売掛金の早期の資金化 手続の流れ、必要となる資料及び各段階で確認すべき事項

図表を示すスーツ姿の男性

売掛金を支払期日の前に資金化したいという御相談に際し、手続がどのように進むのか、どのような資料が必要となるのか、資金を受領するまでにどの程度の期間を要するのかという御質問をいただきます。

本ページでは、売掛債権の譲渡による資金化の手続の流れを、申込みから資金の受領、その後の引渡しまで順を追って整理します。あわせて、各段階において確認すべき事項と、後に紛争となりやすい点を述べます。個別の事案における結果を保証するものではありません。

資金化の仕組み

売掛債権の譲渡による資金化は、事業者が有する売掛債権を譲受人へ譲渡し、支払期日の前に対価を受領するものです。法律上の性質は、指名債権の売買です(民法第555条)。

債権の譲渡は、譲渡人と譲受人との間の合意によって効力を生じます。もっとも、譲渡人が債務者に対して譲渡の通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができないものとされています(民法第467条第1項)。

2社間の取引においては、通知をしないことが前提とされます。この場合、売掛先は譲渡人に対して支払をしますので、譲渡人が受領した資金を譲受人へ引き渡すこととなります。3社間の取引においては、通知又は承諾を得たうえで、譲受人が売掛先から直接に支払を受けます。

ファクタリングは売掛債権の売買であり、金銭の貸付けではありませんので、貸金業法、利息制限法及び出資法の適用はありません。したがって、手数料の水準が高いことのみを理由として、これらの法令に違反するということにはなりません。もっとも、売買の形式が採られていても、その実質において金銭の貸付けと同視すべきであると判断された下級審裁判例がありますので、契約の内容及び運用の実態によっては、別途の検討を要します。

手続の流れ

第1段階 申込み及び事前の照会

譲渡を希望する売掛債権の内容、金額、支払期日を伝え、取引の可否及び手数料の目安について回答を受けます。この段階で示される手数料は、確定的なものではないことが一般です。

第2段階 資料の提出

譲渡人及び売掛債権に関する資料の提出を求められます。提出する資料の内容は、後に紛争となった場合の中心的な証拠となりますので、控えを必ず保管してください。

第3段階 審査

提出された資料に基づき、取引の可否及び条件が判断されます。売掛先に対する照会が行われる場合と、行われない場合があります。2社間の取引においては、照会が行われないことが一般です。

第4段階 条件の提示

譲渡の対価、控除される金額、引渡しの期日が示されます。実際に受領することのできる金額を、書面により確認してください。

第5段階 契約の締結

債権譲渡契約書に署名押印します。あわせて、債権譲渡の通知書への署名押印、債権譲渡登記に関する委任状の作成、代表者個人の連帯保証、担保の差入れを求められることがあります。

第6段階 資金の受領

指定した口座に振り込まれます。契約書に記載された金額と、実際に入金された金額が一致するかどうかを確認してください。

第7段階 売掛先からの回収及び引渡し

2社間の取引においては、売掛先から入金があった後、定められた期日までに譲受人へ引き渡します。分別して管理すべき旨が定められている場合には、他の資金と混同しないよう管理してください。

必要となる資料

譲渡人に関する資料 履歴事項全部証明書、印鑑証明書、代表者の本人確認書類、直近の決算書類、納税証明書
売掛債権に関する資料 請求書、注文書、発注書、契約書、検収書、納品書
取引の実績に関する資料 通帳の写し(当該売掛先からの入金の履歴が分かる部分)
その他 他の業者との取引の有無に関する申告、債権譲渡登記の有無が分かる資料

提出する資料の内容は、事実に即したものでなければなりません。実在しない債権に関する資料を作成し、又は金額を過大に記載した資料を提出した場合には、詐欺罪(刑法第246条第1項)、私文書偽造罪及び同行使罪(同法第159条第1項、第161条第1項)の成否が問題となります。

