ファクタリングにおける債権譲渡の通知 対抗要件の仕組みと売掛先への影響及び対応の方法

この記事の位置付け
債権譲渡をめぐる論点は、対抗要件の仕組みを確かめる場面と、売掛先に知られた後の影響へ対応する場面とに分かれますので、次のとおり切り分けます。本ページは、通知による対抗要件の仕組みと売掛先への影響及び対応を扱います。
同じ主題を扱う関連ページ
- ▶ ファクタリングが取引先に知られる経路と、知られた場合の影響及び対応
- ▶ 債権譲渡通知書への署名押印を求められる理由 法律上の意味と確認すべき事項
- ▶ 売掛先が売掛金を供託した場合 供託の原因、還付請求権の帰属及び供託金還付同意書の意味
- ▶ ファクタリング業者から登記に関する委任状を求められる理由と確認すべき事項
- ▶ ファクタリングに際して株式の担保を求められる理由と、実行された場合に生じる効果
- ▶ 債権譲渡に関する民法の改正とファクタリングの実務 譲渡制限特約、将来債権及び抗弁の取扱い
- ▶ ファクタリングと債権譲渡登記 登記の効力、外部に知られる範囲及び抹消をめぐる問題
- ▶ 債権譲渡の通知が取引先に届いた後 確認すべき事項と売掛先に対する説明の方法
ファクタリングを利用している事業者の方から、業者に対し、取引先へ債権譲渡の通知を送ると告げられたというご相談を数多くお受けしています。通知が送付されますと、取引先との関係に直ちに影響が及びますので、この局面では、通知の仕組みを正確に理解したうえで対応を組み立てる必要があります。
本ページでは、債権譲渡の通知の法律上の意味、通知が送付される場面、通知により生じる影響及び採り得る対応を、民法の規定に即して整理します。
債権譲渡の通知の法律上の意味
債権の譲渡は、譲渡人と譲受人との間の合意によって効力を生じます。もっとも、譲渡人が債務者に対して譲渡の通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができないものとされています(民法第467条第1項)。
ここでいう通知は、譲渡人がするものです。譲受人であるファクタリング業者が自らの名で通知をしても、対抗要件としての効力は生じません。そのため、実務では、契約の締結に際して、譲渡人の名義による通知書に署名押印を求め、業者がこれを保管する取扱いが広く行われています。
また、債務者以外の第三者に対抗するためには、通知又は承諾が確定日付のある証書によってされることを要します(民法第467条第2項)。このため、通知は内容証明郵便によって送付されることが一般です。
なお、法人が金銭債権を譲渡する場合には、債権譲渡登記によって第三者対抗要件を備えることができます(動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律第4条第1項)。この場合、債務者に対する対抗要件は、登記事項証明書を交付して通知することにより備えられます(同条第2項)。
通知が送付される場面
2社間ファクタリングにおいては、譲渡人が売掛先から売掛金を回収し、これを業者へ引き渡す取扱いが一般です。この仕組みは、売掛先に譲渡の事実を知られないという利点がある一方で、業者にとっては回収の確実性が低いという性質を有します。
そのため、業者は、次のような事情が生じた場合に、通知の送付を検討します。
- 譲渡人から業者への引渡しが遅滞した場合
- 譲渡人と連絡を取ることができなくなった場合
- 譲渡の対象とされた債権の存否又は金額に疑いが生じた場合
- 同一の債権が他の業者へも譲渡されている疑いが生じた場合
- 譲渡人の資金繰りが悪化し、回収した資金が他の支払に充てられるおそれが生じた場合
通知の送付は、譲受人が有する権利の行使です。契約に定められた要件を満たす限り、送付それ自体が違法となるものではありません。もっとも、送付の時期及び方法については、協議の余地が残されていることが少なくありません。
通知が送付された場合に生じる影響
第1に、売掛先は、譲受人である業者に対して支払をしなければならなくなります。通知を受けた後に譲渡人へ支払をしても、原則として譲受人に対抗することができません。
第2に、売掛先は、取引の相手方が資金繰りに窮しているとの判断をすることがあります。その結果、取引の縮小、支払条件の変更又は取引の停止に至ることがあります。
第3に、売掛先において、譲受人との連絡、支払先の変更、社内の稟議その他の事務上の負担が生じます。この負担が、取引関係に影響することがあります。
