回収した売掛金をファクタリング業者へ引き渡さなかったとき 横領罪の成否と対応の順序

否定の印を指し示すスーツ姿の男性

この記事の位置付け

不正な債権譲渡をめぐる問題は、民事上の責任が問われる場面と、刑事上の責任が問われる場面とに分かれますので、次のとおり切り分けます。本ページは、回収金を引き渡さなかった場合の横領罪の成否を扱います。

▶ 架空債権によるファクタリングをしてしまったとき 民事上の責任と刑事上の責任及び対応の順序

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ファクタリング業者へ譲渡した売掛債権について、売掛先から入金があったにもかかわらず、その資金を業者へ引き渡すことができなかった。他の支払に充ててしまった。このようなご相談を、当事務所は数多くお受けしています。

2社間ファクタリングにおいては、譲渡人が売掛先から回収した資金を業者へ引き渡す取扱いが一般です。この場合、回収した資金は、既に譲受人に帰属している債権の弁済として受領したものですので、譲渡人にとっては他人の金銭です。これを他の支払に充てる行為は、民事上の責任にとどまらず、刑事上の責任が問題となります。

本ページでは、回収した資金を引き渡さなかった場合に問題となる責任の内容、業者の側の対応、採り得る対応の順序、及び時間の経過によって失われるものを整理します。個別の事案における結果を保証するものではありません。

回収した資金の法律上の位置付け

債権の譲渡は、譲渡人と譲受人との間の合意によって効力を生じます。したがって、譲渡の時点で、当該売掛債権は譲受人に帰属します。もっとも、売掛先に対する通知又は売掛先の承諾がなければ、債務者その他の第三者に対抗することができません(民法第467条第1項)。

2社間ファクタリングにおいては、通知がされませんので、売掛先は譲渡人に対して支払をします。この支払は、売掛先にとっては有効な弁済となります。他方で、譲渡人が受領した資金は、譲受人に帰属する債権の弁済として受領したものです。

債権譲渡契約書には、回収した資金を分別して管理し、直ちに、又は定められた期日までに譲受人へ引き渡す旨が定められていることが一般です。この定めがある場合には、譲渡人は、当該資金について委託を受けて占有する者となります。

ファクタリングは売掛債権の売買であり、金銭の貸付けではありませんので、貸金業法、利息制限法及び出資法の適用はありません。したがって、手数料の水準が高いことのみを理由として、これらの法令に違反するということにはなりません。もっとも、売買の形式が採られていても、その実質において金銭の貸付けと同視すべきであると判断された下級審裁判例がありますので、契約の内容及び運用の実態によっては、別途の検討を要します。取引の性質が争われる場合には、資金の帰属についての評価も異なり得ます。

刑事上の責任

横領罪及び業務上横領罪

自己の占有する他人の物を横領した者は、横領罪により処罰されます(刑法第252条第1項)。業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、業務上横領罪により処罰されます(同法第253条)。

横領罪が成立するためには、(1)自己が占有する物であること、(2)当該物が他人の物であること、(3)委託に基づく占有であること、(4)不法領得の意思の発現たる行為があること、及び(5)故意があることを要します。

金銭については、封金等の特定物として預かった場合を除き、占有と所有が一致するのが原則です。もっとも、使途を定めて委託された金銭については、他人の物として横領罪の客体となるものと解されています。契約書において分別管理の義務が定められている場合には、この点が問題となります。

他方で、契約書に分別管理の義務が定められておらず、単に一定の期日までに一定の金額を支払う旨が定められているにとどまる場合には、単なる債務不履行にとどまるとの評価もあり得ます。契約の文言及び運用の実態に応じた検討を要します。

詐欺罪

回収した資金を引き渡す意思がないにもかかわらず、これを秘して新たな譲渡を行い、債権買取代金を受領した場合には、詐欺罪(刑法第246条第1項)の成否が問題となります。

