支払った手数料の返還を求めるには?資料の収集から請求までの作業の順序

この記事の位置付け
手数料をめぐる検討は、負担の水準を把握する場面と、返還を求める法律構成を組み立てる場面とに分かれますので、次のとおり切り分けます。本ページは、資料の収集から請求までの作業の順序を扱います。
▶ ファクタリングの手数料と過払金の返還請求 適用される法令と争う場合に必要となる主張
同じ主題を扱う関連ページ
ファクタリング業者へ支払った手数料が過大ではないかと考え、返還を求められないかを検討し始めた。ところが、契約書の控えが手元になく、通帳も一部が見当たらず、何から集めればよいのか分からない。
本記事は、ファクタリング業者に支払った金銭の返還を求めることを検討しており、そのための資料の収集と整理に取りかかろうとしている事業者の方に向けたものです。
返還を求めるには、取引が実質において金銭の貸付けであることを、契約の内容及び運用の実態に関する具体的な事実によって主張し、立証する必要があります。そのため、契約の資料、資金の授受の資料、運用の実態の資料を順に収集し、引直しの計算を経て請求に進みます。以下、作業の順序に沿ってご説明します。
ファクタリング業者に対して支払った金銭の返還を求めることを検討する場合、その前提として、取引の記録を収集し、資料を整理する作業が必要となります。この作業の質が、その後の交渉及び訴訟の結果を大きく左右します。
本ページでは、資料の収集から請求に至るまでの手順を、作業の順序に沿って整理します。あわせて、資料が不足している場合の補完の方法を述べます。個別の事案における結果を保証するものではありません。
前提となる法律上の枠組み
ファクタリングは売掛債権の売買であり、金銭の貸付けではありませんので、貸金業法、利息制限法及び出資法の適用はありません。したがって、手数料の水準が高いことのみを理由として、これらの法令に違反するということにはなりません。もっとも、売買の形式が採られていても、その実質において金銭の貸付けと同視すべきであると判断された下級審裁判例がありますので、契約の内容及び運用の実態によっては、別途の検討を要します。
したがって、返還を求める場合には、当該取引が実質において金銭の貸付けであることを、契約の内容及び運用の実態に関する具体的な事実によって主張し、立証する必要があります。この主張及び立証の基礎となるのが、以下に述べる資料です。
第1段階 契約に関する資料の収集
基本契約書、個別契約書、覚書、合意書の全部を、業者ごとに時系列で整理します。日付の記載がない書面については、締結の時期を推定することのできる資料を併せて保管してください。
控えの交付を受けていない場合には、業者に対して写しの交付を求めます。応じない場合には、その事実を記録してください。訴訟に至った場合には、文書提出命令の申立て(民事訴訟法第221条第1項)を検討することとなります。
あわせて、署名押印した付随的な書面の一覧を作成します。債権譲渡の通知書、債権譲渡登記に関する委任状、連帯保証に関する書面、担保の差入れに関する書面、公正証書の作成に関する委任状が対象となります。
第2段階 資金の授受に関する資料の収集
通帳又は取引明細により、債権買取代金の入金及び業者への送金の全部を書き出します。日付、金額、相手方の名義を一覧にします。
通帳を紛失している場合には、金融機関に対して取引明細の発行を求めることができます。もっとも、保存期間を経過している場合には取得することができませんので、早い段階で請求してください。
現金による授受がある場合には、領収書、受領書、又はその授受を示す記録を収集します。記録がない場合には、その旨を明らかにしたうえで整理します。
業者から交付された計算書、明細書がある場合には、これを併せて整理します。こちらの記録と照合し、差異がある場合にはその内容を確認します。
第3段階 運用の実態に関する資料の収集
業者の担当者との連絡の記録を保全します。電子メール、通信アプリケーションの履歴、着信の履歴、録音が対象となります。機種の変更、保存期間の経過により参照することができなくなることがありますので、画面の写しを保存してください。
契約に至る過程で提出を求められた資料の一覧を作成します。売掛先に関する資料の提出が求められなかった事実は、売掛先の信用の調査がされていないことを示す事情となります。
買戻しが求められた事実、事後に譲渡の対象が差し替えられた事実、次の取引が事実上求められた事実がある場合には、これを示す資料を収集します。
第4段階 引直しの計算
収集した資料に基づき、仮に実質において貸付けであると認められた場合に、利息制限法所定の上限による計算をした場合の残額を算出します。