第4に、同一の債権について複数の通知が到達した場合には、売掛先は誰に支払うべきかを判断することができなくなります。この場合、売掛先は、債権者を確知することができないことを理由として供託をすることができます(民法第494条第2項)。
売掛先を失いますと、資金繰りの再建そのものが困難になります。したがって、通知への対応は、単に業者との交渉の問題にとどまらず、事業の継続に直結する問題です。
通知の送付を避けるために採り得る対応
第1に、引渡しが遅滞する見込みが生じた段階で、遅滞の理由、入金の見込み及び履行することのできる支払の内容を、資料を添えて業者へ説明することです。連絡を絶つことは、通知の送付を早めます。
第2に、支払の方法について具体的な提案をすることです。業者にとっての目的は多くの場合に金銭の回収ですので、履行することのできる内容が示されれば、通知の送付を留保する判断がされることがあります。
第3に、複数の業者と取引がある場合には、対応の順序を定めることです。1つの業者への対応が他の業者に伝わることがありますので、全体を把握したうえで進める必要があります。
第4に、既に通知が送付された場合には、売掛先に対する説明の方法を検討することです。事実を伏せることは、かえって信用を損ないます。
いずれの対応についても、結果を保証することはできません。通知の送付は譲受人の権利の行使ですので、業者がこれを行うことを妨げる法律上の根拠は、原則として存在しません。
通知が送付された場合の売掛先の立場
通知を受けた売掛先は、譲受人に対して支払をしなければならなくなります。もっとも、売掛先の側にも、確認すべき事項と、主張することのできる事項があります。この点を理解しておくことは、売掛先に対する説明を組み立てる際に有用です。
第1に、売掛先は、通知が譲渡人の名義によりされているかどうかを確認します。譲受人が自らの名でした通知には、対抗要件としての効力が認められません。
第2に、売掛先は、通知の到達の前に譲渡人へ支払をしていた場合には、これをもって譲受人に対抗することができます(民法第468条第1項)。
第3に、売掛先は、譲渡人に対して反対債権を有する場合には、対抗要件具備時より前に取得した債権による相殺をもって譲受人に対抗することができます(同法第469条第1項)。
第4に、売掛先は、譲渡を制限する旨の意思表示をしていた場合において、譲受人が悪意又は重大な過失であるときは、履行を拒むことができます(同法第466条第3項)。
第5に、売掛先は、複数の通知が到達し、誰に支払うべきかを判断することができないときは、供託をすることができます(同法第494条第2項)。
売掛先は、これらの検討を社内で行う必要が生じます。この事務上の負担が、取引関係に影響します。したがって、譲渡人の側からの説明においては、売掛先が判断に要する事項をあらかじめ整理して示すことが有効です。
売掛先に対する説明の組み立て方
第1に、事実を伏せないことです。事実と異なる説明をしますと、後に判明した場合に信用を失います。
第2に、支払先を明確にすることです。売掛先にとって最も重要な関心は、誰に支払えば免責されるかという点です。この点について明確な回答を示すことが、事務上の負担を軽減します。
第3に、今後の取引の見込みを示すことです。納品、役務の提供に支障が生じないことを、具体的な体制とともに説明します。
第4に、説明の相手方と順序を定めることです。担当者に先に伝えるか、責任者に先に伝えるかによって、その後の展開が異なります。
第5に、書面を用いることです。口頭のみの説明は、社内で正確に伝わりません。
通知の送付を巡る交渉の実際
第1に、交渉の相手方です。業者の担当者に権限がない場合には、協議が進みません。決裁の権限を有する者との協議を求めることが有効です。
第2に、交渉の材料です。履行することのできる支払の内容、売掛先との取引が継続していること、他の業者との間で協議が調っていることが材料となります。
第3に、期間の限定です。無期限の留保を求めるのではなく、一定の期間を区切って留保を求める方が、応じられやすい傾向があります。
第4に、書面による確認です。協議が調った場合には、留保の内容を書面により確認してください。口頭による約束は、担当者の変更により失われます。
第5に、履行の状況の報告です。留保の前提となった支払が履行されない場合には、直ちに送付されます。
第6に、過大な負担を引き受けないことです。通知を避けることを条件として、新たな連帯保証、担保の差入れ、公正証書の作成に応じますと、かえって選択肢が失われます。
通知に関する用語の整理
