給与ファクタリングに関する最高裁判所の判断 判示の内容と事業者向けファクタリングとの区別

裁判所の石碑

この記事の位置付け

ファクタリングの適法性は、債権の売買として扱われる場面と、金銭の貸付けと判断される場面とに分かれますので、次のとおり切り分けます。本ページは、最高裁判所が給与の前払に当たる取引を貸付けと判断した内容を扱います。

▶ ファクタリングが貸付けに当たるかどうかが争われた裁判例 判断の枠組みと考慮されている要素

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ファクタリングを利用しているところ、給与ファクタリングは貸付けに当たるとした最高裁判所の判断が報じられ、自社の取引も違法になったのではないか、支払った手数料を取り戻せるのではないかと考え始めた。

本記事は、事業者向けのファクタリングを利用しており、給与ファクタリングに関する最高裁判所の判断が自社の取引に及ぶのかを確認したい事業者の方に向けたものです。

この判断は、賃金は直接労働者に支払わなければならないという給与債権に特有の事情を前提とするものであり、売掛先から直接に回収することが予定されている事業者向けのファクタリングにそのまま及ぶものではありません。取引の性質を争う場合は、契約の内容及び運用の実態に関する具体的な事実によることとなります。以下、順にご説明します。

いわゆる給与ファクタリングについては、最高裁判所第三小法廷令和5年2月20日決定(刑集77巻2号13頁)が、貸金業法第2条第1項及び出資法第5条第3項にいう「貸付け」に当たる旨を判示しています。

この判断は、報道等において広く取り上げられました。もっとも、その射程については誤解が見られます。事業者向けのファクタリングについても同様の結論となると理解されている例が少なくありません。

本ページでは、この判断の内容と、事業者向けのファクタリングとの区別を整理します。個別の事案における結果を保証するものではありません。

判断の内容

当該事件は、給与債権を譲り受け、その対価を交付するという取引を業として行っていた者について、貸金業法及び出資法の違反の成否が問題となったものです。

最高裁判所第三小法廷は、貸金業法第2条第1項及び出資法第5条第3項にいう「貸付け」には、金銭の交付と返還の合意が実質的に認められる金銭の交付が含まれると解したうえで、当該取引がこれに当たる旨を判示しました。

その理由として示されているのは、賃金は直接労働者に支払わなければならないものとされていること(労働基準法第24条第1項)から、譲受人が使用者に対して直接に支払を求めることが予定されていないという点です。

すなわち、給与債権の譲受人は、使用者に対して支払を請求することができません。したがって、譲受人が資金を回収する方法は、労働者が使用者から賃金の支払を受け、これを譲受人に交付することによるほかありません。この仕組みは、実質において、労働者に対する金銭の交付と、その返還の合意にほかならないと判断されたものです。

事業者向けのファクタリングとの区別

この判断は、給与債権に特有の事情を前提とするものです。事業者が有する売掛債権を対象とする事業者向けのファクタリングとは事案を異にしますので、この判断がそのまま及ぶものではありません。

事業者向けのファクタリングにおいては、譲受人が売掛先に対して債権譲渡の通知をし、売掛先から直接に支払を受けることが、法律上も実務上も予定されています(民法第467条第1項)。実際に、引渡しが遅滞した場合には通知が送付され、譲受人が売掛先から直接に回収する例が数多くあります。

したがって、譲受人が資金を回収する方法が譲渡人による引渡しに限られるという、給与ファクタリングにおける前提が当てはまりません。この点が、区別の核心です。

ファクタリングは売掛債権の売買であり、金銭の貸付けではありませんので、貸金業法、利息制限法及び出資法の適用はありません。したがって、手数料の水準が高いことのみを理由として、これらの法令に違反するということにはなりません。もっとも、売買の形式が採られていても、その実質において金銭の貸付けと同視すべきであると判断された下級審裁判例がありますので、契約の内容及び運用の実態によっては、別途の検討を要します。

この判断から事業者向けの事案について読み取ることのできる事柄

第1に、形式が売買であることのみによって、貸金に関する法令の適用が当然に排除されるわけではないという点です。実質に即した判断がされ得ることが示されています。

第2に、判断の基準として重視されているのが、譲受人が第三債務者から直接に回収することが予定されているかどうかであるという点です。事業者向けの事案において取引の性質を争う場合には、この観点からの主張が考えられます。