資金化までに要する期間

期間は、資料の準備の状況及び審査の内容によって異なります。資料がそろっている場合には、申込みから資金の受領まで数日程度とされることがあります。もっとも、期間の短さは、その分だけ審査が簡略であることを意味しますので、手数料の水準に反映されます。

3社間の取引においては、売掛先の承諾を得る過程が加わりますので、期間は長くなります。他方で、手数料の水準は相対的に低くなります。

期間を優先するか、水準を優先するかは、資金繰りの状況によって判断することとなります。もっとも、期間を優先して高い水準の取引を反復しますと、負担が累積し、資金繰りはかえって悪化します。

資料の準備に要する期間と手順

第1に、履歴事項全部証明書及び印鑑証明書です。法務局において取得します。オンラインによる請求も可能です。取得から数日を要することがありますので、あらかじめ取得しておくことが望まれます。

第2に、納税証明書です。税務署において取得します。滞納がある場合には、その事実を隠さずに説明し、納税の猶予の申請の状況を併せて示してください。

第3に、決算書類です。直近の決算書類を用意します。複数の決算書類が存在する場合には、税務署へ提出したものを用いてください。

第4に、売掛債権に関する資料です。請求書、注文書、契約書、検収書、納品書を整理します。過去に同一の売掛先からの入金の実績がある場合には、通帳の該当部分を併せて用意します。

第5に、通帳です。当該売掛先からの入金の履歴が分かる部分を用意します。加工した写しを提出しますと、刑事上の責任が問題となり得ます。

資金化までの期間の実際

第1に、資料がそろっており、過去に同一の売掛先からの入金の実績がある場合には、申込みから資金の受領まで短期間で完了することがあります。

第2に、初回の取引においては、譲渡人及び売掛先の確認に時間を要します。

第3に、債権譲渡登記を行う場合には、登記の申請に要する期間が加わります。

第4に、3社間の取引においては、売掛先の承諾を得る過程が加わりますので、期間は長くなります。

第5に、期間の短さは、その分だけ審査が簡略であることを意味しますので、手数料の水準に反映されます。期間を優先するか、水準を優先するかは、資金繰りの状況によって判断することとなります。