計算に当たっては、実際に受領した金額を元本とし、業者へ送金した金額を弁済として充当します。手数料、保証金その他の名目による控除については、その性質を検討したうえで取り扱います。
この計算により、請求することのできる金額の見込みが立ちます。見込みが小さい場合には、費用との比較により、請求を見合わせる判断もあり得ます。
第5段階 請求
請求の書面には、請求の根拠となる事実と、請求する金額を明示します。抽象的に手数料が高額である旨を述べるにとどまる書面では、協議が進みません。
あわせて、業者に対して取引の明細の開示を求めます。開示された内容とこちらの記録とを照合し、差異がある場合にはその理由を確認します。
協議が調わない場合には、訴訟の提起を検討します。訴訟に至った場合には、業者の手元にある資料について、文書提出命令の申立てを検討することとなります。
資料が不足している場合の補完
第1に、金融機関に対する取引明細の発行の請求です。保存期間内であれば取得することができます。
第2に、債権譲渡登記に関する登記事項概要証明書の取得です。誰でも取得することができます。登記の存在及び時期を確認することができます。
第3に、業者の登記事項証明書の取得です。商号、所在地、代表者、設立の時期、解散の有無を確認することができます。
第4に、売掛先に対する確認です。もっとも、売掛先に対する確認は、取引関係に影響しますので、慎重な判断を要します。
第5に、訴訟における文書提出命令の申立てです。手元にある資料の範囲で主張の骨格を組み立てたうえで、業者の手元にある資料の提出を求めることとなります。
資料の整理の具体的な様式
取引の全体を復元するに当たっては、次の項目を列とする表を作成してください。取引ごとに1行とします。
| 項目 | 記載する内容 |
| 取引番号 | 業者ごとの通し番号 |
| 契約日 | 個別契約書の日付 |
| 売掛先 | 譲渡した債権の債務者 |
| 額面 | 譲渡した債権の金額 |
| 受領日 | 通帳に入金が記録された日 |
| 受領額 | 実際に入金された金額 |
| 控除の内訳 | 手数料、保証金、事務手数料等の名目ごとの金額 |
| 引渡期日 | 業者へ引き渡すこととされた日 |
| 送金日及び送金額 | 実際に業者へ送金した日と金額 |
| 備考 | 買戻しの請求、通知の送付、契約の変更等の事実 |
この表を作成しますと、取引の全体像が把握できるとともに、引直しの計算の基礎となります。また、業者から交付された計算書との照合が可能となります。
金融機関に対する取引明細の請求
第1に、対象となる口座と期間を特定します。債権買取代金の入金及び業者への送金に用いた口座の全部が対象となります。
第2に、金融機関の窓口において発行を請求します。本人確認書類、届出印が必要となることが一般です。法人の口座については、代表者であることを示す資料が必要となります。
第3に、保存期間を確認します。金融機関により異なりますが、10年程度とされていることが一般です。保存期間を経過している場合には取得することができませんので、早い段階で請求してください。
第4に、発行に要する期間及び費用を確認します。期間を要する場合がありますので、余裕を持って請求してください。
第5に、取得した明細と、ご自身の記録とを照合します。差異がある場合には、その理由を確認してください。
業者に対する開示の求め方
第1に、書面により求めてください。口頭による求めは、記録に残りません。
第2に、求める内容を具体的に特定してください。取引の明細、計算書、契約書の写しといった形で、対象を明示します。
第3に、期限を定めてください。応じない場合には、その事実そのものが、後の手続において主張の材料となります。
第4に、応じない場合の対応をあらかじめ検討してください。訴訟に至った場合には、文書提出命令の申立て(民事訴訟法第221条第1項)を検討することとなります。
第5に、開示された内容とご自身の記録とを照合し、差異がある場合にはその理由を確認してください。控除の名目が説明されていない場合には、その説明を求めることが協議の出発点となります。
請求の書面の記載事項
第1に、当事者の表示です。譲渡人及び譲受人の商号、所在地、代表者を記載します。
第2に、対象となる取引の特定です。契約の日付、個別契約書の番号、譲渡した債権の内容により特定します。
第3に、請求の根拠となる事実です。回収不能の危険の所在、売掛先の信用の調査の有無、担保及び保証の徴求の有無、譲渡の対象の特定の程度、資金の授受の態様を、具体的に記載します。
