ファクタリング契約書において確認すべき条項 条項ごとの意味と留意点

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ファクタリングの検討は、取引の仕組みと負担の構造を理解する場面と、個別の業者及び契約の内容を見極める場面とに分かれますので、次のとおり切り分けます。本ページは、契約書の条項ごとの意味と留意点を扱います。
▶ ファクタリングの問題点 負担の水準、契約の内容及び運用の実態から見た留意事項
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ファクタリングの契約書について、どの条項を確認すべきかというご質問をいただきます。契約の締結の場では、資金の受領を急ぐあまり、条項の内容を確認しないまま署名押印がされることが少なくありません。もっとも、後に紛争となった場合には、契約書の条項が判断の出発点となります。
本ページでは、債権譲渡契約書において特に確認すべき条項を、条項ごとにその意味と留意点を述べる形で整理します。あわせて、契約の締結の場で求められる付随的な書面についても述べます。個別の事案における結果を保証するものではありません。
契約書の基本的な構造
ファクタリングの契約は、基本契約書と個別契約書に分かれていることが一般です。基本契約書において、当事者間の一般的な権利義務が定められ、個別契約書において、譲渡の対象となる債権、譲渡の対価、引渡しの期日が特定されます。
紛争となった場合に問題となるのは、多くの場合に基本契約書の条項です。個別契約書のみを確認して署名押印しますと、基本契約書に定められた負担を看過することとなります。
また、契約書の控えの交付を受けているかどうかを確認してください。控えがない場合には、後に条項の内容を確認することができません。交付を受けていない場合には、その旨を記録したうえで、写しの交付を求めてください。
譲渡の対象及び対価に関する条項
譲渡の対象となる債権が、売掛先の名称、金額、支払期日により具体的に特定されているかどうかを確認してください。特定が不十分である場合には、後に譲渡の範囲が争われます。
譲渡の対価については、額面の金額、控除される金額、及び実際に交付される金額が明記されているかどうかを確認してください。控除については、手数料のほか、保証金、事務手数料、調査費用、登記費用、振込手数料等の名目によるものがあります。名目と金額が明記されていない場合には、実際に受領した金額との差異が生じます。
また、保証金として控除された金額が、後に返還されるものであるかどうかを確認してください。返還の要件及び時期が定められていない場合には、事実上返還されないことがあります。
表明及び保証に関する条項
譲渡人が、譲渡する債権について一定の事実を表明し、保証する条項です。一般に、次の事項が対象とされます。
- 譲渡する債権が実在すること
- 金額に誤りがないこと
- 他に譲渡しておらず、担保に供していないこと
- 譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示がないこと
- 売掛先が反対債権を有していないこと
- 提出した資料の内容が事実に即していること
これらに反した場合には、契約の解除、債権買取代金の返還、損害の賠償が問題となります。また、事実と異なることを知りながら表明した場合には、詐欺罪(刑法第246条第1項)の成否が問題となります。
したがって、この条項は、単なる形式的な確認ではありません。署名押印の前に、記載された事項が事実に即しているかどうかを確認してください。
買戻し及び償還請求に関する条項
売掛先が支払をしない場合に、譲渡人が譲渡した債権を買い戻す義務、又は譲受人に対して償還する義務を定めるものです。
確認すべきは、買戻し又は償還の事由の範囲です。事由が、債権の不存在、金額の相違、譲渡を制限する意思表示の存在といった、譲渡人の責めに帰すべき事由に限定されている場合と、売掛先の支払能力の欠如を含む場合とでは、譲渡人が負う危険の大きさが根本的に異なります。
後者の場合には、実質において、譲渡人が回収の責任を負うこととなります。この点は、取引の性質が争われる場合において、最も重視される要素です。
また、買戻しの価格が、譲渡の対価に一定の金額を加算したものとされていることがあります。加算の算定の方法を確認してください。
回収金の管理に関する条項
