給与ファクタリングをめぐる摘発の報道とは?事業者向けファクタリングとの仕組みの違い

この記事の位置付け
ファクタリングの適法性は、債権の売買として扱われる場面と、金銭の貸付けと判断される場面とに分かれますので、次のとおり切り分けます。本ページは、摘発の報道から読み取ることのできる仕組みの違いを扱います。
▶ ファクタリングが貸付けに当たるかどうかが争われた裁判例 判断の枠組みと考慮されている要素
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本記事は、給与ファクタリングをめぐる摘発の報道に接し、ご自身が利用している事業者向けのファクタリングも同じように扱われるのではないかと不安を覚えている事業者の方に向けたものです。従業員が給与ファクタリングを利用しているようだという使用者の方にもお読みいただけます。
給与ファクタリングは、譲受人が使用者に直接支払を求めることが予定されていない点で、売掛先から直接に回収することができる事業者向けのファクタリングとは仕組みが根本的に異なります。報道から、ご自身の取引について支払を停止してよいと読み取ることはできません。以下、順にご説明します。
いわゆる給与ファクタリングを行っていた事業者の関係者が、貸金業法違反又は出資法違反の疑いにより逮捕された旨の報道がされることがあります。
本ページでは、給与ファクタリングと事業者向けのファクタリングとの違いを、仕組みの面から整理します。両者は同じ名称で呼ばれますが、法律上の枠組みが根本的に異なります。個別の事案における結果を保証するものではありません。
給与ファクタリングの仕組み
給与ファクタリングは、労働者が使用者に対して有する賃金債権を譲り受け、その対価を交付するという形式の取引です。
もっとも、賃金は直接労働者に支払わなければならないものとされています(労働基準法第24条第1項)。したがって、譲受人が使用者に対して直接に支払を求めることは予定されていません。
この結果、譲受人が資金を回収する方法は、労働者が使用者から賃金の支払を受け、これを譲受人に交付することによるほかありません。
最高裁判所第三小法廷令和5年2月20日決定(刑集77巻2号13頁)は、この仕組みを前提として、貸金業法第2条第1項及び出資法第5条第3項にいう「貸付け」に当たる旨を判示しています。
事業者向けのファクタリングの仕組み
事業者向けのファクタリングは、事業者が有する売掛債権を譲り受け、その対価を交付するものです。
債権の譲渡は、譲渡人と譲受人との間の合意によって効力を生じます。譲渡人が債務者に対して譲渡の通知をし、又は債務者が承諾をすれば、債務者その他の第三者に対抗することができます(民法第467条第1項)。
したがって、譲受人は、売掛先に対して直接に支払を求めることができます。実際に、引渡しが遅滞した場合には通知が送付され、譲受人が売掛先から直接に回収する例が数多くあります。
この点において、給与ファクタリングとは仕組みが根本的に異なります。ファクタリングは売掛債権の売買であり、金銭の貸付けではありませんので、貸金業法、利息制限法及び出資法の適用はありません。したがって、手数料の水準が高いことのみを理由として、これらの法令に違反するということにはなりません。もっとも、売買の形式が採られていても、その実質において金銭の貸付けと同視すべきであると判断された下級審裁判例がありますので、契約の内容及び運用の実態によっては、別途の検討を要します。
両者の対比
| 比較の基準 | 給与ファクタリング | 事業者向けファクタリング |
| 譲渡の対象 | 労働者の賃金債権 | 事業者の売掛債権 |
| 第三債務者 | 使用者 | 売掛先 |
| 直接の請求 | 予定されていない | 予定されている |
| 根拠となる規律 | 労働基準法第24条第1項 | 民法第467条第1項 |
| 回収の方法 | 労働者による交付に限られる | 売掛先からの直接の回収が可能 |
| 貸金に関する法令 | 「貸付け」に当たる旨の判断がある | 適用はない |
報道に接した場合の留意点
第1に、報道においては、給与ファクタリングと事業者向けのファクタリングとが区別されずに扱われることがあります。ご自身の取引がいずれに当たるかを確認してください。
第2に、逮捕は、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があり、かつ、逮捕の必要があると裁判官が認めた場合に、令状によって行われるものです(刑事訴訟法第199条)。逮捕がされたことは、有罪の判断がされたことを意味しません。
