資金繰りが急激に悪化した局面でファクタリングを利用する前に!検討すべき事項と留意事項

両腕で否定の姿勢を示すスーツ姿の男性

本記事は、景気の変動、災害、感染症の流行、主要な取引先の経営の悪化といった外部の事情により資金繰りが急激に悪化し、ファクタリングの利用を考えている事業者の方に向けたものです。

この局面では、資金繰りの悪化がいつまで続くかの見通しを立て、その期間に必要な資金の総額を算出し、公的な支援の制度や金融機関からの借入れ、取引先との協議を検討したうえで、なお不足する金額を確定することが先決です。この作業を経ずに利用しますと、必要以上の金額を譲渡し、負担が過大となります。以下、順にご説明します。

景気の変動、災害、感染症の流行、主要な取引先の経営の悪化といった外部の事情により、資金繰りが急激に悪化することがあります。このような局面においては、ファクタリングに関するご相談が増加します。

本ページでは、急激な資金繰りの悪化に直面した場合に、ファクタリングを利用する前に検討すべき事項、利用する場合の留意事項、及び既に利用している場合の対応を整理します。個別の事案における結果を保証するものではありません。

この局面において生じやすい判断の誤り

第1に、期間の見通しを立てないまま利用することです。外部の事情による資金繰りの悪化は、その事情がいつまで続くかによって、必要となる資金の総額が大きく異なります。1箇月で回復する場合と、6箇月を要する場合とでは、対応が根本的に異なります。

第2に、負担の水準を年率に引き直さないことです。額面の10パーセントの手数料で期間が1箇月である場合、年率に引き直した負担は約133パーセントに相当します。回復までに6箇月を要する場合には、この負担が6回累積します。

第3に、公的な支援の制度を検討しないことです。災害、感染症の流行等の局面においては、政府系金融機関の融資、信用保証協会の保証、給付金、猶予の制度が設けられることがあります。手続に時間を要しますが、負担の水準は大きく異なります。

第4に、支払の優先順位を定めないことです。人件費、仕入代金、公租公課、賃料、借入金の返済の優先順位を定めないまま、当面の資金を確保することを優先しますと、後により重い問題が生じます。

第5に、取引先との協議を行わないことです。支払条件の変更、支払の猶予について協議することにより、必要となる資金が減少することがあります。

ファクタリングを利用する前に検討すべき事項

1 資金繰りの悪化がいつまで続くと見込まれるかを、具体的な根拠とともに整理してください。

2 その期間に必要となる資金の総額を算出してください。

3 公的な支援の制度、金融機関からの借入れ、既存の借入れの条件の変更の可否を確認してください。

4 取引先との間で、支払条件の変更について協議することができるかどうかを確認してください。

5 支出のうち、延期し、又は削減することのできるものを確認してください。

6 以上を経てなお不足する金額を確定してください。

この作業を経ずにファクタリングを利用しますと、必要以上の金額を譲渡し、負担が過大となります。

利用する場合の留意事項

第1に、1回で終了することができるかどうかを確認してください。取引が反復することが事実上求められる場合には、負担が累積します。

第2に、実際に受領することのできる金額を、契約の締結の前に書面により確認してください。手数料のほか、保証金、事務手数料等の名目による控除がされることがあります。

第3に、買戻し又は償還の事由の範囲を確認してください。売掛先の支払能力の欠如を事由とする場合には、危険が譲渡人に残ることとなります。

第4に、債権譲渡の通知が送付される要件を確認してください。この局面においては、売掛先も同様に資金繰りが悪化していることがあり、通知が取引関係に及ぼす影響は平時より大きくなります。

第5に、譲渡の対象とする債権を慎重に選定してください。主要な売掛先に対する債権を譲渡しますと、通知が送付された場合の影響が大きくなります。

法令の適用に関する前提

ファクタリングは売掛債権の売買であり、金銭の貸付けではありませんので、貸金業法、利息制限法及び出資法の適用はありません。したがって、手数料の水準が高いことのみを理由として、これらの法令に違反するということにはなりません。もっとも、売買の形式が採られていても、その実質において金銭の貸付けと同視すべきであると判断された下級審裁判例がありますので、契約の内容及び運用の実態によっては、別途の検討を要します。