2社間の取引においては、譲渡人が売掛先から回収した資金を譲受人へ引き渡すこととなります。この場合、回収した資金を分別して管理する義務が定められていることが一般です。
この義務が定められている場合において、回収した資金を他の支払に充てたときは、横領罪(刑法第252条第1項)又は業務上横領罪(同法第253条)の成否が問題となります。単なる債務不履行にとどまらない可能性がありますので、条項の有無を必ず確認してください。
また、引渡しの期日が、売掛先からの入金の日と一致しない場合があります。入金の当日中とされている場合と、一定の期日とされている場合とでは、管理の方法が異なります。
期限の利益の喪失、損害金及び違約金に関する条項
期限の利益の喪失に関する条項は、一定の事由が生じた場合に、直ちに全額の支払を求めることができる旨を定めるものです。事由の範囲を確認してください。1回の遅滞で全額の請求を受けることとなる例があります。
損害金については、遅滞した期間に応じて加算される割合を確認してください。ファクタリングは売掛債権の売買であり、金銭の貸付けではありませんので、貸金業法、利息制限法及び出資法の適用はありません。したがって、損害金の水準についても法令上の上限はありません。もっとも、売買の形式が採られていても、その実質において金銭の貸付けと同視すべきであると判断された下級審裁判例がありますので、契約の内容及び運用の実態によっては、別途の検討を要します。
違約金については、一定の事由が生じた場合に定額で加算されるものです。金額と事由を確認してください。
付随して求められる書面
| 債権譲渡の通知書 | 譲渡人の名義による通知書に署名押印を求められ、譲受人が保管する取扱いが広く行われています。送付される要件が契約書に定められているかどうかを確認してください。 |
| 債権譲渡登記に関する委任状 | 登記の対象となる債権の範囲と、登記の申請がされる要件を確認してください。 |
| 連帯保証に関する書面 | 保証の意思表示は書面によらなければ効力を生じません(民法第446条第2項)。保証の範囲と期間を確認してください。 |
| 担保の差入れに関する書面 | 不動産、株式、手形の差入れを求められることがあります。事業と個人の責任が結び付きますので、慎重な検討を要します。 |
| 公正証書の作成に関する委任状 | 強制執行を受諾する旨の記載のある公正証書が作成されますと、判決を得ることなく強制執行を受ける状態となります(民事執行法第22条第5号)。 |
条項ごとの点検表
| 条項 | 確認する内容 |
| 譲渡の対象 | 売掛先の名称、債権の発生原因、金額、支払期日により特定されているか |
| 譲渡の対価 | 額面、控除される金額の名目と内訳、実際に交付される金額が明記されているか |
| 表明及び保証 | 対象となる事項の範囲。事実に即しているかどうかを署名の前に確認したか |
| 買戻し及び償還 | 事由の範囲。売掛先の支払能力の欠如が含まれているか。価格の算定の方法 |
| 回収金の管理 | 分別管理の義務の有無。引渡しの期日 |
| 債権譲渡の通知 | 送付の要件。事前の通告の有無。通知書の預託の有無 |
| 債権譲渡登記 | 登記の対象となる債権の範囲。抹消への協力に関する定め |
| 期限の利益の喪失 | 事由の範囲。1回の遅滞で全額の請求を受けることとなるか |
| 損害金及び違約金 | 利率、起算日、算定の方法。違約金の金額と事由 |
| 連帯保証及び担保 | 範囲、期間、実行の要件 |
| 契約の解除 | 事由の範囲。解除の効果 |
| 合意管轄 | 訴訟が提起される裁判所。遠隔地が指定されている場合の負担 |
条項の解釈をめぐって争いとなりやすい点
第1に、買戻しの事由の範囲です。「譲渡債権が回収不能となったとき」という文言が、売掛先の支払能力の欠如を含むかどうかが争われます。
第2に、控除の性質です。保証金として控除された金額が、返還されるべきものであるかどうかが争われます。返還の要件及び時期が定められていない場合には、争いとなります。
第3に、引渡しの期日です。売掛先からの入金の日と、譲受人への引渡しの期日が一致しない場合において、いずれを基準とするかが争われます。
第4に、期限の利益の喪失の事由です。「譲渡人の信用状態が悪化したとき」といった抽象的な文言について、その該当性が争われます。
第5に、通知の送付の要件です。抽象的な文言による場合には、送付の適否が争われます。