複数の業者から見積りを取得する場合

第1に、同一の条件で比較してください。譲渡する債権、金額、期間を同一とし、実際に受領することのできる金額を比較します。

第2に、控除の内訳を確認してください。手数料の割合が低くても、他の名目による控除が加算されることがあります。

第3に、買戻し又は償還の事由の範囲を比較してください。水準が低い取引であっても、危険が譲渡人に残る仕組みである場合には、実質的な負担が大きくなります。

第4に、債権譲渡登記の要否を確認してください。登記がされますと、他の資金調達手段の利用が困難となります。

第5に、連帯保証及び担保の要否を確認してください。

第6に、同一の債権について複数の業者に申込みをしないでください。いずれの業者とも契約に至った場合には、二重譲渡となります。

取引を終了する際の手続

第1に、残額の精算です。業者から交付された計算書と、御自身の記録とを照合し、残額を確定してください。

第2に、清算の確認です。合意した金額を支払った場合には、残余の債務が存在しない旨を書面により確認してください。

第3に、債権譲渡登記の抹消です。譲受人の協力を求めてください。契約書において、完済の場合に抹消に協力する旨が定められているかどうかを確認します。

第4に、通知書の返還です。署名押印して交付した通知書の全部について返還を求めてください。

第5に、担保及び保証の解除です。連帯保証、不動産の担保、株式の担保、手形の差入れがある場合には、その解除及び返還を求めてください。

本ページの位置付け

本ページは、売掛金の早期の資金化を検討している事業者の方に向けて、手続の流れ、必要となる資料及び各段階で確認すべき事項を整理したものです。

手続そのものは簡明ですが、条件の確認を欠いたまま契約を締結し、これを反復しますと、負担が累積し、資金繰りはかえって悪化します。

実際に受領することのできる金額、控除の内訳、買戻しに関する条項、通知が送付される要件を、契約の前に書面により確認してください。

各段階において確認すべき事項

1 条件の提示の段階で、実際に受領することのできる金額を書面により確認してください。控除される金額の名目と内訳を確認してください。

2 契約の締結の段階で、買戻し、償還請求、期限の利益の喪失、損害金及び違約金に関する条項を確認してください。

3 債権譲渡の通知書への署名押印を求められた場合には、通知が送付される要件を確認してください。

4 債権譲渡登記に関する委任状を作成する場合には、登記の対象となる債権の範囲を確認してください。

5 連帯保証又は担保の差入れを求められた場合には、その範囲と期間を確認してください。

6 契約書の控えの交付を受け、保管してください。

7 資金の受領の段階で、契約書に記載された金額と実際の入金額が一致するかどうかを確認してください。

後に紛争となりやすい点

第1に、実際に受領した金額が、事前に示された金額より少ない場合です。控除の名目と内訳を、契約の前に書面により確認しておく必要があります。

第2に、引渡しの期日を誤解していた場合です。売掛先からの入金の日と、譲受人への引渡しの期日が一致しないことがあります。

第3に、譲渡した債権について、売掛先から相殺の主張がされた場合です。売掛先が譲渡人に対して反対債権を有する場合には、通知の到達までに取得した反対債権をもって相殺することができます(民法第469条第1項)。

第4に、同一の債権を重ねて譲渡してしまった場合です。譲渡した債権の一覧を作成し、常に最新の状態に保つ必要があります。

第5に、取引が反復し、負担が累積した場合です。1回ごとの負担ではなく、一定の期間における負担の合計を把握してください。

よくあるご質問

売掛先の承諾を得ずに譲渡することはできますか。

譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示がされていても、譲渡の効力は妨げられません(民法第466条第2項)。もっとも、譲受人が当該意思表示について悪意又は重大な過失である場合には、債務者は履行を拒むことができます(同条第3項)。

資金化までにどの程度の期間を要しますか。

資料の準備の状況及び審査の内容によって異なります。期間が短い取引は、その分だけ手数料の水準が高くなります。

手数料のほかに費用はかかりますか。

保証金、事務手数料、調査費用、登記費用、振込手数料等の名目で控除がされることがあります。名目と内訳を、契約の前に確認してください。

売掛先が支払をしなかった場合、どうなりますか。

契約の定めによります。買戻しの義務又は償還の義務が定められている場合には、譲渡人が負担することとなります。

1回だけ利用して終わりにすることはできますか。

契約上は可能です。もっとも、資金繰りの原因が解消されていない場合には、次の期日に同じ問題が生じます。1回の利用によって資金繰りが改善するかどうかを、あらかじめ検討してください。

まだ請求書を発行していない取引について譲渡することはできますか。

将来発生する債権を譲渡することは可能です(民法第466条の6第1項)。もっとも、発生していない取引について請求書を作成して提出することは、事実と異なる資料の提出となります。行わないでください。

おわりに

売掛債権の譲渡による資金化は、手続そのものは簡明です。もっとも、条件の確認を欠いたまま契約を締結し、これを反復しますと、負担が累積し、資金繰りはかえって悪化します。

実際に受領することのできる金額、控除の内訳、買戻しに関する条項、通知が送付される要件を、契約の前に書面により確認してください。既に取引を重ねている場合には、早い段階で全体を把握することが必要です。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

売掛金の資金化に関する御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)

出典

  • 民法第466条第2項及び第3項、第466条の6第1項、第467条第1項、第469条第1項、第555条
  • 刑法第159条第1項、第161条第1項、第246条第1項
  • 貸金業法第2条第1項
  • 利息制限法第1条
  • 出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律第5条

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