したがって、資金繰りが逼迫していたことを理由として、既に成立した取引の効力を否定することはできません。契約の締結の前の確認が、唯一の予防となります。

既に利用している場合の対応

第1に、資金の流出を止めることです。取引を重ねる限り、負担は累積します。

第2に、公的な支援の制度、金融機関からの借入れの可否を、改めて確認することです。手続に時間を要しますので、早い段階で着手する必要があります。

第3に、業者との間で支払の方法について協議することです。資金繰りの見込みに基づいて、履行することのできる内容を書面により提示します。

第4に、取引先との間で支払条件の変更について協議することです。外部の事情による資金繰りの悪化は、取引先も同様に経験していることがありますので、協議の余地があります。

第5に、事業の継続の可否を判断することです。外部の事情が回復した場合に収益力が戻るのであれば、負担の整理により事業を継続することができる可能性があります。

回復までの期間の見積り方

第1に、資金繰りの悪化の原因を特定します。売上高の減少によるものか、入金の遅れによるものか、支出の増加によるものかによって、回復の見込みが異なります。

第2に、原因が解消される時期を推定します。外部の事情による場合には、ご自身の努力によって時期を早めることが困難ですので、余裕を持って見込む必要があります。

第3に、回復の過程を段階に分けます。原因が解消された時点から、受注が回復し、施工又は納品が完了し、代金が入金されるまでには、更に時間を要します。

第4に、各段階における資金の過不足を算出します。回復の局面においては、受注の増加に伴って先行する支出が増加しますので、かえって資金が不足することがあります。

第5に、必要となる資金の総額を確定します。楽観的な見込みを前提としますと、必要となる資金を過小に見積もることとなります。

この局面において生じやすい誤りとその回避

第1に、当面の期日を越えることのみを目的として資金を調達することです。回復までの期間の全体を見通さないまま調達を重ねますと、負担が累積します。

第2に、公的な支援の制度を検討しないことです。手続に時間を要しますが、負担の水準は大きく異なります。当面の資金を確保しつつ、並行して手続を進めることが有効です。

第3に、取引先との協議を行わないことです。外部の事情による資金繰りの悪化は、取引先も同様に経験していることがありますので、協議の余地があります。

第4に、支払の優先順位を定めないことです。人件費、仕入代金、公租公課の遅滞が生じますと、事業そのものが維持できなくなります。

第5に、従業員及び取引先に対する説明を怠ることです。情報が伝わらない状態が続きますと、憶測により信用が損なわれます。

回復した後に確認すべき事項

第1に、負担の総額です。この局面において生じた負担の合計を算出し、回復後の収益によって回収することができるかどうかを検討してください。

第2に、譲渡した売掛債権の残量です。将来発生する債権を含めて譲渡している場合には、回復後の入金が既に譲受人に帰属していることがあります。

第3に、債権譲渡登記の状況です。取引が終了した場合には、抹消への協力を求めてください。

第4に、連帯保証及び担保の状況です。債務が消滅した場合には、解除を求めてください。

第5に、資金繰りの構造です。同種の事情が再び生じた場合に備え、売掛金の回収の期間の短縮、支払の期間の延長、手元資金の確保について検討してください。

従業員及び取引先に対する説明

第1に、従業員に対しては、資金繰りの状況と対応の方針を、時期を見て説明することが望まれます。給与の支払に不安が生じますと、離職が生じ、事業の継続そのものが困難となります。他方で、確定していない見込みを述べることは避けてください。

第2に、仕入先に対しては、支払の猶予を求める場合に、事業の継続の見込みと、支払の予定を具体的に示す必要があります。示すことができない場合には、取引そのものを停止されることがあります。