第4に、法律上の構成です。実質において金銭の貸付けであること、利息制限法所定の上限を超える部分が無効であること、不当利得としての返還を求めることを記載します。
第5に、請求する金額です。引直しの計算の結果を示し、算定の根拠を明らかにします。
第6に、回答の期限です。期限を定め、応じない場合には法的手続を採る旨を記載します。
作業の期間の見込み
第1に、契約に関する資料の収集には、業者の数にもよりますが、数日から数週間を要します。
第2に、金融機関に対する取引明細の発行の請求には、数日から数週間を要します。
第3に、引直しの計算には、取引の回数に応じた期間を要します。
第4に、請求の書面の作成及び送付には、数週間を要します。
第5に、協議が調わない場合の訴訟については、全体として1年から2年を要することがあります。
作業を外部に委託する場合
取引の記録の整理及び引直しの計算については、税理士その他の専門家に委託することができる場合があります。もっとも、法律上の主張の組立ては、弁護士の職域です。
また、資料の収集及び整理をご自身で行っていただくことにより、費用を抑えることができます。当事務所においては、いかなる資料をいかなる様式で整理していただくかを、具体的にご案内いたします。
いま確認していただきたいこと
1 業者ごとに、契約書及び付随的な書面の一覧を作成してください。
2 通帳又は取引明細により、資金の授受の全部を書き出してください。
3 業者から交付された計算書、明細書を整理してください。
4 業者の担当者との連絡の記録を保全してください。
5 最後の取引がいつであったかを確認してください。
6 業者が現に存続しているかどうかを、登記事項証明書により確認してください。
よくあるご質問
資料がほとんど残っていません。
金融機関に対する取引明細の発行の請求、登記事項概要証明書の取得により、一定の範囲で補完することができます。まずご相談ください。
契約書を交付されていません。
業者に対して写しの交付を求めてください。応じない場合には、その事実を記録してください。
現金でやり取りしていました。
領収書、受領書、又は授受を示す記録を収集してください。記録がない場合には、その旨を明らかにしたうえで整理します。
業者の計算書とこちらの記録が合いません。
差異の内容と理由を確認してください。控除の名目が説明されていない場合には、その説明を求めることが協議の出発点となります。
売掛先に確認してもよいでしょうか。
取引関係に影響しますので、慎重な判断を要します。確認の要否及び方法について、あらかじめご相談ください。
どの程度の期間を要しますか。
資料の収集の状況によって異なります。取引が終了してから期間が経過している場合には、資料の取得に時間を要します。
おわりに
支払った金銭の返還を求める場合には、資料の収集と整理が作業の中心となります。契約に関する資料、資金の授受に関する資料、運用の実態に関する資料の3つを収集し、引直しの計算により見込みを立てたうえで請求に進みます。
資料は時間の経過とともに失われます。特に、金融機関の取引明細及び通信の記録については、保存期間の経過により取得することができなくなりますので、早い段階でご相談ください。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
資料の収集及び返還請求に関するご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)
ご留意事項
本ページの記載は、支払った手数料の返還請求に関する一般的な法制度及び当事務所の取扱いの説明であり、個別の事案について一定の結果を保証するものではありません。見通し、要する期間、回収し又は負担する金額その他の帰結は、事案ごとの事実関係及び資料によって異なります。
また、課税関係につきましては税理士の職域ですので、当事務所において判断することはいたしません。税務上の取扱いについては、顧問税理士にご確認ください。
法令の改正、裁判例の集積により内容が変わる場合には、記載を改めます。実際のご依頼に際しましては、必ず個別にご相談ください。ご相談の内容は、弁護士法上の守秘義務に基づき秘密を厳守いたします。
出典
- 民法第166条第1項、第703条、第704条
- 民事訴訟法第221条第1項
- 利息制限法第1条
- 貸金業法第2条第1項
- 出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律第5条
具体的なご相談をお考えの皆様へ
本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページに整理しています。あわせてご覧ください。


