりに
ファクタリングをめぐる問題は、負担の累積、危険の所在、売掛先との関係、情報の非対称という4つの論点の連鎖として生じます。個別の論点に対応するのではなく、連鎖の順序に沿って対応することが必要です。
まず資金の流出を止め、契約の内容を精査し、売掛先との取引関係を守りながら支払の方法を協議する。この順序が、結果として最も早い解決につながります。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
ファクタリングの問題の全体像に関する御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)
出典
- 民法第96条第1項、第467条第1項
- 貸金業法第2条第1項
- 利息制限法第1条
- 出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律第5条
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