第3に、売掛先に対しては、納品又は役務の提供に支障が生じないことを示すことが最も重要です。資金繰りの事情を説明する必要はありませんが、債権譲渡の通知が送付された場合には、事実を伏せずに説明することとなります。

第4に、金融機関に対しては、決算の内容及び資金繰りの見込みを、資料とともに説明してください。事後の報告は信用を損ないます。

第5に、いずれについても、説明の内容を統一してください。相手方により異なる説明をしますと、後に食い違いが判明した場合に信用を失います。

本ページの位置付け

本ページは、外部の事情により資金繰りが急激に悪化した事業者の方に向けて、ファクタリングの利用を検討する際の留意事項を整理したものです。

回復に要する期間と必要となる資金の総額を見積もることが出発点となります。この作業を経ずに当面の資金を確保することを優先しますと、負担が累積し、回復した時点で事業が維持できなくなります。

既に負担が累積している場合には、まず資金の流出を止めてください。

いま確認していただきたいこと

1 資金繰りの悪化の原因と、回復の見込みの時期を整理してください。

2 今後6箇月の資金繰りを、日単位で作成してください。

3 業者ごとの残額、支払期日、担保の有無及び通知の有無を一覧にしてください。

4 直近1年間の負担の合計を算出し、同じ期間の営業利益と比較してください。

5 公的な支援の制度、金融機関からの借入れの可否を確認してください。

6 主要な売掛先との取引が継続しているかどうかを確認してください。

よくあるご質問

公的な支援の制度は、手続に時間がかかります。

そのとおりです。もっとも、負担の水準が大きく異なりますので、並行して手続を進めることが有効です。当面の資金をファクタリングにより確保しつつ、公的な支援の手続を進めるという方法もあります。

どの程度の期間を見込むべきでしょうか。

楽観的な見込みを前提としますと、必要となる資金を過小に見積もることとなります。回復に要する期間は、余裕を持って見込んでください。

取引先に支払の猶予を求めてもよいでしょうか。

外部の事情による場合には、協議の余地があります。もっとも、信用に影響しますので、説明の方法をあらかじめ整理する必要があります。

既に複数の業者と取引しています。

資金の流れの全体を把握したうえで、対応の順序を定める必要があります。直ちにご相談ください。

事業を続けることはできますか。

外部の事情が回復した場合に収益力が戻るのであれば、可能性があります。決算書類と資金繰りの見込みをご持参ください。

どの段階で相談すべきでしょうか。

次の譲渡を行わなければ当月の支払をすることができないという状態に至った時点でご相談ください。

おわりに

外部の事情により資金繰りが急激に悪化した局面においては、回復に要する期間と必要となる資金の総額を見積もることが出発点となります。この作業を経ずに当面の資金を確保することを優先しますと、負担が累積し、回復した時点で事業が維持できなくなります。

公的な支援の制度、金融機関からの借入れ、取引先との協議を並行して進めることが有効です。既に負担が累積している場合には、まず資金の流出を止めてください。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

急激な資金繰りの悪化に関するご相談
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ご留意事項

本ページの記載は、資金繰りの急激な悪化に関する一般的な法制度及び当事務所の取扱いの説明であり、個別の事案について一定の結果を保証するものではありません。見通し、要する期間、回収し又は負担する金額その他の帰結は、事案ごとの事実関係及び資料によって異なります。

また、課税関係につきましては税理士の職域ですので、当事務所において判断することはいたしません。税務上の取扱いについては、顧問税理士にご確認ください。

法令の改正、裁判例の集積により内容が変わる場合には、記載を改めます。実際のご依頼に際しましては、必ず個別にご相談ください。ご相談の内容は、弁護士法上の守秘義務に基づき秘密を厳守いたします。

出典

  • 民法第467条第1項
  • 貸金業法第2条第1項
  • 利息制限法第1条
  • 出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律第5条

執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件に関与し、平成23年には最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得ております。現在は弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士を務めております。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

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本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。