第3に、報道された事案とご自身の取引とは、契約の内容及び運用の実態が異なります。ご自身の取引について同様の判断がされるということは、読み取ることができません。
第4に、支払を停止してよいということも、読み取ることができません。取引の性質が争われる場合であっても、直ちに支払を拒むことができるものではありません。
使用者の立場において問題となる事項
従業員が給与ファクタリングを利用している場合には、使用者の側においても対応が必要となることがあります。
第1に、譲受人から支払を求める通知が届いた場合です。賃金は、直接労働者に支払わなければならないものとされています(労働基準法第24条第1項)。したがって、譲受人に対して支払をすることは、この規律との関係で問題となります。
第2に、従業員に対する対応です。私生活上の事柄ですので、直ちに人事上の措置の対象となるものではありません。他方で、業務に支障が生じている場合には、事情を確認する必要があります。
第3に、社内における相談の窓口です。同種の問題が複数の従業員に生じている場合には、相談の窓口を設けることが考えられます。
第4に、賃金の前払の制度です。労働者が出産、疾病、災害その他の非常の場合の費用に充てるために請求する場合には、支払期日前であっても、既往の労働に対する賃金を支払わなければならないものとされています(同法第25条)。
第5に、記録の保全です。譲受人からの連絡があった場合には、日時、相手方、内容を記録してください。
両者を混同した場合に生じる不利益
第1に、事業者向けの取引について、給与ファクタリングに関する判断を援用して支払を拒みますと、その主張は認められず、遅滞による損害金が加算されます。
第2に、売掛先に対する債権譲渡の通知が送付され、取引関係が失われることがあります。
第3に、業者が法的手続に着手し、訴訟の費用を負担することとなります。
第4に、協議による解決の機会を失います。業者にとっての目的は多くの場合に金銭の回収ですので、履行することのできる内容を提示すれば協議が調う余地があります。
第5に、いずれにしても、ご自身の取引がいずれの類型に当たるかを確認したうえで、方針を定めることが必要です。
本ページの位置付け
本ページは、給与ファクタリングをめぐる摘発の報道に接した事業者の方に向けて、給与ファクタリングと事業者向けのファクタリングとの仕組みの違いを整理したものです。
両者は、名称は同じですが、譲受人が第三債務者に対して直接に支払を求めることが予定されているかどうかという点において、仕組みが根本的に異なります。
ご自身の取引がいずれに当たるかを確認したうえで、契約書の条項と取引の記録に基づいて判断してください。
事業者向けの取引について不安がある場合の確認の順序
第1に、契約書の全文を用意してください。基本契約書と個別契約書の双方が必要です。
第2に、通帳の記録により、実際に受領した金額と引き渡した金額を取引ごとに確認してください。
第3に、負担を年率に引き直し、直近1年間の合計を営業利益と比較してください。
第4に、買戻し又は償還の事由の範囲を確認してください。
第5に、債権譲渡登記の有無を、登記事項概要証明書により確認してください。
第6に、以上を整理したうえでご相談ください。報道の内容ではなく、ご自身の資料に基づいて検討することが確実です。
事業者向けファクタリングを利用している方が確認すべき事項
第1に、譲渡の対象が何であるかです。賃金債権を対象とする取引と、事業者が有する売掛債権を対象とする取引とでは、法律上の枠組みが根本的に異なります。
第2に、契約書における買戻し又は償還の事由の範囲です。売掛先の支払能力の欠如を事由とする場合には、回収不能の危険が譲渡人に残ることとなり、取引の性質が争われる場合において重視される要素の1つとなります。
第3に、契約に至る過程で提出を求められた資料の内容です。売掛先に関する資料の提出が求められず、専ら譲渡人及び代表者に関する資料の提出を求められた場合には、譲受人が実際に依拠しているのが譲渡人の資力であることがうかがわれます。
第4に、連帯保証、担保の差入れ、手形の差入れの有無です。譲渡人の資力を前提とする担保が徴求されている場合には、同様の問題が生じます。
第5に、資金の授受の態様です。債権買取代金が一括して交付されているかどうか、返済に相当する入金が定期的に行われているかどうかを、通帳の記録により確認してください。
第6に、取引の反復の状況です。同一の当事者間で取引が反復し、実質において与信の枠として機能している場合には、継続的な資金の融通としての性質が強くなります。