第3に、他方で、事業者向けの取引においては、譲受人が売掛先から直接に回収することが法律上も実務上も予定されていますので、給与ファクタリングと同列に論じることはできないという点です。

この判断から読み取ってはならない事柄

第1に、事業者向けのファクタリングが一般に違法であるということは、この判断から読み取ることができません。

第2に、手数料の水準が高いことのみを理由として、貸金に関する法令の適用があるということも、読み取ることができません。判断の理由は、賃金の支払に関する規律を前提とする仕組みの分析にあります。

第3に、事業者向けのファクタリングについて、過払金の返還を請求することができるということも、読み取ることができません。

事業者向けの事案において取引の性質を争う場合

事業者向けの事案において、実質において金銭の貸付けと同視すべきであると主張する場合には、この判断を援用するのではなく、契約の内容及び運用の実態に関する具体的な事実によることとなります。

主として問題とされているのは、回収不能の危険が譲渡人に残る仕組みとなっているかどうか、売掛先の信用の調査がされているかどうか、担保又は保証が徴求されているかどうか、譲渡の対象が具体的に特定されているかどうか、資金の授受の態様が返済に類似しているかどうかです。

これらは、いずれか1つが認められれば直ちに貸付けと同視されるというものではありません。取引全体を通じて判断されます。

当該決定に至るまでの経緯

いわゆる給与ファクタリングは、労働者が使用者に対して有する賃金債権を譲り受け、その対価を交付するという形式の取引です。平成30年頃から利用が広がり、これに伴い、多重債務に類する状態に陥る利用者が生じました。

金融庁は、給与ファクタリングとして行われる取引が貸金業に該当し得る旨の見解を示し、無登録での営業について注意を促しました。これを受けて、下級審においても、金銭の貸付けに当たるものとして判断する裁判例が現れました。

そのうえで、最高裁判所第三小法廷令和5年2月20日決定(刑集77巻2号13頁)が、貸金業法第2条第1項及び出資法第5条第3項にいう「貸付け」に当たる旨を判示し、この点についての判断が確定しました。

この経緯において一貫して問題とされたのは、譲受人が使用者に対して直接に支払を求めることが予定されていないという、給与債権に特有の事情です。手数料の水準の高さは、問題の背景として指摘されたものの、判断の直接の理由とはされていません。

事業者向けの取引において主張を組み立てる場合

第1に、当該決定を援用しないことです。事案を異にしますので、援用しても説得力を持ちません。

第2に、契約の内容及び運用の実態に関する具体的な事実によることです。回収不能の危険の所在、売掛先の信用の調査の有無、担保及び保証の徴求の有無、譲渡の対象の特定の程度、資金の授受の態様が中心となります。

第3に、譲受人が売掛先から直接に回収することが予定されているかどうかを検討することです。契約書において通知の送付が予定されているにもかかわらず、実際には一度も送付されていない場合、又は通知書の預託が形式的なものにとどまる場合には、この点を主張する余地があります。

第4に、事案に即した下級審裁判例を探すことです。事業者向けの取引について判断した裁判例のうち、契約の内容が近いものを検討します。

第5に、立証の負担を見積もることです。運用の実態を示す資料の多くは業者の手元にありますので、文書提出命令の申立て(民事訴訟法第221条第1項)を含めて検討する必要があります。