債権譲渡の通知は、譲渡人が債務者に対して、債権を譲渡した旨を知らせるものです(民法第467条第1項)。これに対し、債権譲渡登記は、法人が金銭債権を譲渡する場合に第三者対抗要件を備えるための制度です(動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律第4条第1項)。両者は別個のものであり、登記がされたことのみによって売掛先に通知がされるものではありません。
また、承諾は、債務者が譲渡の事実を認識した旨を表示するものであり、通知と同じ効果を生じます。3社間の取引においては、承諾を得る方法によることが一般です。
これらの用語は、ご相談において混同されることが少なくありません。契約書における用語の意味を確認したうえで、対応を検討してください。
いま確認していただきたいこと
1 債権譲渡契約書において、通知の送付の要件がどのように定められているかを確認してください。
2 通知書に署名押印をして業者へ交付しているかどうかを確認してください。
3 債権譲渡登記がされているかどうかを、登記事項概要証明書により確認してください。
4 売掛先ごとに、譲渡した債権の内容と残額を整理してください。
5 業者との連絡の記録を保全してください。
よくあるご質問
業者が自らの名義で通知を送ってきました。効力はありますか。
債務者に対する対抗要件としての通知は、譲渡人がするものとされています(民法第467条第1項)。譲受人が自らの名で通知をしても、対抗要件としての効力は生じません。もっとも、譲受人が譲渡人を代理して通知をすることは可能であるとされていますので、代理権の有無を含めて個別に検討する必要があります。
通知を撤回してもらうことはできますか。
撤回に応じるかどうかは業者の判断によります。既に送付された通知の効力を一方的に消滅させる法律上の手段はありません。売掛先に対する説明を含めて、対応を検討することになります。
通知が届いた売掛先から問合せを受けました。どのように説明すべきでしょうか。
事実関係を正確に伝えたうえで、支払先、今後の取引の見込み及び対応の方針を説明することになります。説明の内容及び順序については、あらかじめ整理しておく必要があります。
債権譲渡登記がされていますが、売掛先には知られていないのでしょうか。
登記事項概要証明書は誰でも取得することができますが、登記事項証明書の交付を請求することができる者は限られています。もっとも、売掛先が調査を行った場合には、譲渡の事実を把握することがあります。
通知を止めることを条件に、新たな契約に署名するよう求められています。
内容を確認しないまま署名しますと、負担が重くなり、又は直ちに強制執行を受ける状態となることがあります。署名の前にご相談ください。
おわりに
債権譲渡の通知は、譲受人が有する権利の行使であり、これを妨げる法律上の根拠は原則として存在しません。もっとも、送付の時期及び方法については協議の余地が残されていることが少なくありません。連絡を絶つことなく、履行することのできる内容を資料に基づいて提示することが、結果として最も有効な対応です。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
債権譲渡の通知に関するご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)
ご留意事項
本ページの記載は、債権譲渡の通知に関する一般的な法制度及び当事務所の取扱いの説明であり、個別の事案について一定の結果を保証するものではありません。見通し、要する期間、回収し又は負担する金額その他の帰結は、事案ごとの事実関係及び資料によって異なります。
また、課税関係につきましては税理士の職域ですので、当事務所において判断することはいたしません。税務上の取扱いについては、顧問税理士にご確認ください。
法令の改正、裁判例の集積により内容が変わる場合には、記載を改めます。実際のご依頼に際しましては、必ず個別にご相談ください。ご相談の内容は、弁護士法上の守秘義務に基づき秘密を厳守いたします。
出典
- 民法第467条第1項及び第2項、第494条第2項
- 動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律第4条第1項及び第2項
具体的なご相談をお考えの皆様へ
本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページに整理しています。あわせてご覧ください。