また、既に他の業者へ譲渡した債権であることを秘して重ねて譲渡した場合にも、同様の問題が生じます。

民事上の責任

第1に、引渡しの請求です。譲受人は、契約に基づき、回収した資金の引渡しを求めることができます。

第2に、損害の賠償です。引渡しの遅滞により生じた損害の賠償が問題となります。契約書に損害金及び違約金の定めがある場合には、これに従うこととなります。

第3に、期限の利益の喪失です。一定の事由が生じた場合に、直ちに全額の支払を求めることができる旨が定められていることが一般です。

第4に、表明及び保証の違反です。回収した資金を分別して管理する旨の合意に反した場合には、契約の解除及び損害の賠償が問題となります。

第5に、代表者個人の責任です。連帯保証がある場合には個人に対する請求がされます。また、会社の代表者としての任務を怠ったことによる責任が問題となることがあります(会社法第429条第1項)。

業者の側の対応

業者が資金の不引渡しを把握する契機としては、支払期日における入金の不履行が最も一般的です。売掛先に対する照会により、既に支払がされていることが判明する場合もあります。

業者が採る対応としては、売掛先に対する債権譲渡の通知の送付、資金の引渡しの請求、訴訟の提起、仮差押命令の申立て、そして刑事告訴があります。

資金が既に他の支払に充てられていることが明らかとなった場合には、単なる支払の遅滞と異なる対応が採られる傾向があります。刑事告訴が予告される事案の多くは、この類型です。

もっとも、業者にとっての最終的な目的は、多くの場合に金銭の回収です。したがって、弁償に関する協議の余地は残されていることが少なくありません。

対応の順序

第1に、事実関係を確定します。売掛先からの入金の日付と金額、当該資金を何に充てたかを、通帳の記録に基づいて確定します。記憶に基づく整理では足りません。

第2に、契約書の条項を確認します。分別管理の義務が定められているかどうか、引渡しの期日がどのように定められているかを確認します。

第3に、連絡の窓口を定めます。個別の連絡に場当たり的に応答しますと、その場で述べた内容が後に書面又は録音として証拠化されます。

第4に、弁償に充てることのできる原資を確定します。資金繰りの見込みを作成したうえで、いつまでに、いくらを支払うことができるかを整理します。

第5に、他の業者との関係を整理します。同種の問題が複数の業者との間にある場合には、全体を把握したうえで順序を定める必要があります。

時間の経過によって失われるもの

第1に、被害の弁償及び示談に関する交渉は、業者が刑事告訴を行う前と後とで、条件が大きく異なります。被害の回復に関する事情は、検察官が公訴を提起するかどうかを判断するに当たって考慮される事情の1つとされています(刑事訴訟法第248条)。