契約書を確認する時機
第1に、締結の前です。最も望ましい時機です。実際に受領することのできる金額と、負担する義務の範囲を確認したうえで判断してください。
第2に、締結の直後です。条項の内容を把握しておくことにより、その後の運用における問題を早期に発見することができます。
第3に、遅滞が生じる見込みとなった時点です。期限の利益の喪失の事由、損害金の水準、通知の送付の要件を確認することにより、業者の側の採り得る手段を予測することができます。
第4に、請求を受けた時点です。請求されている金額の根拠を、条項に照らして確認します。
第5に、取引を終了した時点です。債権譲渡登記の抹消、通知書の返還、担保の解除について、条項に基づいて求めます。
契約書の写しを保管する方法
第1に、業者ごとに区分して保管してください。基本契約書、個別契約書、覚書、合意書を、日付順に整理します。
第2に、電磁的記録により交付された場合には、ご自身の側でも保存してください。事業者の側の閲覧の仕組みに依存しますと、後に確認することができなくなることがあります。
第3に、署名押印して交付した付随的な書面についても、写しを保管してください。債権譲渡の通知書、委任状、連帯保証に関する書面が対象となります。
第4に、保管の期間は、取引が終了してから少なくとも10年としてください。消滅時効の期間との関係で必要となります。
第5に、担当者が交代する場合には、引継ぎを確実に行ってください。
いま確認していただきたいこと
1 基本契約書及び個別契約書の控えの交付を受けているかどうかを確認してください。
2 買戻し又は償還の事由の範囲を確認してください。
3 回収金の分別管理の義務の有無を確認してください。
4 期限の利益の喪失の事由、損害金の割合、違約金の金額を確認してください。
5 控除される金額の名目と内訳を確認してください。
6 署名押印した付随的な書面の一覧を作成してください。
7 連帯保証及び担保の範囲と期間を確認してください。
よくあるご質問
契約書の控えを交付されていません。
写しの交付を求めてください。交付を受けていない事実を記録しておくことも重要です。
署名押印を急がされ、内容を確認する時間がありませんでした。
その経緯を示す資料があれば保全してください。もっとも、確認の機会がなかったことのみによって契約の効力が否定されるものではありません。
買戻しの条項があるのは通常のことですか。
置かれていることは少なくありません。もっとも、事由の範囲によって、譲渡人が負う危険の大きさが根本的に異なります。
通知書に署名押印してしまいました。撤回できますか。
既に交付した書面の返還を求めることは可能ですが、応じるかどうかは業者の判断によります。送付される要件を確認したうえで、対応を検討することとなります。
公正証書の作成に関する委任状を求められています。
強制執行を受諾する旨の記載のある公正証書が作成されますと、判決を得ることなく強制執行を受ける状態となります。署名の前にご相談ください。
契約書の条項が不当であると主張することはできますか。
負担の水準、契約の内容及び締結の経緯を総合して、公の秩序又は善良の風俗に反するものとして無効とされる余地があります(民法第90条)。もっとも、これが認められるためには、相当に強度の事情を要します。
おわりに
契約書の条項は、紛争となった場合の判断の出発点となります。特に、買戻し又は償還の事由の範囲、回収金の分別管理の義務の有無、期限の利益の喪失の事由は、後の結果を大きく左右します。
既に締結している場合においても、条項を確認することにより、現在の立場を正確に把握することができます。契約書をご持参のうえ、ご相談ください。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
ファクタリング契約書の内容に関するご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)
出典
- 民法第90条、第446条第2項、第540条、第545条
- 刑法第246条第1項、第252条第1項、第253条
- 民事執行法第22条第5号
- 貸金業法第2条第1項
- 利息制限法第1条
- 出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律第5条
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