報道及び解説記事を読む際の留意点

第1に、対象が給与債権であるか売掛債権であるかを確認してください。両者が区別されずに扱われることがあります。

第2に、判断の理由が記載されているかどうかを確認してください。結論のみを引用した紹介では、射程を把握することができません。

第3に、「ファクタリングは違法である」という表現に接した場合には、いかなる類型について述べているのかを確認してください。

第4に、過払金の返還請求が可能である旨の記述に接した場合には、その前提が給与ファクタリングであるかどうかを確認してください。

第5に、ご自身の契約書の条項と、記述の前提とが一致しているかどうかを確認してください。

判断の射程を確認する際の要点

第1に、判断の対象となった法令の条項です。当該決定は、貸金業法第2条第1項及び出資法第5条第3項にいう「貸付け」の解釈に関するものです。

第2に、判断の前提となった事実です。賃金は直接労働者に支払わなければならないものとされていること(労働基準法第24条第1項)が前提とされています。

第3に、当該前提がご自身の事案に当てはまるかどうかです。事業者が有する売掛債権を対象とする取引においては、当てはまりません。

第4に、判断がされていない事項です。当該決定は、事業者向けのファクタリングについて判断したものではありません。

第5に、したがって、事業者向けの事案においては、契約の内容及び運用の実態に関する具体的な事実によることとなります。

本ページの位置付け

本ページは、給与ファクタリングに関する最高裁判所第三小法廷令和5年2月20日決定(刑集77巻2号13頁)について、判示の内容と事業者向けファクタリングとの区別を整理したものです。

当該決定は、給与債権に特有の事情を前提とするものであり、事業者が有する売掛債権を対象とする事業者向けのファクタリングにそのまま及ぶものではありません。

事業者向けの事案において取引の性質を争う場合には、契約の内容及び運用の実態に関する具体的な事実によることとなります。

いま確認していただきたいこと

1 ご自身の取引が、給与債権を対象とするものか、事業者が有する売掛債権を対象とするものかを確認してください。

2 契約書に、買戻し又は償還請求に関する条項があるかどうかを確認してください。

3 譲受人が売掛先から直接に回収することが予定されているかどうかを確認してください。

4 連帯保証、担保の差入れの有無を確認してください。

5 取引の記録を、通帳により整理してください。

よくあるご質問

この判断により、事業者向けのファクタリングも違法となりましたか。

なっていません。給与債権に特有の事情を前提とする判断ですので、事業者向けのファクタリングにそのまま及ぶものではありません。

この判断を援用して過払金の返還を求めることはできますか。

事業者向けの取引については、この判断を援用することは適切ではありません。契約の内容及び運用の実態に関する具体的な事実によることとなります。

刑事事件の判断が、民事の事件にも影響しますか。

当該判断は、貸金業法及び出資法にいう「貸付け」の解釈に関するものです。民事の事件においても、解釈の参考とされることがあります。もっとも、事案を異にする場合には、そのまま及ぶものではありません。

給与ファクタリングを利用してしまいました。

事案の内容によって取扱いが異なりますので、契約書及び取引の記録をご持参のうえご相談ください。

事業者向けの取引でも、争える場合はありますか。

契約の内容及び運用の実態によっては、争う余地があります。もっとも、現に取引が継続している場合には、順序の判断を要します。

報道では、ファクタリングは違法であると書かれていました。

給与ファクタリングと事業者向けのファクタリングとが区別されずに扱われることがあります。ご自身の取引がいずれに当たるかを確認してください。

おわりに

最高裁判所第三小法廷令和5年2月20日決定は、給与債権に特有の事情を前提として、給与ファクタリングが貸金業法及び出資法にいう「貸付け」に当たる旨を判示したものです。

事業者向けのファクタリングは、譲受人が売掛先から直接に回収することが予定されている点において、仕組みが根本的に異なります。したがって、この判断がそのまま及ぶものではありません。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

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ご留意事項

本ページの記載は、給与ファクタリングに関する最高裁判所の判断に関する一般的な法制度及び当事務所の取扱いの説明であり、個別の事案について一定の結果を保証するものではありません。見通し、要する期間、回収し又は負担する金額その他の帰結は、事案ごとの事実関係及び資料によって異なります。

また、課税関係につきましては税理士の職域ですので、当事務所において判断することはいたしません。税務上の取扱いについては、顧問税理士にご確認ください。

法令の改正、裁判例の集積により内容が変わる場合には、記載を改めます。実際のご依頼に際しましては、必ず個別にご相談ください。ご相談の内容は、弁護士法上の守秘義務に基づき秘密を厳守いたします。

出典

  • 最高裁判所第三小法廷令和5年2月20日決定(刑集77巻2号13頁)
  • 民法第467条第1項
  • 貸金業法第2条第1項
  • 出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律第5条第3項
  • 労働基準法第24条第1項
  • 利息制限法第1条

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件に関与し、平成23年には最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得ております。現在は弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士を務めております。

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