第2に、資料は時間の経過とともに失われます。通信アプリケーションの履歴は、機種の変更、保存期間の経過により参照することができなくなることがあります。

第3に、資金繰りが悪化するにつれ、弁償に充てることのできる原資が失われます。

第4に、売掛先に対する債権譲渡の通知が送付されますと、取引を失い、弁償の原資そのものが失われることがあります。

資金の使途の整理の方法

第1に、売掛先からの入金の日付と金額を、通帳の記録により確定します。

第2に、当該入金の後の出金を、日付順に書き出します。相手方、金額、名目を記載します。

第3に、出金の性質を区分します。人件費、仕入代金、公租公課、賃料、他の業者への支払、代表者への貸付け又は返済といった別に整理します。

第4に、事業の継続に不可欠な支払に充てられた部分と、それ以外の部分とを区分します。この区分は、不法領得の意思の有無に関する判断において意味を持ちます。

第5に、代表者個人への支出がある場合には、その理由と時期を確認します。個人的な用途に充てられている場合には、判断が厳しくなります。

第6に、返還に向けた行動の有無を整理します。他の資金を調達して返還しようとした事実、業者へ事情を説明した事実があれば、これを示す資料を保全してください。

業者との協議において示すべき内容

第1に、事実関係です。入金の日付と金額、資金の使途を、通帳の記録に基づいて説明します。事実と異なる説明をしますと、後に判明した場合に信用を失います。

第2に、弁償の見込みです。いつまでに、いくらを支払うことができるかを、資金繰りの見込みに基づいて示します。

第3に、事業の継続の見込みです。事業が継続していれば、将来の売掛債権から弁償がされる見込みがあります。この点を資料により示すことが有効です。

第4に、他の業者との関係です。同種の問題が複数の業者との間にある場合には、全体の配分の考え方を示します。

第5に、再発の防止です。回収金の管理の方法を改めることを示します。

第6に、刑事告訴に関する要望です。弁償が履行されている間は告訴を留保するよう求めます。もっとも、業者に応じる義務はありません。

捜査機関から連絡を受けた場合

第1に、相手方の氏名、所属する警察署の名称及び部署の名称、用件の内容、連絡先の電話番号を確認し、記録してください。

第2に、用件が明らかにされないまま出頭を求められた場合には、その旨を記録し、応答の期限について猶予を求めてください。

第3に、被疑者は、逮捕又は勾留をされている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後何時でも退去することができます(刑事訴訟法第198条第1項ただし書)。

第4に、取調べに際しては、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならないものとされています(同条第2項)。

第5に、被疑者は、いつでも弁護人を選任することができます(同法第30条第1項)。逮捕又は勾留をされていない段階においても選任することができます。

第6に、応答の前にご相談ください。取引の記録を整理したうえで臨む必要があります。

いま確認していただきたいこと

1 売掛先からの入金の日付及び金額を、通帳の記録により確定してください。

2 当該資金を何に充てたかを、支払先ごとに整理してください。

3 債権譲渡契約書における分別管理の義務及び引渡しの期日に関する条項を確認してください。

4 業者の担当者との連絡の記録を保全してください。削除しないでください。

5 売掛先に対する債権譲渡の通知の有無を確認してください。

6 弁償に充てることのできる原資の見込みを整理してください。

7 同種の問題が他の業者との間にもあるかどうかを確認してください。

よくあるご質問

一時的に他の支払に充てただけで、返すつもりでした。

返還の意思があったかどうかは、不法領得の意思の有無に関する重要な事情です。もっとも、意思のみでは足りず、返還することのできる資力があったかどうか、実際に返還に向けた行動をとったかどうかといった客観的な事情が問題となります。

契約書に分別管理の定めがありません。

この場合、単なる債務不履行にとどまるとの評価もあり得ます。契約の文言及び運用の実態に応じた検討を要しますので、契約書をご持参ください。

返済すれば刑事上の問題はなくなりますか。

弁償によって犯罪の成立そのものが否定されるものではありません。もっとも、被害の回復に関する事情は、公訴を提起するかどうかの判断において考慮される事情の1つとされています。

業者から刑事告訴をすると言われました。

告訴は捜査の端緒の1つであり、告訴がされたことによって当然に逮捕がされるものではありません。逮捕は、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があり、かつ、逮捕の必要があると裁判官が認めた場合に、令状によって行われます(刑事訴訟法第199条)。

代表者個人にも責任が及びますか。

連帯保証がある場合には個人に対する請求がされます。また、会社の代表者としての任務を怠ったことによる責任が問題となることがあります。

まだ業者に気付かれていません。

業者から指摘を受ける前の段階が、最も選択肢の広い局面です。この段階でのご相談をお勧めしています。

複数の業者との間で同じ問題があります。

全体を把握したうえで対応の順序を定める必要があります。1つの業者への対応が他の業者に伝わることがあります。

おわりに

回収した資金を引き渡さなかった場合には、刑事上の責任、民事上の責任、売掛先との取引関係及び資金繰りという4つの問題が同時に進行します。いずれか1つだけに対応していますと、他の問題が手遅れになります。

通帳の記録に基づいて事実関係を確定し、契約書の条項を確認し、連絡の窓口を定め、弁償に充てることのできる原資を確定するという順序で進めることが、結果として最も早い解決につながります。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

回収金の不引渡しに関するご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)

出典

  • 民法第415条、第467条第1項
  • 刑法第246条第1項、第252条第1項、第253条
  • 刑事訴訟法第199条、第248条
  • 会社法第429条第1項
  • 貸金業法第2条第1項
  • 利息制限法第1条
  • 出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律第5条

具体的なご相談をお考えの皆様へ

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