取引の相手方が捜査の対象となった場合の実務上の影響
第1に、業者との連絡が取れなくなることがあります。この場合であっても、支払の義務が消滅するものではありません。書面により連絡し、その記録を保全してください。
第2に、譲渡した債権の帰属が不明確となることがあります。売掛先から問合せを受けた場合には、事実関係を確認したうえで対応することとなります。
第3に、債権譲渡登記が抹消されないまま残ることがあります。抹消の申請は、原則として譲渡人と譲受人が共同してすることとなりますので、譲受人の協力が得られない場合には、抹消の登記手続を求める訴えを提起することとなります。
第4に、参考人として事情の聴取を受けることがあります(刑事訴訟法第223条第1項)。この場合には、取引の記録を整理したうえで臨む必要があります。
第5に、金融機関からの借入れの審査に影響することがあります。
第6に、他の業者との取引にも影響することがあります。同一の売掛先に対する債権について債権譲渡登記が残っている場合には、他の業者による取引が困難となります。
事業者の方が確認すべき事項
1 譲渡の対象が、賃金債権であるか、事業者が有する売掛債権であるかを確認してください。
2 契約書に、買戻し又は償還請求に関する条項があるかどうかを確認してください。
3 譲受人が売掛先から直接に回収することが予定されているかどうかを確認してください。
4 連帯保証、担保の差入れの有無を確認してください。
5 取引の記録を、通帳により整理してください。
よくあるご質問
両者は同じものではないのですか。
名称は同じですが、譲渡の対象、第三債務者に対する直接の請求の可否、根拠となる規律が異なります。法律上の枠組みが根本的に異なります。
事業者向けの取引も摘発されることがありますか。
取引の実質が金銭の貸付けであると認められる場合には、貸金業法及び出資法の適用が問題となります。もっとも、判断は、契約の内容及び運用の実態に関する具体的な事実に基づいて行われます。
報道された業者と取引しています。
契約書及び取引の記録を整理したうえで、対応を検討してください。支払の義務が当然に消滅するものではありません。
従業員が給与ファクタリングを利用しているようです。
使用者としての対応については、賃金の支払に関する規律を踏まえて検討する必要があります。個別にご相談ください。
使用者に対して支払を求める通知が届きました。
賃金は直接労働者に支払わなければならないものとされています。対応については、記録を整理したうえでご相談ください。
自分の取引が違法かどうかを確認したいです。
契約書及び取引の記録をご持参ください。契約の内容及び運用の実態から確認することのできる事項を整理いたします。
おわりに
給与ファクタリングと事業者向けのファクタリングとは、名称は同じですが、譲受人が第三債務者に対して直接に支払を求めることが予定されているかどうかという点において、仕組みが根本的に異なります。
報道に接した場合には、ご自身の取引がいずれに当たるかを確認したうえで、契約書の条項と取引の記録に基づいて判断してください。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
給与ファクタリングと事業者向けファクタリングに関するご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)
ご留意事項
本ページの記載は、給与ファクタリングと事業者向けファクタリングの区別に関する一般的な法制度及び当事務所の取扱いの説明であり、個別の事案について一定の結果を保証するものではありません。見通し、要する期間、回収し又は負担する金額その他の帰結は、事案ごとの事実関係及び資料によって異なります。
また、課税関係につきましては税理士の職域ですので、当事務所において判断することはいたしません。税務上の取扱いについては、顧問税理士にご確認ください。
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出典
- 民法第467条第1項
- 労働基準法第24条第1項
- 刑事訴訟法第199条
- 貸金業法第2条第1項
- 出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律第5条第3項
- 利息制限法第1条
- 最高裁判所第三小法廷令和5年2月20日決定(刑集77巻2号13頁)
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